PMBOKに沿ったコストの見積り方法

2020年11月17日

PMBOKの中の「コストの見積り」のプロセス

PMBOKにおける「コストの見積り」とは、プロジェクトの作業を完了するために必要な資源コストを概算するプロセスを指します[1]PMBOK第6版、240頁
プロジェクトの成否は納期・費用・品質で判断されるため、費用に影響するコストの見積りはプロジェクトマネジメントの中でも重要なプロセスです。

今回はPMBOKに沿ったコストの見積り方法について解説していきます。

コストの見積りのアウトプット

まずはコストの見積りのプロセスのアウトプットを確認し、このプロセスのゴールを明確にしておきましょう。
コストの見積りのプロセスのアウトプットは以下の通りです。

  • コスト見積り
  • 見積りの根拠
  • プロジェクト文書更新版
    • 前提条件ログ
    • 教訓登録簿
    • リスク登録簿

ここからは、上記のアウトプットについて解説していきます。

コスト見積り

コストの見積りのプロセスで最も重要なアウトプットが「コスト見積り」です。
コスト見積りは単に見積書と言った方が、理解しやすいかもしれません。プロジェクトに必要な資源を調達するのにどの程度のコストが発生するのかを見積り、まとめていきます。
コスト見積りは以下の3点から構成されます。

「プロジェクトの作業を完了するのに必要なコストの量的評価」とは、その名の通りプロジェクトの作業にどの程度のコストが発生するのかを数値で表したものです。
例えばソフトウェア開発では「○○の開発にプログラマーの労働力が10人日分必要だ」というように、「人日」と言う単位を使って作業の規模を評価し、必要なコストを見積ります。

しかし、見積書にプロジェクトの作業を完了させるために必要なコストだけを記載しては、不測の事態が発生した時に必要な予算がなく、プロジェクトの進行を止めてしまうことがあります。
例えば、野外コンサートの計画を練っているとします。野外コンサートに必要な機材や場所代だけを考えてコストを見積っていると、イベント当日に雨が降ってしまった場合に予算がなく、どうすることもできないという状況になりかねません。
「雨が降る」というのは、予想できるリスクであるため、その時の対応をプロジェクト・メンバーとあらかじめ考え、その対応に必要なコストを見積っておく必要があります。
こうした予想できるリスクに対応するコストを「コンティジェンシー予備」と言います。
しかし世の中には、2020年に突如流行した新型コロナウィルスのように、まったく予測ができない問題が起きることもあります。
予想できないリスクのため、予備のお金を見積っておくのが、「マネジメント予備」です。
見積書を作成する場合は、プロジェクトの作業を完了させるために必要なコストだけでなく、コンティジェンシー予備とマネジメント予備を含めた金額を見積っておくことが大切です。

見積りの根拠

後述する通り、コストの見積りでは様々なツールや技法を使いながら、プロジェクトにかかるコストを見積っていきます。
経験だけに頼る見積りでなく、ツールや技法を駆使しながら、客観的で定量的な見積りの根拠を出せることが、コストの見積りのメリットであると言えます。

この見積りの根拠は見積書に盛り込むこともありますが、見積書の補足資料として、別に説明資料を作成することもあります。
この見積りの根拠をまとめた資料には、以下の内容が記されます[2]PMBOK第6版、247頁。

  • 見積りの根拠
  • 前提条件
  • 制約条件
  • リスク
  • 見積りの範囲
  • 信頼水準

この中で、見積りの範囲とは、見積りの対象となる項目を意味するのではなく、見積りの振れ幅を意味します。
例えば「機能Aの開発に100万円が必要」と見積もったとしても、その金額ちょうどになることは現実にはあまりありません。見積りの結果、95~105万円で開発可能と判断した場合は、「100万円(±5%)」と表示します。
この「±5%」という部分が、見積りの範囲です。

プロジェクト文書更新版

コストの見積りのプロセスを進めていくと、これまでに作成してきたプロジェクト文書に手を加えなければならない部分が見えてきます。
例えば、コストの見積りをしていく中で、新しい前提条件や制約条件が見つかったり、既知の前提条件や制約条件の再検討が必要になったりすることがあります。
この場合は前提条件ログを更新していきます。
他には、コストの見積りのプロセスで得られた教訓があれば教訓登録簿を、新たなリスクが発見されたらリスク登録簿を更新していきます。

コストの見積りのインプット

コストの見積りのインプット、つまりこのプロセスを進めるための材料を見ていきましょう。
コストの見積りのプロセスの主なインプットは以下の通りです。

ここからは、これらのインプットから、コストの見積りのプロセスを進めるためにどのような点を確認していけばよいのかを解説していきます。

どのような方針で進めていくのか?

PMBOKでは、コストの見積りの前のプロセスとして、コスト・マネジメントの計画があります。
コスト・マネジメントの計画では、コスト・マネジメント全体の方針を定めていきますが、その内容はコスト・マネジメント計画書としてまとめられます。
このコスト・マネジメント計画書を振り返りながら、コストの見積りをどのように進めていくのかを確認していく必要があります。

どのような作業があるのか?

コストの見積りのプロセスを進めるために確認しなければならないのは「このプロジェクトにはどのような作業があるのか」ということです。
プロジェクトの作業が明確でなければ、それに対する見積りをすることはできません。

プロジェクトの作業を確認するのに役に立つのが、プロジェクト・スコープ記述書ワーク・ブレークダウン・ストラクチャー(WBS)WBS辞書というプロジェクトマネジメント計画書のスコープ・ベースラインです。

どのようなスケジュールか?

同じ作業でもスケジュール次第でかかるコストは変わります。
例えば、10日でソフトウェアを完成させるのと、5日でソフトウェアを完成させるのとでは、必要となる人員や調整しなければならないスタッフの時間も変わってきます。外部から機材を購入しなければならない場合は、その納品も急がせなければなりません。
このように、スケジュールは作業のコストの見積りに大きな影響を与えます。
プロジェクトのスケジュールはプロジェクト・スケジュールから確認できるので、これを参照していきます。

どの程度の品質が求められているのか?

スケジュールと同様に、品質もコストに影響を与えます。
ソフトウェア開発で言えば、「月3回以下の不具合の発生」を品質の目標にするのか、それとも「月10回以下の不具合の発生」を目標にするのかで、プロジェクトの作業の内容や、確保されるプログラマーのレベルも異なっていきます。

このプロジェクトのプロダクトに求められている品質を品質マネジメント計画書から確認し、コストの見積りに反映していきます。

資源を調達する環境はどうか?

組織体の環境要因、つまり市況がどうなっているかもコストの見積りに影響します。
例えばソフトウェア開発の業界では、予算消化という目的で企業からソフトウェア開発を依頼されることがよくあります。
そのため、年末・年度末は繁忙期と呼ばれるのですが、この繁忙期にプログラマーを集めるのと、繁忙期を避けてプログラマーを集めるのとでは、コストが変わってきます。
このように、コストは市況によって変化するため、PMBOKにも書かれてある市場の状況、公開されている商用情報、為替レートとインフレーションに注目しながら、コストを見積る必要があります。

活かせる過去のノウハウはあるのか?

コストの見積りのプロセスを進めていく上では、活かせる過去のノウハウがないかを確認することも大切です。
組織のプロセス資産として残されているコストの見積りの方針やテンプレート、これまでの教訓をまとめた教訓登録簿は、コストの見積りのプロセスの進行をサポートしてくれるでしょう。

コストの見積りのツールと技法

コストの見積りのプロセスには、様々なツールと技法が存在します。
多様なツールと技法の中から、プロジェクトにあわせたものを選べるかが、プロジェクトの成否を分けていると言っても過言ではありません。
PMBOKで紹介されているコストの見積りのツールと技法は以下の通りです。

これらのツールと技法については、上記のリンクから詳細をご確認ください。

コストの見積りが終わったら

今回はPMBOKの流れに沿ったコストの見積りの方法を解説してきました。
ソフトウェア開発のアイデアをまとめた名著『ソフトウエア開発 55の真実と10のウソ』では、ソフトウェア開発が失敗に陥る二大要因として、「見積りのミス」「未確定の仕様」を挙げています[3]ロバート・L・グラス (著)、山浦 恒央(訳)『ソフトウエア開発 55の真実と10のウソ』日経BP出版センター、2004年、42頁。
同書を補足するならば、見積りが誤っていることが原因であるというよりも、作業範囲や求められている品質、スケジュールに対しての理解不足が、見積りの誤りとして表れているのかもしれません。

PMBOKでは、このコストの見積りのプロセスの結果をもとに、プロジェクトに必要な予算を決定していきます。


1PMBOK第6版、240頁
2PMBOK第6版、247頁。
3ロバート・L・グラス (著)、山浦 恒央(訳)『ソフトウエア開発 55の真実と10のウソ』日経BP出版センター、2004年、42頁。