【PMBOK第8版】リスクの特定とは?AIを活用した洗い出し術と3つの注意点

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SSAITS代表・山脇弘成

山脇 弘成(SSAITS(サイツ)代表)

PMP®有資格者・Webプロジェクトマネージャー。
大手メディアや官公庁のWebプロジェクト実績多数。
「技術」だけでなく「対話」を重視し、御社の「ほんとは、こうしたかった」を形にします。

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単なる「心配事」と「真のリスク」を区別する

プロジェクトを進める中で、「スケジュールが遅れたらどうしよう」「予算が足りなくなるかもしれない」といった不安は尽きません。
しかし、漠然とした心配事を抱えているだけでは、具体的な対策を打つことはできません。

PMBOKにおける「リスクの特定(Identify Risks)」は、単なる懸念や心配事、あるいはすでに発生している「課題」と、「真のリスク」を明確に区別し、プロジェクトに影響を与える潜在的事象をあらかじめ洗い出し、文書化するプロセスです[1]Project Management Institute『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)第8版』日本語版、第2部 … Continue reading。

このプロセスにおいて重要な前提が2つあります。

  • 脅威と好機の同時特定: 悪影響を及ぼす「脅威」だけでなく、コスト削減や期間短縮などの好結果をもたらす「好機(チャンス)」も同時に特定します。
  • 反復型アプローチ: プロジェクトの開始時には未知の要素が多く、すべてのリスクを最初から特定することは不可能です。そのため、新しい情報が得られるたびに、プロジェクト完了まで継続的に反復して実行されます。

プロセスのITTO(インプット・ツール・アウトプット)完全網羅

リスクを漏れなく特定するために、PMBOK第8版では以下の構成要素(ITTO)が定義されています。

インプット(前提となる情報)

これまでに作成したあらゆる計画書や文書が、リスクを洗い出すためのヒントになります。

  • プロジェクトマネジメント計画書(要求事項、スケジュール、財務、品質、資源、リスク等の各管理計画書、および各ベースライン)
  • プロジェクト文書(前提条件ログ、コスト/所要期間見積り、課題ログ、教訓登録簿、要求事項文書、資源要求事項、ステークホルダー登録簿)
  • 合意事項 / 組織体の環境要因(EEF) / 組織のプロセス資産(OPA)

ツールと技法(特定するための手段)

  • 専門家の判断
  • データ収集(ブレーンストーミング、チェックリスト、インタビュー)
  • データ分析(根本原因分析、前提条件と制約条件の分析、SWOT分析、文書分析)
  • 人間関係とチームに関するスキル(ファシリテーション)
  • プロンプト・リスト(※後述)
  • 人工知能(AI)(※後述)
  • 会議

アウトプット(特定した結果の記録)

  • リスク登録簿(※後述)
  • リスク報告書(※後述)
  • プロジェクト文書更新版(前提条件ログ、課題ログ、教訓登録簿)

注目のツール①:漏れを防ぐ「プロンプト・リスト」

ツールと技法の中で、思考の抜け漏れを防ぐために非常に役立つのが「プロンプト・リスト」です。
これは「この観点からリスクがないか考えてみましょう」と促してくれる、あらかじめ定義されたカテゴリーの枠組み(リスト)です。代表的なものとして以下があります。

  • PESTLE: 政治、経済、社会文化、技術、法、環境の頭文字。外部環境のリスク洗い出しに有効。
  • TECOP: 技術、環境、商業、運用、政治の頭文字。
  • VUCA: 変動性、不確かさ、複雑さ、あいまいさの頭文字。

「システム開発のリスクを挙げてください」と漠然と考えるより、「『法』や『環境』の観点からリスクはないか?」とプロンプト・リストを使うことで、多角的な特定が可能になります。

注目のツール②:AIを使って特定する際の「3つの注意点」

注目のツール②:AIを使って特定する際の「3つの注意点」

PMBOK第8版で特筆すべきは、ツールと技法に「人工知能(AI)」が明記されたことです。過去の膨大なデータから、人間が見落としがちな潜在的リスクを早期発見してくれます]。
実際、ChatGPTやClaude、GeminiといったAIにプロジェクトの概要を伝え、リスクの洗い出しを頼むだけでも、かなりの範囲を網羅してくれます。

しかし、実務においてAIをリスク特定に活用する際は、PMとして以下の3つの注意点を必ず守る必要があります。

  1. 前提条件を正確に、詳細に伝えること:
    「Webサイト制作のリスクを教えて」といった雑な指示では、一般的な回答しか返ってきません。ターゲット層、開発環境、予算の制約、納期などの前提条件を正確に伝えることで、驚くほど詳細なリスクを提示してくれます。
  2. 人間の目で「組織特有の事情」をチェックすること:
    AIは統計的に確率の高いリスクを提案してくれますが、個別のドロドロとした社内事情までは理解できません。たとえば「あそこの部署は非協力的である」「社長への報告ルートを間違えるとちゃぶ台返しを食らう」といった組織特有の政治的リスクは、人間同士の対話でしか特定できないのです。
  3. 個人情報や機密情報は絶対に入力しないこと:
    AIが入力データを学習にどう使用するかは、設定次第とはいえ完全に透明ではありません。未発表の製品仕様や個人名、財務データといった機密情報は、絶対に入力しないよう徹底してください。

主要アウトプット:リスク登録簿とリスク報告書

特定されたリスクは、以下の2つの重要な文書としてアウトプットされます。

① リスク登録簿(Risk register)

特定された個別のリスクを記録し、その後の対応を追跡するための「台帳(リポジトリ)」です。この初期段階では、以下の項目が記載されます。

  • IDとタイトル
  • リスク記述: 「〇〇という要因により → 〇〇というイベントが発生し → 〇〇という影響が出る」といった構造で分かりやすく書きます。
  • 担当者(リスク・オーナー)候補: そのリスクの監視を誰に任せるか。
  • 潜在的な対応策: 現時点で思いつく暫定的なアイデア。
  • リスク・トリガー: リスクが発生する前兆(引き金)となる条件。

② リスク報告書(Risk report)

特定された個別リスクの概要(脅威と好機の件数や傾向)や、プロジェクト全体の「全体リスク(Overall Risk)」の状況をまとめ、ステークホルダーへ報告・共有するための文書です。

まとめ:AIと人間の「良いとこ取り」で網羅する

プロジェクトに潜むリスクをすべて自力で洗い出すのは、熟練のPMであっても至難の業です。
だからこそ、PMBOKが提示するプロンプト・リスト(PESTLEなど)や、AIという優秀なアシスタントの力をフル活用してください。

AIに一般的なリスクの網羅を任せ、私たち人間は「組織内の複雑な人間関係」や「特殊な制約」といった泥臭いリスクの特定に集中する。この「良いとこ取り」のアプローチこそが、現代のプロジェクトにおいて最も効率的で強固な「リスク登録簿」を作り上げる秘訣です。

注

注
↑1 Project Management Institute『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)第8版』日本語版、第2部 2.7.2.2「リスクの特定」(96〜97ページ)、第4章(137〜138ページ)、第5章(191ページ、241ページ)より要約・引用。
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