調達マネジメントの計画とは何か?

2020年6月1日

調達マネジメントの計画とは

調達マネジメントの計画とは、プロジェクトでの購買活動やそれにまつわる契約についての意思決定方法や取り組み方を文書化し、取り組み方法を明らかにしていくプロセスです。
プロジェクトでは「ヒト・モノ・カネ」という資源をすべて組織内で用意することはまれであり、多くの場合は組織外から物資を購入したり、人材を求めたりします。
その際に、「何を購入するのか?」「どのような方法で購入先を選ぶのか?」「どのような契約を行うのか?」というようなことが問題になってきます。
調達マネジメントの計画は、こうした購入先の決定や契約の内容の方針を定めることで、調達活動が円滑に進むように計画していきます。
PMBOKでは「調達マネジメントの計画」と呼ばれますが、ISO21500にも「調達の計画」という名前で同様の活動を行うプロセスがあります。

調達マネジメントのアウトプット

調達マネジメントのプロセスでは、いくつもの重要な文書が作成されます。
まずはそれらの文書を確認し、調達マネジメントのゴールを明確にしていきましょう。
PMBOKで紹介されている調達マネジメントのアウトプットは以下の通りです。

  • 調達マネジメント計画書
  • 調達戦略
  • 入札文書
  • 調達作業範囲記述書
  • 発注先選定基準
  • 内外製決定
  • 独自コスト見積り
  • 変更要求
  • プロジェクト文書更新版
  • 組織のプロセス資産更新版

これらの文書は、それぞれ単体でも1冊の本がかけてしまうようなしろものですので、ここでは簡単に概要だけ紹介いたします。

調達マネジメント計画書

調達マネジメント計画書はプロジェクト中の調達に関わる活動の方針を定めた計画書です。プロジェクトマネジメント計画書の1つでもあります。
例えば「どのようなタイムスケジュールで調達を行うのか」「どのようにして評価するのか?」「どの国の法律で契約を行うのか?」「それらの活動をどのように監視していくのか?」ということが定められていきます。
調達マネジメントの計画では、調達マネジメント計画書の他にもさまざまな文書・資料が作成されますが、それらの内容はいずれもこの調達マネジメント計画書の方針に沿って使用されることになります。

調達戦略

調達戦略「調達をどのように進めていくのか」を策定していくことです。
調達マネジメント計画書が調達の全体の方針を定めた文書だとすれば、調達戦略では具体的に「どのような成果物を、どういう契約で調達していくのか?」ということを考えていきます。

入札文書

入札文書とは、入札への参加が期待される納入候補者からの提案を募集するための文書を指します。
具体的には、情報提供依頼書(RFI)見積依頼書(RFQ)提案依頼書(RFP)が挙げられます。
これらの文書に関しては以下のページもご参照ください。

調達作業範囲記述書

調達作業範囲記述書とは、納入候補者が「この入札に参加できるのかどうか」を判断できるように、調達で求めている内容を詳細に記述した文書です。
例えば「人事管理システムを提供できる業者を入札で決定する」と言っても、「規模はどのくらいか」「どのような機能を求めているのか」が分からなければ、入札に参加しようとしている納入候補者は二の足を踏んでしまいます。
そのため、求めている製品やサービスの要件などを詳細に記述し、入札への参加者を増やしていく役割を調達作業範囲記述書は担っていると言えるでしょう。
この調達作業範囲記述書はRFPとともに公表されることが多く、提案を促すため、作業範囲も併せて明示していきます。

発注先選定基準

発注先選定基準とは、入札に参加した納入候補者をどのような基準で選ぶのかを定めたものです。
例えば納期であったり、納入候補者の経験であったり、会社の業績であったりと、さまざまな軸で評価していきます。
調達作業範囲記述書と同様、発注先選定基準はRFPも盛り込んでしまうことも多く、提案を募集するのと同時に、選定基準も明らかにするのが一般的な流れです。

内外製決定

内外製決定とは、特定の作業をプロジェクト・チームで対応するのか、それとも外部に依頼するのかを決定することです。
「内外製」という言葉は「内製」「外製」という言葉が組み合わさったものです。「内製」とは組織内の資源で作業に対応することを意味し、「外製」とは組織外に資源を求め、依頼をすることです。

独自コスト見積り

独自コスト見積りとは納入候補者などから提出された見積りが妥当なものであるのか判断するために、調達を行う組織が独自に情報を集め、ベンチマークとするために作成した見積りのことです。
入札などの際に提出された見積りに独自コスト見積りの金額と大きくかけ離れたものがある場合、その見積りを提出した納入候補者が作業範囲を誤っていることもありますが、調達を行う組織が作業範囲を見誤っている可能性もあるため、注意が必要です。

変更要求・プロジェクト文書更新版

調達にはヒト・モノ・カネというプロジェクトの資源が関係しているため、調達マネジメントの計画の中で、当初の計画を変更しなければならなくなることもあります。
その場合は変更要求が必要なこともあります。
変更要求に関しては、以下のページもご参照ください。

同様に、教訓登録簿や要求事項文書などの各種プロジェクト文書も変更されることがあるので、必要な場合は更新版を作成していきます。

組織のプロセス資産更新版

調達マネジメントの計画のプロセスは、組織にノウハウを蓄積していきます。
例えば、「どのような調達戦略を行ったか」「どのような入札文書を作成したか?」ということは、これからのプロジェクトでも適宜参照できる情報です。
こうしたノウハウが組織に蓄積されるため、「組織のプロセス資産更新版」というアウトプットが生まれるとPMBOKは提示しています。

調達マネジメントの計画のインプット

調達マネジメントの計画ではさまざまなアウトプットが生み出されることを確認してきましたが、その材料となるインプットも広範囲です。
PMBOKでは調達マネジメントの計画のインプットとして、以下の文書・情報が紹介されています[1]PMBOK第6版、468~472頁。

ここからは、これらのインプットから、調達マネジメントの計画を進めるために何を確認すべきかを解説していきます。

プロジェクトに何が必要なのか?

上記のインプットから確認すべきことは「プロジェクトに何が必要なのか」ということです。
例えばスコープ・マネジメント計画書要求事項文書から今回のプロジェクトの作業範囲を確認したり、資源マネジメント計画書で必要とされる資源を確認したりします。

調達の際に考慮すべき事項は何か?

プロジェクトで調達しなければならないものを確認したら、調達の際に考慮すべき事項を確認していきます。
例えば法律関係であったり、組織内の手続き、契約のタイプなどを確認し、実際の調達の準備をしていきます。

組織のプロセス資産から確認するもの

調達マネジメントの計画において、組織のプロセス資産は重要なインプットです。なぜなら、調達の方針や契約までの手続きは組織によって対応方法が異なるため、所属している組織がどのような対応をしているのかを確認しなければならないからです
そのため、正式の調達方針、手続き、ガイドラインを確認していきます。
これらの資産がない場合は、プロジェクト・チームが、調達活動を実行する資源と専門知識の両方を提供しなければなりません。

この他、事前承認された納入者リスト、例えば過去に取引があり、信頼できると判断されたような外注先リストがあれば、納入者の選定プロセスのタイムラインを短縮することができます。

また、契約のタイプを確認し、適切な契約を結ぶ必要もあります。

調達マネジメントの計画のツールと技法

調達マネジメントの計画のツールと技法として、PMBOKでは以下の内容が紹介されています[2]PMBOK第6版、472~474

調達マネジメントの計画のプロセスでは、上記の通り、専門家の判断やデータ収集で情報を集め、データ分析や発注先選定分析、そして会議を行って、物事を判断していく必要があります。

発注先選定分析

発注先選定分析とは、入札書を受領した後や提案を受けた後、発注先選定基準と照らし合わせて納入者を選定する手法をいいます。
発注先選定分析を行うことによって、主観的ではなく客観的に、そして多面的に複数の業者を項目別に評価していき、比較していき、現在の状況に最適な納入者を選んでいくことができます。

発注先選定分析は下記の記事もご参照ください。

1PMBOK第6版、468~472頁。
2PMBOK第6版、472~474