コミュニケーション・マネジメントの計画とは何か?PMBOKの用語を解説

2020年4月28日

コミュニケーション・マネジメントの計画とは

コミュニケーション・マネジメントの計画とは、プロジェクト・チームのメンバーや、ステークホルダーとどのようにコミュニケーションをとっていくのかを計画していくプロセスです。
PMBOKでは「個々のステークホルダーまたはグループのニーズ、利用可能な組織の資産、プロジェクトのニーズに基づいたプロジェクト・コミュニケーション活動のための適切な取組み方と計画を策定するプロセス」と定義しています[1]PMBOK第6版、707頁。

コミュニケーション・マネジメントの計画のアウトプット

コミュニケーション・マネジメントの計画のプロセスのアウトプットは以下の通りです。

コミュニケーション・マネジメント計画書の作成が大きな目標

コミュニケーション・マネジメントの計画のプロセスのゴールはコミュニケーション・マネジメント計画書を作成することです。
コミュニケーション・マネジメント計画書とは、プロジェクトマネジメント計画書の構成要素で、いつ、誰が、どのようにプロジェクトの情報を管理し、発信するのかを記述したものです。つまり、コミュニケーション・マネジメントの計画で話し合われたことがこのコミュニケーション・マネジメント計画書にまとめられます。
このコミュニケーション・マネジメント計画書については別の記事で紹介していますので、そちらもご参照ください。

コミュニケーション・マネジメントで決めなければならないこと

ここでさらに理解を深めるためにコミュニケーション・マネジメント計画書の掲載事項を紹介します[2]PMBOK第6版、377頁。

  • ステークホルダー・コミュニケーション要求事項
  • 言語、書式、内容、詳細度などを含む伝達すべき情報
  • エスカレーション・プロセス
  • その情報を配布する理由
  • 必要とされる情報を配布する時間帯と頻度
  • 情報伝達の責任者
  • 情報を受け取る個人またはグループ
  • 情報伝達の手段や技術
  • コミュニケーション活動に割り当てる資源
  • コミュニケーション・マネジメント計画書の更新・改善の方法
  • 共有用語集
  • 情報の流れ
  • 制約条件

このようにコミュニケーション・マネジメント計画書ではプロジェクト中のコミュニケーションに関するさまざまな事項が掲載されます。言い換えればコミュニケーション・マネジメントの計画ではこれらの事項を決めていくことになります。

コミュニケーション・マネジメント計画書以外のアウトプット

コミュニケーション・マネジメント計画書の他、コミュニケーション・マネジメントの計画を考える中で、ステークホルダーとの関係が見直されるとプロジェクトマネジメント計画書(とくにステークホルダー・エンゲージメント計画書)が変更されることがあります。その場合はプロジェクトマネジメント計画書の更新が必要です。
同様にステークホルダー登録簿に変更があれば、これを更新します。
また、コミュニケーションの方法を考えていくと、当初の予定より作業の進行に時間がかかることもあります。
例えば、クライアントの会社が世界規模であり、海外のスタッフともコミュニケーションをとりながらプロジェクトを進めなければならない場合は、ものごとの決定に時間がかかる可能性が高いです。そうした場合、プロジェクト・スケジュールも変更する必要性がでてくるため、これを更新することもあります。

コミュニケーション・マネジメントの計画のインプット

コミュニケーション・マネジメントの計画を考える上で材料となるインプットは以下の通りです。

ここからはコミュニケーション・マネジメントの計画を考える上で、 上記のインプットのどこに注目すべきかをまとめていきます。

コミュニケーションをとるプロジェクト・チームを整理する

プロジェクト・チームとのコミュニケーションを円滑にとるために、どのような個人・団体がプロジェクトに携わっているのかを資源マネジメント計画書から確認していきます。
定例ミーティングステアリングコミッティに参加するようなメンバーであれば、コミュニケーションをとるのも難しくないかもしれません。しかし、毎回このような会議やミーティングに参加するわけではないデザイナーやコーダーなどのメンバーもプロジェクトにはいます。
そうしたプロジェクトのメンバーとどのようにコミュニケーションをとるのかもコミュニケーション・マネジメンの計画では考えていかなければならず、そのメンバーの整理と把握には資源マネジメント計画書が不可欠です。
また、ソフトウェア開発などのITプロジェクトだけでなく、どのようなプロジェクトであっても作業の一部をアウトソーシングすることもあります。
そうしたアウトソーシング先とも円滑にコミュニケーションをとっていく必要がありますが、今回のプロジェクトでどのような企業・個人にアウトソーシングするのかも資源マネジメント計画書から確認していきます。

コミュニケーションをとるステークホルダーを整理する

コミュニケーション・マネジメントの計画を考えていく上でプロジェクト中にコミュニケーションをとるべきステークホルダーを整理することは大切です。
ステークホルダーを整理するためにプロジェクト憲章ステークホルダー登録簿を確認していきます。
プロジェクト憲章にはプロジェクトの計画当初に認知されたプロジェクトのステークホルダーが記載されていることがありますし、ステークホルダー登録簿にはステークホルダーが一覧化されています。
これらを再度確認し、コミュニケーションをとらなければならないステークホルダーに漏れがないかを確認していきます。
そして、整理されたステークホルダーと円滑にコミュニケーションをとるために、ステークホルダー登録簿ステークホルダー・エンゲージメント計画書に目を通していきます。
ステークホルダー登録簿にはステークホルダーが一覧化されているだけでなく、プロジェクトへの期待や態度なども記載されています。
そしてステークホルダー・エンゲージメント計画書にはステークホルダー登録簿にまとめられたステークホルダーの個性も踏まえ、どのようにステークホルダーと関係性を築いていくかが記されています。
こうした資料はコミュニケーションを考える上でも役に立っていきます。

要求事項を確認する

コミュニケーションのとり方についても、プロジェクトの開始前後から要求されていることもあります。
その内容を知るには、要求事項文書を確認し、コミュニケーションの方法に何か要求がないかを調べます。

組織内外の環境を確認する

組織内外の環境はコミュニケーション・マネジメントの計画に大きな影響を及ぼします。
例えば組織の規模の大小や、立地、その組織のITツールの習熟度や組織文化など、コミュニケーションの方法を制約するようなさまざまな要因があります。
PMBOKでは、こうした組織体の環境要因がコミュニケーション・マネジメントの計画に影響を及ぼす可能性のある要因を以下のようにまとめています[3]PMBOK第6版、368頁。

  • 組織の文化、政治情勢、ガバナンスの枠組み
  • 人事管理方針
  • ステークホルダーのリスクしきい値
  • 確立したコミュニケーション・チャンネル、ツール、およびシステム
  • 世界規模、地域またはあ現地の傾向、慣行や習慣
  • 施設や資源の地理的分布

このようにさまざまな要因がコミュニケーション・マネジメントの計画に影響を与えますが、大切なことは、これらの中でコミュニケーションを円滑にするものは何かと、コミュニケーションを阻害したり、制約したりするものは何かを見定めることです。
例えば組織の中ですでに確立しているコミュニケーション・チャンネルやツールをそのまま利用すると、プロジェクトのコミュニケーションが円滑にすすみます。最近ではSlackやチャットワークなどのプロジェクトマネジメント情報システム(PMIS)を使うこともありますが、こうしたツールをプロジェクトでも使えればコミュニケーションがしやすくなります。
一方で、組織の政治情勢や慣行、習慣というのは円滑なコミュニケーションを阻害する要因になりやすいです。
例えば営業課と情報システム課の関係が悪い組織では、この間のコミュニケーションをとるのは難しくなります。
このように、組織体の環境要因にはコミュニケーションを促進する側面と阻害する側面があるため、それらを見きわめてコミュニケーション・マネジメントの計画を進めていく必要があります。

使えるノウハウがないか確認する

最後に組織のプロセス資産からコミュニケーション・マネジメントの計画を進めるために使えるノウハウがないかを確認します。
PMBOKでは以下のような組織のプロセス資産が紹介されています[4]PMBOK第6版、369頁。

  • ソーシャルメディア、倫理、およびセキュリティのための組織の方針と手続き
  • 課題、リスク、変更、およびデータ・マネジメントのための組織の方針と手続き
  • 組織のコミュニケーション要求事項
  • 情報の開発、交換、保管、および検索のための標準化されたガイドライン
  • 過去の情報と教訓リポジトリ
  • ステークホルダーと伝達事項のデータ、以前のプロジェクトからの情報

このように組織内に培われたノウハウや、過去の教訓から、コミュニケーション・マネジメントの計画を進める上で何か使えるものがないかをチェックします。

コミュニケーション・マネジメントの計画のツールと技法

コミュニケーション・マネジメントの計画のツールと技法は多岐にわたります。
PMBOKで紹介されている内容を一覧化すると、以下のようになります[5]PMBOK第6版、369~376頁

  • 専門家の判断
  • コミュニケーション要求事項分析
  • コミュニケーション技術
  • コミュニケーション・モデル
  • コミュニケーション方法
  • 人間関係とチームに関するスキル
  • データ表現
  • 会議

これらのツールや技法については、一つ一つに詳しい説明が必要なものもあるため、比較的簡単に説明できる専門家の判断、コミュニケーション要求事項分析、データ表現、会議にのみここで解説を加えます。

専門家の判断

コミュニケーション・マネジメントの計画を考える上で、専門家を招くこともあります。
招聘した専門家はプロジェクト・チーム、ステークホルダーの間でコミュニケーションを円滑にとる方法を考えていきます。
その際、組織の規模や習慣、政治情勢などの組織体の環境要因やガイドラインや教訓などの組織のプロセス資産に配慮しながら計画を練っていきます。

コミュニケーション要求事項分析

コミュニケーション要求事項分析は、以下のような情報源から、要求事項を分析し、要件定義を行っていきます。

  • コミュニケーション要求事項
  • ステークホルダー情報
  • 潜在的なコミュニケーション・チャンネルまたはパス
  • 開発アプローチ
  • プロジェクトに関係する専門分野、部門、特殊技能
  • プロジェクトへの参加人数、所在地といったロジスティックスに関する事項
  • 組織内のコミュニケーションなどの内部の情報ニーズ
  • メディアなどの外部の情報ニーズ
  • 法的要求事項

このようにさまざまな情報がある中で、要求事項にどのように応えていくのかを考えていくのがコミュニケーション要求事項分析で行うことです。

データ表現

コミュニケーション・マネジメントの計画を進めていく上で「ステークホルダー関与度評価マトリックス」がデータ表現として一般的です。
ステークホルダー関与度評価マトリックスを作成すると、各ステークホルダーに対して、現在の関与度と望ましい関与度のギャップを視覚的に把握することができます。
このステークホルダー関与度評価マトリックスについては、下に掲載したページもご参照ください。

会議

コミュニケーション・マネジメントの計画を進めるには、プロジェクト・チームとの綿密な議論が必要になります。
そのため、まずはプロジェクト・チーム間でのコミュニケーションをどのように固めていくのかを考えることから始めていくほうがよいかもしれません。

1PMBOK第6版、707頁。
2PMBOK第6版、377頁。
3PMBOK第6版、368頁。
4PMBOK第6版、369頁。
5PMBOK第6版、369~376頁