【プロジェクトの大きな流れ】PMBOKで使われるプロジェクトの5つのプロセス群

2020年7月20日

プロジェクトの5つのプロセス群の概要

プロジェクトの流れ(5つのプロセス群)のイメージ図

プロジェクトは「独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施する、有期性のある業務である[1]PMBOK第6版、4頁。」と言われるように、創造的な活動であり、決められたものごとをやっていれば成功するというものではありません。
しかし、プロジェクトには大きな流れがあり、その流れをつかんでいれば、次の展開を読みやすくなり、計画や準備をしやすくなります。
PMBOKでは、プロジェクトは5つのプロセス群、つまり5種類の作業工程の集まりで成り立っているとしています。
この5つのプロセス群こそが、プロジェクトの大きな流れを表しています。
ここで、PMBOKで紹介されている5つのプロセス群とそのプロセスの内容を見ていきましょう[2]PMBOK第6版、25頁。

プロジェクトの大きな流れ

Webサイトのリニューアルを例にプロジェクトの流れを追う

ここからはWebサイトのリニューアルを例にして、プロジェクトの大きな流れを追っていきながら、先ほど紹介したプロジェクトの5つのプロセス群の解説をしていきます。

企画からプロジェクトは始まる(プロジェクトの立ち上げ)

プロジェクトは常に企画する人がいて始まります。
Webサイトのリニューアルであれば「このWebサイト、デザインが古くなった」「事業を拡大したいが、サービスを十分に伝えられていない」という問題を感じた人物がWebサイトのリニューアルを企画します。
この企画の承認を得るために、企画者は必要となる費用を計算したり、効果を推計したりして、企画書を作成していきます。そしてこの企画書を稟議に回すなどして、企画の実行の承認を得ます。
PMBOKに従えば、この企画書に当たるのがプロジェクト憲章です。
企画書やプロジェクト憲章を作成し、それをしかるべき人物に認可してもらうことによって、予算を確定したり、必要な人材を確保したりします。
そしていざ企画が承認されれば、企画者が選んだプロジェクト・マネジャー(以下、プロマネ)や企画者自身がプロマネとなり、プロジェクトを進めていくことになります。
例えば、役職の高い人物が企画をした場合はその部下に訓練としてプロジェクトの進行を任せることもありますし、そのまま企画した人物がプロジェクトの進行をすることもあります。
このように、プロジェクトが開始する前段階の活動が立ち上げプロセス群であり、プロジェクト憲章を作成したり、このプロジェクトを実施した時のステークホルダーを特定したりしていきます。

ゴールまでの道筋をつける(プロジェクトの計画)

プロジェクトが始まった後は、プロマネを中心として、プロジェクトのゴールまでの道筋をつけていきます。
孫子の言葉に「勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む」というものがあります。つまり、勝利を得る人は先に勝利までの算段をつけてから戦うけれども、負けてしまう人というのは戦い始めてから「どうやって勝つか?」を考えるというものです。
プロジェクトも同様で、プロジェクトを成功に導くには、先にプロジェクト成功までの道筋をつけてから実際の作業を始めることが大切です。
Webサイトのリニューアルをはじめ、どのようなプロジェクトであっても「完了までのスケジュールはどのくらいか?」「コストはどのくらいか?」「必要な資源は何か?」「どのようなリスクがあるのか?」を考えていきます。
PMBOKでは最終的にこれらの内容はプロジェクトマネジメント計画書にまとめられます。
こうした一連の計画を行うのが計画プロセス群です。PMBOK第6版ではプロジェクトを遂行させるための49のプロセスが紹介されていますが、その内の23のプロセスがこの計画プロセス群に含まれています。
PMBOKの知識を取り入れていないプロジェクトにおいて「計画」といえば、スケジュールの作成やWBSの作成程度に留まってしまいがちです。
しかし、PMBOKでは品質やリスク、コミュニケーションにまで意識を向け、適切な活動ができるように計画を練っていくとしています。

実際に行動に移す(プロジェクトの実行)

プロジェクトのゴールまでの道筋をつけられたら、実際に行動に移していきます。
Webサイトのリニューアルであれば、Webサイトの設計図を作成したり、デザインを作ったり、コーディングを行っていったりします。
実際にこれらの作業をプロマネが行う機会は多くないですが、これらの活動を支えるために、プロマネは必要な資源を調達したり、品質管理の計画をしたりしていきます。
実際に制作指揮を執るというよりは、プロジェクト・メンバーが活動しやすい環境を整えていきます。
こうした実際の作業に入った活動を実行プロセス群と言います。

計画通りに進んでいるか監視する(プロジェクトの監視コントロール)

プロジェクトが進みはじめたら、それと同時に立てられた計画が計画通りに進んでいるのかを監視する必要がでてきます。
Webサイトのリニューアルで言えば、スケジュールに問題はないか、予算を使いすぎていないか、計画していた品質でWebサイトがリニューアルできそうなのかということを監視し、適宜コントロールしていく必要があります。
しかし、常にプロジェクトの状態をチェックしていると、プロジェクト・チームも窮屈になってしまうので「どのような場合が問題なのか」「どういう状態になったら抜本的な見直しが必要なのか」ということを定めておき、プロジェクト・チームの共通認識としていきます。
こうした活動を監視コントロールプロセス群と呼びます。
立ち上げプロセス群、計画プロセス群、実行プロセス群はそれぞれが一連の流れになっています。つまり、立ち上げプロセス群の次に計画プロセス群が始まり、その次に実行プロセス群が始まります。
しかし、監視コントロールプロセス群は計画プロセス群が始まったと同時に並行して開始され、実行プロセス群にまたがって続けられます

成果物が得られた後の始末(終結プロセス)

Webサイトのリニューアル・プロジェクトでWebサイトが完成したとしても、それでプロジェクトは完了したわけではありません。
Webサイトを今回のプロジェクトの成果物として上司や上長に報告したり、プロジェクト中に作成した文書をまとめて、次につなげるノウハウとしたりしていく必要があります。
この成果物が完成した後の活動を終結プロセス群と呼びます。

ITプロジェクトでのPMBOKの効果と限界

PMBOKはプロジェクト特有の問題を解決できない

以上のようなPMBOKで紹介されているプロジェクトの流れは、多くのプロジェクトに共通したものであり、このプロジェクトの流れに大きな異論を唱える人は少ないのではないでしょうか。
しかし、PMBOKの知識だけでは、ITプロジェクトを成功に導くのは難しいでしょう。なぜなら、PMBOKは世界のあらゆるプロジェクトに共通した知識をまとめたものではありますが、プロジェクト特有の問題に対応しているものではないからです。
例えば「店舗にPOSシステムを導入する」というITプロジェクトに対し、PMBOKの知識だけで取り組むと、仕様策定などで窮してしまいます。
もちろんこうした点がPMBOKの価値を損ねるものではありませんが、ITプロジェクトを成功に導くには、専門的なIT知識も不可欠であることを忘れてはなりません。

共通フレームなどによる知識の補強も大切

PMBOKに足りないIT知識を補う1つの方法として、IPAが発刊している共通フレームを使うとよいでしょう。
共通フレームは「システム及びソフトウェア開発とその取引の適正化に向けて、それらのベースとなる作業項目の一つひとつを定義し標準化したもの」であり、国際規格であるISO/IEC 12207を基盤としています[3]共通フレーム、3頁。
PMBOKでは語られなかったITプロジェクト特有の作業を共通フレームから知ることができますので、PMBOKとあわせて目を通しておくことをおススメします。

1PMBOK第6版、4頁。
2PMBOK第6版、25頁。
3共通フレーム、3頁。