リスクを見つけたら、次はどう動く?
これまでのプロセスで、プロジェクトに潜むリスクを特定し、どれを優先的に対処すべきか(リスク分析)を決定しました。
しかし、「このリスクは危険度が高い」と分かっただけでは、プロジェクトを守ることはできません。次に必要なのは、「では、そのリスクに対して具体的にどういう作戦で立ち向かうのか?」を決め、チーム内で合意することです。
PMBOKにおける「リスク対応の計画(Plan Risk Responses)」は、特定された個別リスクや全体リスクに対処するための選択肢を開発し、適切な戦略を選択し、具体的なアクション(必要なリソースや予算の確保)を計画に組み込むプロセスです。
今回は、PMBOK第8版が定義するリスク対応の戦略を整理しつつ、現場の実務において私たちがどうリスクと折り合いをつけていくべきかを解説します[1]Project Management Institute『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)第8版』日本語版、第2部 … Continue reading。
プロセスのITTO(インプット・ツール・アウトプット)完全網羅
適切な対応策を立案するために、PMBOKでは以下の構成要素(ITTO)が定義されています。
インプット(前提となる情報)
- プロジェクトマネジメント計画書(資源・リスク・マネジメント計画書、コスト・ベースラインなど)
- プロジェクト文書(リスク登録簿、リスク報告書、教訓登録簿、プロジェクト・スケジュール、資源カレンダーなど)
- 組織体の環境要因(EEF) / 組織のプロセス資産(OPA)
ツールと技法(対応策を練るための手段)
- 専門家の判断
- データ収集(インタビュー)
- 人間関係とチームに関するスキル(ファシリテーション)
- リスク対応戦略(脅威に対する戦略、好機に対する戦略、コンティンジェンシー対応戦略、全体リスクに対する戦略)
- データ分析(代替案分析、費用便益分析:その対応策にかかるコストと、得られる効果のバランスを見極める)
- 意思決定(多基準意思決定分析)
アウトプット(計画した結果)
- 変更要求(対応策を実行するために追加の予算や時間が必要な場合の申請)
- プロジェクトマネジメント計画書更新版(各ベースラインや管理計画書への対応策の組み込み)
- プロジェクト文書更新版(リスク登録簿に具体的な対応策を追記)
脅威と好機に対する「各5つの対応戦略」
PMBOKでは、リスクに対する戦略を「マイナスのリスク(脅威)」と「プラスのリスク(好機)」のそれぞれに対して5つずつ定義しています。
脅威(マイナスのリスク)に対する5つの戦略
- エスカレート: プロジェクトの範囲外、またはPMの権限を超えるため、上位の経営層などに判断を委ねる。
- 回避: 原因を取り除くなどして、脅威の発生確率を「ゼロ」にする。
- 転嫁: 保険に入ったり、外部にアウトソースしたりして、影響を「第三者」に移転する。
- 軽減: プロセスを単純化したりテストを増やしたりして、発生確率や影響度を「低く」する。
- 受容: 脅威の存在を認め、事前の予防措置は講じない(発生してから対応する)。
好機(プラスのリスク)に対する5つの戦略
- エスカレート: 上位層へ判断を委ねる。
- 活用: 優秀なリソースを投入するなどして、好機を「確実に(100%)」発生させる。
- 共有: パートナーシップを結ぶなどして、好機のメリットを「第三者と分け合う」。
- 強化: 追加リソースを投入して、好機の発生確率や規模を「高める」。
- 受容: 好機を認識しつつ、積極的な行動はとらない。
現場のリアル:実務の主役は「軽減」と「バッファ」

PMBOK上では好機(プラスの影響)を活かす戦略も詳細に語られていますが、実際問題として、1年未満の短期間のプロジェクトでは「好機を積極的に活かす」余裕はなく、想定しなくてもよいケースがほとんどです。
私たちの最大の課題は、やはり「脅威(マイナスのリスク)へどう対処するか」です。
先ほど挙げた脅威への5つの戦略の中で、理想的なのは脅威を根絶する「回避」です。しかし、実務においてリスクを完全にゼロにする(回避する)のは非常に難しく、莫大なコストがかかることがほとんどです。
そのため、実務において私たちがよく採る作戦は、外部に保険や契約で任せる「転嫁」か、影響を最小限にとどめる「軽減」のどちらかになります。
「軽減」するなら「バッファ」とセットで計画する
特に多く採られるのが「軽減(テストを増やす、予備のシステムを少し用意しておく等)」です。
ここで重要なのは、「軽減策を採るということは、リスクの発生確率や影響はゼロにはなっておらず、大なり小なりダメージを受ける可能性がある」という事実を受け入れることです。
だからこそ、軽減策とセットで「コンティンジェンシー予備(バッファ)」を用意しておくことが極めて重要になります。
「このリスクの影響を軽減する策は打ったが、それでも多少の遅延は発生するだろう。だからあらかじめスケジュールに1週間のバッファを持たせておく(積極的受入れ)」といったように、影響を受けてもプロジェクトが致命傷にならないような準備(プランB)をしておくのです。
まとめ:対応策を計画書に組み込む
「リスク対応の計画」のゴールは、リスク登録簿に対応策のアイデアを書いて終わることではありません。
決めた対応策(軽減策のための追加テストや、コンティンジェンシー予備としてのスケジュールバッファなど)を、実際の「プロジェクトマネジメント計画書」や「スケジュール・ベースライン」の中に予算やタスクとして正式に組み込むことです。
リスクに怯えるのではなく、「どこまで減らし、どこからを受け入れるか」を論理的に決断し、バッファというクッションを用意して、堂々とプロジェクトを進めていきましょう。
注
| ↑1 | Project Management Institute『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)第8版』日本語版、第2部 2.7.2.4「リスク対応の計画」(96〜97ページ)、第5章(157〜158ページ、197〜199ページ、219〜225ページ)より要約・引用 |
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