リスクの定性的分析とは何か?PMPに出題されるPMBOKの用語を解説
リスクの定性的分析とは
リスクの定性的分析とは、プロジェクトで発生の恐れのあるリスクの影響度や緊急度などの定性的な側面に注目し、その分析や対策を講じることです。
PMBOKの定義では「リスクの発生確率と影響度、および、その他の特性を査定し、その後の分析や処置のためにプロジェクトの個別リスクの優先順位付けを行うプロセス[1]PMBOK第6版、739頁。」と位置付けています。
定量的分析と定性的分析
実際にリスクの定性的分析の中身を見ていく前に、「定性的分析」と「定量的分析」の違いを簡単に確認しておきます。
「定量的分析」とは金額やバグの発生件数など、数値で測定できる内容を分析していくことです。 今回扱う「リスク」であれば、トラブルの発生確率やその被害金額を分析の材料とするのは「リスクの定量的分析」です。
一方で、「定性的分析」とは性質など、量や数では測りがたい内容を分析していきます。例えば「国民の幸福度の分析」は本来数値での評価が難しい定性的分析です。ここで重要なのは、定性的分析であっても、アンケートや代わりとなる指標を使って数的根拠を出し、分析を進めるということです。
これから「リスクの影響度」や「危険度」などの分析を「リスクの定性的分析」として取り組んでいきますが、数や量などで測りがたい内容を数値化・図形化できるようにしていきましょう。
リスクの定性的分析のアウトプット
リスクの定性的分析のゴール
まずリスクの定性的分析のゴールを確認しておきましょう。
リスクの定性的分析のゴールは定性的なリスクを分析し、リスク登録簿やリスク報告書を作成、あるいは更新し、それらのリスクの対策を採ることです。
リスク登録簿とはその名の通り、プロジェクトで予想されるリスクがまとめられた資料であり、リスク報告書はそれらのリスクをどのように対応するかをまとめたものです。
これらの資料は、後々の意思決定の判断材料にもなり、プロジェクト文書のなかでも重要な役割を担っているといえるでしょう。
PMBOKでの扱い
PMBOKではリスクの定性的分析のアウトプットとして、「プロジェクト文書更新版」を挙げています。更新する文書としては、先ほども登場したリスク登録簿やリスク報告書に加え、プロジェクトの「前提条件ログ」や「課題ログ」も挙げています[2]PMBOK第6版、427頁。。両文書ともにその名が内容を示しており、「前提条件ログ」はプロジェクトを制約する前提条件をまとめた文書であり、課題ログはプロジェクトの課題をまとめたものです。
リスクを分析していくと、リスクそのものの対策だけでなく、リスクによってプロジェクトの前提条件や課題も考え直す必要がでてくることがあるため、これらのプロジェクト文書の作成や更新が求められるようになるということです。
リスクの定性的分析のインプット
次は分析の材料となるリスクの定性的分析のインプットを見ていきましょう。PMBOKで紹介されているインプットの内容は以下の通りです。
- プロジェクトマネジメント計画書
- プロジェクト文書
- 前提条件ログ
- リスク登録簿
- ステークホルダー登録簿
- 組織体の環境要因
- 組織のプロセス資産
先ほども述べたように、リスクの定性的分析では、数値化されていないリスクを分析していきますので、インプットの内容も数量データはありません。
プロジェクトマネジメント計画書や各種プロジェクト文書を読み返しながら、リスクの定性的分析を進めていきます。
また、組織体の環境要因や組織のプロセス資産で使えるもの、考慮しなければならないことがあるかも確認していきます。
これらの詳しい内容については、以下の記事もご参照ください。
リスクの定性的分析のツールと技法
リスクの定性的分析のツールや技法は様々なものがあります。PMBOKに記載されている内容をまとめると以下のようになります [3]PMBOK第6版、422~426頁。 。
- データ収集
- 専門家の判断
- 会議
- 人間関係とチームに関するスキル
- リスク区分化
- データ分析
- リスク・データ品質査定
- リスク発生確率・影響度査定
- 他のリスク・パラメーターの査定
- データ表現
- 発生確率・影響度マトリックス
- 階層構造図
これらのツールと技法について見ていきましょう。
データ収集を行う
先ほど見てきたように、リスクの定性的分析のインプットはプロジェクト計画書やプロジェクト文書がメインとなっていました。これだけでも分析を進めることはできますが、必要に応じてデータを集めていくことも大切です。
例えばプロジェクト・メンバーや専門家、ステークホルダーへのインタビューやアンケートを通じて、データを収集していきます。
専門家やメンバーの知恵を活用する
リスクの定性的分析では、専門家やプロジェクト・メンバー、ステークホルダーなどの意見も取り入れて分析を進めていきます。
専門家の知見を借りる手法として有名なのが「デルファイ法」です。デルファイ法とは、専門家へのアンケートと回答を繰り返し、意見をまとめていく方法です。
今回のようなリスクの定性的分析であれば「このプロジェクトのリスクは何だと思いますか?」というようなリスクを洗い出すアンケートからスタートし、「そのリスクの危険度を低・中・高で評価するとどうなりますか」というような評価まで進めていければ、専門家の知識を上手く汲み上げたアウトプットが期待できるでしょう。
また、同様の理由で、会議でリスクを見つめ直し、リスクの洗い出しや評価を行っていきます。必要に応じて、定例の会議とは別にリスク査定のための専門会議を開いても良いかもしれません。
こうして周りの知恵を借りていく際に必要なのが「人間関係とチームに関するスキル」です。協力者と有効な関係を築くということは言わずもがな、デルファイ法や会議が円滑に進むように十分準備することも大切です。
データ分析とデータ表現
各データ分析の手法やデータ表現については別ページで解説していきます。
詳しくは以下のページをご覧ください。
- データ分析
- リスク・データ品質査定
- リスク発生確率・影響度査定
- 他のリスク・パラメーターの査定
- データ表現
- 発生確率・影響度マトリックス
- 階層構造図