プロジェクトマネジメントとは何か?注目すべき8つのパフォーマンス領域と主な資格、おすすめの本を紹介
プロジェクトを任されることはあなたの実力を評価されているということなので、大変名誉なことである一方、プロジェクトを進行していくということはなかなかの負担になります。
「プロジェクトを任されたけど、何から手をつければいいかわからない」
「プロジェクトマネジメントって結局何なの?」
という方に向けて、今回はプロジェクトマネジメントの概要をお話ししていきます。
プロジェクトとは何か?
プロジェクトマネジメントに関する標準策定などを行っているプロジェクトマネジメント協会(PMI、本部:米国フィラデルフィア)は、プロジェクトについて、次のように定義しています。
独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施される有期的な業務
PMBOK第6版、728頁。
分かりやすく言うと、プロジェクトとは「ある目的を達成するために、プロジェクト完了に伴い解散が前提とされる有期性のあるチームで取り組む業務」という意味になります。
ポイントは、「目的」があることと、「有期性のあるチーム」を組むことです。
「目的」については、明確に定められている必要があります。
はっきりとした目的がなければ、プロジェクトが上手くいくことはありません。
「有期性のあるチーム」については、目的に応じて結成されるもので、目的が達成されれば解散されます。
有期性のチームの対比として「組織の中で常時存在して、解散を前提としないチーム」を挙げることができます。いわゆるルーチンワークを行うチームです。
ルーチンワークを行うチームが決められた業務をこなすために編成されているのに対し、プロジェクトで編成されるチームは特定の目的を達成するために編成されます。
つまり、プロジェクトとは、特別な任務を負った取り組みと言うこともできます。
なぜプロジェクトマネジメントは必要なのか?
プロジェクトの目的を達成するにあたっては、様々な制約があります。
具体的には、コスト(費用)、資源、スケジュール(期間)など、いろいろな条件がある中で目的を実現しなければなりません。
たとえば、「決められた期日までに社内のネットワーク構成を整備する」という目的を掲げたプロジェクトを考えてみましょう。
専門業者に高いお金を支払えば期日には確実に間に合うでしょうが、コスト(費用)が掛かりすぎます。
コストを掛けないように社内の人間を総動員するという手もありますが、組織の人的資源をネットワーク整備にすべて割り当てるのは不可能です。
このように、プロジェクトの遂行にあたっては、現実にはコストや資源などが限られている中で目的を達成する必要があります。
プロジェクトマネジメントを用いることによって、こうした様々な制約を調整しながら目的達成に向かうことができます。
プロジェクトを成功させるために注目すべき8つのパフォーマンス
プロジェクト・マネジャーとして、プロジェクトを成功させるためにはどこに注目したらよいのでしょうか?
プロジェクトマネジメントのガイドラインであるPMBOK第7版では、「プロジェクトの成果を効果的に提供するために不可欠な、関連する活動」をプロジェクト・パフォーマンス領域と呼び、以下の8つの領域に注目しています[1]PMBOK第7版「プロジェクトマネジメント知識体系ガイド」、7頁。。
- ステークホルダー
- チーム
- 開発アプローチとライフサイクル
- 計画
- プロジェクト作業
- デリバリー
- 測定
- 不確かさ
プロジェクトは様々な要素が影響して成否が決まりますが、これら8点に注意をすることで、プロジェクトの成功率を大きく高めることができます。
ここからは、これら8つのプロジェクト・パフォーマンス領域の概要をお話ししていきます。
ステークホルダー
ステークホルダーは、プロジェクトの利害関係者のことです。たとえば、何か新しいアプリの開発をするのであれば、そのアプリを使用する予定のエンド・ユーザーはもちろん、その開発プロジェクトのチーム・メンバー、さらにはその上司もステークホルダーに含まれます。
これらのステークホルダーとプロジェクトの目的を共有し、生産的な関係を築き、支持を得られるようにすると、プロジェクトの成功率は高まります。
チーム
ほとんどのプロジェクトはチームを形成して取り組みます。
高いパフォーマンスを得られるようなチームを形成するため、プロジェクト・マネジャーはチームの文化や環境を整え、チームを育成し、メンバーがそれぞれ自律的に、リーダーシップをもって行動をとるように促していくことが望まれます。
開発アプローチとライフサイクル
プロジェクトは新しい製品やサービスなど、目的とする成果物を得るために実施されます。
その成果物をどのように開発していくのかを考えるのもプロジェクト・マネジャーの仕事の1つです。
開発の進め方は長年「ウォーターフォール」と呼ばれる予測型アプローチが主流でした。予測型アプローチは、プロジェクトの初期段階でプロジェクト全体の計画を立て、その計画に従ってプロジェクトを進めていきます。
しかし、プロジェクトの進行とともに当初の計画が状況にそぐわなくなることは多々あります。そのため、プロジェクトの進行にあわせる適応型アプローチが採用されることも増えてきました。
プロジェクト・マネジャーはプロジェクトにあわせて適切な開発アプローチを選び、プロジェクト全体の進行、つまりプロジェクトのライフサイクルをどのように進めていくのかを考えていきます。
計画
プロジェクトではスケジュール、品質管理の方法、予算など様々なことを計画していきます。
プロジェクトは進行とともに詳しいことが明らかになっていくという「段階的詳細化」という性質を持っているため、当初の計画のままで進行されることは多くありません。
しかし、計画をしなければプロジェクトはたちまち頓挫してしまいます。そのため、プロジェクト・マネジャーはステークホルダーとプロジェクトの方向性の一致を保つために必要な情報を提供する必要があります。
プロジェクト作業
プロジェクトを完了させるために、プロジェクト・チームは様々な作業に取り組んでいきます。
アプリのプログラミングをするという直接的な作業だけでなく、必要な資材を調達するという間接的な作業もあります。
プロジェクト・マネジャーは必要な作業を漏れなく実施していかなければなりません。
デリバリー
プロジェクトに求められる成果物は、ただ開発すればいいというものではありません。
求められている要求事項を満たすために、プロジェクト・マネジャーはプロジェクトを管理していきます。
測定
プロジェクトが進むにつれ、様々なデータが得られるようになります。たとえば予算やスケジュールの状況などが実際の数値として表れていきます。
プロジェクト・マネジャーは予算やスケジュールなどのデータを測定し、計画と照らし合わせて問題がないかを確認し、必要に応じてステークホルダーと情報を共有し、その後の対応を考えていきます。
不確かさ
プロジェクトは様々な不確かさを内包しています。たとえば屋外イベントを計画していたならば、「当日の天気」という不確かな要素に対して準備をしておかなければ、プロジェクトが失敗してしまうことがあります。
不確かさにはプロジェクトに悪い影響を与えるものもあれば、良い影響を与えるものもあります。
プロジェクト・マネジャーは不確かさも念頭に置き、プロジェクトが失敗とならないように対応方法を考え、その準備を行う必要があります。
プロジェクトマネジメントに関する資格
プロジェクト・マネジャーは、チームメンバーをまとめ上げ、責任者としてプロジェクトを推進するリーダーです。
経営管理能力は言うまでもなく、各ステークホルダーとの調整なども必要になることから、高い専門性とスキルが求められます。
そのため、プロジェクト・マネジャーには、どうしても豊富な経験を積んだ人物が採用されがちです。
プロジェクトマネジメントの未経験者や経験の浅い者がプロジェクト・マネジャーを任せてもらえる機会は多くありません。
では、未経験や経験の浅い者がプロジェクト・マネジャーを任せてもらうには、どうすればよいのでしょうか。
その答えの一つが、プロジェクト・マネジャーに関する資格を取得することです。
資格を取ることが、プロジェクトマネジメントに関する知識の証明になります。また、任せる側が採用する根拠になりやすいでしょう。
もちろん、プロジェクト・マネジャーとしての経験を積んできた者が資格を取ることにも大きなメリットがあります。なぜなら、経験の裏付けとして資格を取得しておくことで、今後のキャリアアップに有利に働くからです。
以下では、プロジェクト・マネジャーに関する資格のうち、代表的なものを3つ紹介します。
プロジェクトマネジメントプロフェッショナル(PMP)
プロジェクトマネジメント協会(PMI、本部:米国フィラデルフィア)が認定している国際資格です。
特徴
PMIが認定しているだけあって、出題はPMBOKに準拠しています。
プロジェクトマネジメントに関する資格の中では、最もプロフェッショナルな資格といえます。
しかし、受験するためにはプロジェクトマネジメントの経験が一定期間以上必要であったり申し込みの際に自身のプロジェクト経験を英語で記述したりする必要があるなど、申し込みのハードルはかなり高くなります。
試験概要
受験料 555ドル(約6万円)/PMI会員の場合は405ドル
受験日 毎日
合格率 不明(非公表)
試験形式 多肢選択式(CBT方式)
受験資格 以下の条件を満たす必要があります。
- プロジェクトマネジメントの指揮・監督の経験が一定期間以上あること
(大卒者の場合、36か月間のプロジェクトマネジメントの実務経験、かつ指揮・監督する立場での4,500時間の実務経験。高卒者の場合、それぞれの実務経験60か月間、かつ7,500時間を要する) - 公式のプロジェクトマネジメント研修を35時間以上受講していること
プロジェクトマネージャ試験(PM)
経済産業省が認定している国家資格です。
特徴
情報処理推進機構(IPA)が運営している情報処理技術者試験のうち、最も難易度が高い高度情報処理技術者試験の一区分です。
プロジェクトマネジメントに関する資格の中では、日本における知名度が最も高い資格といえます。
自身の経験に基づいたプロジェクトの進め方や対処方法について、2,000文字にも及ぶ論述を要する問題が出題されるなど、論理的に文章を書くスキルも必要となるため、論述に慣れていないと合格が厳しい試験です。
IT未経験者は、まずは高度情報処理技術者試験よりも難易度の低いITパスポート、基本情報技術者、応用情報技術者の資格を取ってみるのも良いでしょう。
試験概要
受験料 5,700円(税込)
受験日 年1回(毎年4月)
合格率 14.1%(平成31年度春期実施)
試験形式 多肢選択式/記述式/論述式
受験資格 なし(誰でも受験可)
P2M
日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)が認定している資格です。
なお、PMAJは、日本の強みを生かしたプロジェクトマネジメント知識体系「プログラム&プロジェクトマネジメント標準ガイドブック(P2M標準ガイドブック)」の普及事業を行っている団体であり、PMIの傘下団体であるPMI日本支部とは異なります。
特徴
P2M試験は、「P2M標準ガイドブック」に準拠した問題が出題されます。
P2Mは、レベルに応じて以下の4種類の資格が存在します。
その中でもPMRは、面談審査やワークショップが試験として課されるため、かなり難易度の高い試験となっています。
プロジェクトマネジメント・コーディネータ(PMC)
出題内容 P2Mのプロジェクトマネジメントコアに関する問題
受験料 17,000円(税込)
受験日 毎年奇数月10日から31日までの任意の日
合格率 64.2%(2019年度実施)
試験形式 多肢選択式(CBT方式)
受験資格 PMC講習会を24時間以上受講すること
プロジェクトマネジメント・スペシャリスト(PMS)
出題内容 P2Mおよび関連する基礎的な問題
受験料 39,200円(税込)
受験日 毎年2月、6月、10月の任意の日
合格率 72.2%(2020年10月実施)
試験形式 多肢選択式(CBT方式)
受験資格 なし(誰でも受験可)
プログラムマネジャー・レジスタード(PMR)
出題内容 P2Mの実践力を問う問題
受験料 一次試験55,000円(税込)、二次試験165,000円(税込)
受験日 一次試験11月~12月頃、二次試験1月~2月頃
合格率 87.5%(2019年度実施)
試験形式 論述/面談審査/ワークショップ
受験資格 PMS資格登録者、かつプログラム・プロジェクトの経験が3年以上あること
プログラムマネジメント・アーキテクト(PMA)
PMR資格登録者が受験できる資格試験ですが、現在(2020年11月)にいたるまで一度も実施されたことのない試験となります。
プロジェクトマネジメントのおススメ本
プロジェクトマネジメントの知識を身に付けるのであれば、やはり本を読むのが最良です。
ただし、一口にプロジェクトマネジメントの本と言っても初学者向けから経験者向けまで様々な書籍が存在します。
ここでは以下の3つの読者像を想定し、プロジェクトマネジメントのおススメ本を紹介していきたいと思います。
- プロジェクトマネジメントの経験がない、または乏しい読者
- プロジェクトマネジメントの経験はあるが、いま一歩自信のない読者
- プロジェクトマネジメントに豊富な経験があり、さらに知識を求める読者
経験がない、または乏しい読者にはこれ!
PMBOK対応 童話でわかるプロジェクトマネジメント
プロジェクトマネジメントの概念を学ぶのに打ってつけの本です。
「三匹の子ブタ」の家づくりを題材にスコープ定義の重要性を説くなど、有名な童話に基づきプロジェクトマネジメントについて解説しています。
プロジェクトマネジメントについて今一つピンと来ていない人や、これまでに様々な解説書や専門書を読んで挫折した人は、本書を読んでみましょう。
マンガでわかるプロジェクトマネジメント
主人公が初めてプロジェクトマネジメントに挑戦するというストーリーで進むので、経験のない人がイメージを抱くのにふさわしい本です。
PMBOKに準拠し、各知識エリアについて基本的な解説がなされています。マンガ部分と解説部分という構成になっており、活字が苦手な人はまずは本書を手に取ることをおススメします。
経験はあるが、いま一歩自信のない読者にはこれ!
担当になったら知っておきたい「プロジェクトマネジメント」実践講座
どちらかというと初学者向けともいえますが、プロジェクトマネジメントの経験がある人にとっても知識の再確認になる本です。
プロジェクトの計画から実行にいたるまでのプロセスを細分化し、それぞれの内容について丁寧に説明しています。
そのため、未経験者にとってはプロジェクトマネジメントの流れを詳細に理解でき、経験のある人にとっては知識と経験の振り返りを行うことができます。
プロジェクト実行ガイド大全
著者の豊富なプロジェクトマネジメント経験に基づき、プロジェクトの段階ごとに、誰が何をいつまでにどのレベルまで行うべきかを具体的に説明した本です。
実際にプロジェクトを進めるにあたって、本書のタイトルどおりガイドとして役立つ内容となっています。
システム開発に特化しており、かなり実践的な本といえます。
豊富な経験があり、さらに知識を求める読者にはこれ!
ソフトウェア見積り 人月の暗黙知を解き明かす
多くのプロジェクトの失敗原因が見積りにあるという著者の認識から、そもそも見積りとはどうあるべきか、どのような見積り方法があるのか、どう実践に活かすのかを丹念に説明した本です。
これからプロジェクトマネジメントに携わる人は当然として、正確に見積りができないのは当たり前と思っているような経験者こそ読むべき一冊です。
アート・オブ・プロジェクトマネジメント-マイクロソフトで培われた実践手法
プロジェクトマネジメントについて、多岐にわたり詳細な解説を行っている本です。
プロジェクトマネジメント経験者がこれまでの自身の進め方や手法を振り返ったり、今まさにプロジェクトマネジメントに携わろうとしている人がプロジェクトを進める上での抜け漏れがないかを確認したりするのに役立ちます。
本書を読んですべてを理解するのは大変ですが、幅広な視野と知識を手に入れることができる内容となっています。
参考
書籍
- 西村克己『ゼロから始めるプロジェクトマネジメント大全(大和出版):立ち上げから問題解決、実行、終結までの管理手法と実践例』PHP研究所、2015年
- 広兼修『プロジェクトマネジメント標準PMBOK入門 PMBOK第6版対応版』株式会社オーム社、2018年
- 鈴木安而『図解入門よくわかる最新PMBOK第6版の基本』秀和システム、2018年
- 『プロジェクトマネジメント知識体系ガイドPMBOKガイド第6版』2018年
- 広兼修『マンガでわかる業務改善プロジェクト』株式会社オーム社、2020年
Webサイト
- PMP®資格について | 一般社団法人 PMI日本支部(最終閲覧日:2023年7月5日)
- 情報処理推進機構「プロジェクトマネージャ試験(PM)~ITプロジェクトの成功請負人~」[ Project Manager Examination ]」(最終閲覧日:2020年11月15日)
- 日本プロジェクトマネジメント協会「P2M試験について」(最終閲覧日:2020年11月15日)
注
↑1 | PMBOK第7版「プロジェクトマネジメント知識体系ガイド」、7頁。 |
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