アーンド・バリュー・マネジメント(EVM)とは何か?見積りを使った分析方法であるアーンド・バリュー分析(EVA)と計算方法を解説
アーンド・バリュー・マネジメントとは
アーンド・バリュー・マネジメント(Earned Value Management、以下EVMと略記)とは、予定されていた見積額と完了した作業量、使用したコストを比較し、 プロジェクトの進捗状況を把握・評価する手法です。
PMBOKの定義によると「プロジェクトのパフォーマンスと進捗を評価するために、スコープ、スケジュール、および資源の測定値を結びつける方法論[1]PMBOK第6版、698頁。」のことを指します。
EVMで使用する用語(基本編)
EVMの中ではいくつかの専門用語がでてきます。
まずはEVMを用いる上で基本となる用語を確認していきましょう。
アーンド・バリュー(Earned Value)
アーンド・バリュー(Earned Value、以下EVと略記)とは、実際に作業された作業量のことを意味します。出来高とも呼ばれ、PMBOKの定義によると、「その作業に計上された予算で表す遂行作業量 [2]PMBOK第6版、698頁。 」を意味しています。
“Earned Value"を直訳すると「稼いだ価値」、 「稼いだ値」となりますが、これはEVが予算を指標にして作業量を計測していることに由来します。
例えば見積り上、10万円の作業を完了させたら、EVが10万円計上されるということになります。
プランド・バリュー(Planned Value)
プランド・バリュー(Planned Value、以下PVと略記)とは、予算額のことを意味します。 PMBOKの定義によると、「予定作業に割り当てられた認可済みの予算 [3]PMBOK第6版、727頁。 」を意味しています。
また、PVはもう一つの側面を持っています。それは「計画上のある時点までに消費されているはずの、承認コスト[4]深沢隆司『48のキーワードから学ぶ実践プロジェクトマネジメント』翔泳社、2004年、172頁。」という一面で、EVMの大きな指標になっています。
つまり、EVMというのは予定されていた見積額であるPVに比べて出来高であるEVがどの程度達成されているのかを測定し、進捗を把握していきます。
実コスト(Actual Cost)
実コスト(Actual Cost、以下ACと略記)はその名の通り、実際に使用したコストのことを指します。 PMBOKの定義によると、「所定の期間においてアクティビティの作業実行時に実際にかかったコスト[5]PMBOK第6版、727頁。 」を意味しています。
いわゆる予算超過が発生していないかを確認するために使用していきます。
アーンド・バリュー分析(EVA)の手法
PM試験を参考に分析手法を解説
ここからはIPAのプロジェクト・マネージャ試験(PM試験)の問題から、EVMの分析手法であるアーンド・バリュー分析(EVA)を解説していきます。
平成28年度のPM試験・午前Ⅱの問8では4つのEVMのグラフから「コストが超過せず、納期にも遅れないと予想されるプロジェクトの状況を表しているのはどれか[6]平成28年度春期PM試験午後Ⅱ問8より。」を選択させる問題が出ています。
上の図1はこのPM試験の問題と同様のEVMのパターンをまとめたものです。この図を見ながら、EVMの分析手法を見ていきましょう。
EVMのグラフの読みとり方
図1にあるように、EVMのグラフは横軸に時間、縦軸に金額を取り、EV、PV、ACの3つの数値の累計額を図式化していきます。
PVは計画上の数値であるため、時間軸の右端、つまりプロジェクト終了時点までのグラフが描けます。一方で、EVとACは実際の数値をとるため、現在時点のグラフまでしか作成することができません。
しかし、EVMで分析するときはEVとACが途中まででまったく問題ありません。むしろ、その現在時点でEV、PV、ACがどのような関係にあるのかを見ていくのがEVMの分析手法です。
PVとEVを比較する
まずはPVとEVを比較して進捗状況を把握していきましょう。
プロジェクトが完全に完了した時点では PVとEVは完全に一致している状態になります。なぜなら、プロジェクト終了時点のPVはそのプロジェクトのすべての作業量を表しており、EVがこれに届いていないということはすべての作業が完了していない、つまりプロジェクトが終わっていないことを示しているからです。
しかし、プロジェクトの途中であれば、PVとEVの関係は変化します。
現在時点のPVとEVを比較してわかることは以下の通りです。
- PV ≦ EV …進捗良好
- PV > EV …進捗不良(スケジュール遅延)
作業完了した金額(EV)が予定していた見積金額(PV)と同じかそれ以上であれば、プロジェクトの進捗は良好であり、スケジュールの遅延は発生していないことがわかります。
一方で、EVがPVを下回っていると、当初予定していたほど作業が終わっていないことを意味しており、スケジュールの遅延が発生していることがわかります。この状態が続いてしまうと納期に間に合わない可能性が高いです。
図1を見ていくと、現在時点でEVがPVを上回っているのは、パターン①とパターン③です。この2つの状況であれば納期には間に合いそうです。
一方で図1のパターン②とパターン④はEVがPVを下回っており、スケジュールの遅延が発生していることがわかります。進捗不良の原因を調査し、対策を講じる必要があります。
ACとEVを比較する
次はACとEVを比較して、プロジェクトが予算内に収まっているかを確認していきます。
現在時点のACとEVを比較してわかることは以下の通りです。
- AC ≦ EV …見積範囲内
- AC > EV …コスト超過
先述の通り、ACというのは実際に使ったコストです。
実際に完了した作業量であるEVと比べて、ACが小さければ、見積額内にコストが収まっており、利益が発生している状態です。
しかし、ACがEVより多くなっている場合はコスト超過が発生しています。
こうした状況が発生する原因として「予想以上にソフトウェアの開発時間がかかってしまった」、「遅れているスケジュールの進捗を挽回するために、スタッフを増員した」というものが挙げられます。
図1で言えば、パターン①とパターン②はコストを抑えられていますが、パターン③とパターン④はコスト超過が発生しています。
このACとEVの違いによる予算に対する過不足額は「コスト差異」と呼ばれます。
パターン①が最良、パターン④は最悪
PM試験の問題に戻り、図1の4つのパターンを改めて見ると、スケジュールの進捗もよく、コストの超過も発生しないのはパターン①です。パターン①はEVがPVを上回っており、なおかつEVがACも上回っています。平成28年度PM試験・午前Ⅱ問8の「コストが超過せず、納期にも遅れないと予想されるプロジェクトの状況を表しているのはどれか」に回答すべきはパターン①のようにEVがPVもACも上回っているグラフです。
一方で最悪なのはパターン④の状況で、EVがPVを下回っており、さらにEVがACよりも低い状態にいます。いわゆる「炎上」状態のプロジェクトとはまさしくこのような状況であり、スケジュールが遅延している上に、その進捗をカバーするために出費を増やしている状況がうかがえます。
その他のパターン②とパターン③も見ていきましょう。
パターン②はコストの超過は発生していないものの、進捗に遅れがでています。この状態であればスケジュールを組みなおして進捗を早めるか、人員を増加してPVを上回るようにしていく必要があります。
パターン③はEVがPVを上回っておりスケジュールに遅れはでていないものの、ACがEVを上回っており、コスト超過が発生しています。 「依頼を受けた内容が予想以上に難しいものでコストを使って対応した」というように、見積時点のミスにより発生することがよくあります。
EVMで使用する用語(応用編)
EVMではEV・PV・ACを比較するだけでなく、簡単な計算からまた違った角度でプロジェクトの分析をすることができます。
ここからはEVMで使用する用語の応用編として、追加で用語を紹介していきます。
スケジュール効率指数(Schedule Performance Index)
スケジュール効率指数(Schedule Performance Index、以下SPIと略記)とは、EVをPVで除して算出したスケジュール効率の尺度で、以下の計算式で求められます。
- SPI = EV ÷ PV
結局のところは分子のEVと分母のPVを比較しているだけですので、これまで見てきた知識で何をしているかが判断できます。
SPIが1より低いというときは、分子のEVが分母のPVより小さい、つまり計画していた出来高より実際の出来高が少ないため、スケジュール効率が悪いと言えます。逆に、1より高ければ、EVがPVより大きく、スケジュール効率が良い状態だと考えられます。
コスト効率指数(Cost Performance Index)
コスト効率指数(Cost Performance Index、以下CPIと略記)とはEVをACで除して算出した資源のコスト効率の尺度 で、以下の計算式で求められます。
- CPI = EV ÷ AC
これも分子のEVと分母のACを比較しているだけなので、これまでにすでに見てきた内容です。
CPIが1より低いということは、分子のEVが分母のACより小さいことを意味しているため、投入したコストに比べて出来高が少なく、コスト効率が悪いことを意味しています。
一方で、CPIが1より大きければ、EVがACより大きいため、コスト効率が良いことを示しています。
完成時予測コスト(EAC)
完成時予測コスト(Estimate At Completion、以下EACと略記)は、現在のプロジェクトの推移で、最終的なコストがどのようになるかを推計するものです。
EACを算出するには、状況に応じて3種類の計算式を使い分けていきます[7]深沢隆司『48のキーワードから学ぶ実践プロジェクトマネジメント』翔泳社、2004年、177頁。。
- EAC = AC + ETC … 過去の前提条件に誤りがある場合に使用
- EAC = AC + (BAC – EV) … 差異が特異である場合に使用
- EAC = AC + (BAC – EV) ÷ CPI … 差異が同じように推移すると想定できる場合に使用
EACはプロジェクトの途中で行う最終的なコストの推計ですが、プロジェクトを進めていく中で過去の前提条件に誤りがあり、当初の予算の見積りなどがあてにならない場合は、1番目の計算式(EAC = AC + ETC)を使います。ETCは残作業コスト見積りを意味し、実際に使った費用と残作業のコスト見積りを合算して、完成時のコストを見積もります。
プロジェクトのコストの推移が概ね計画通りに進んでいるものの、部分的に計画との差がでている場合は、2番目の計算式(EAC = AC + (BAC – EV))を使用します。
この計算式では、実コストに、計画していた総予算から出来高(EV)を差し引いたものを加えて、最終的なコストを推計します。
ある時点から予算と実コストに差異が発生し、それが同様に推移している場合は3番目の式(EAC = AC + (BAC – EV) ÷ CPI)を使用します。
「同じ状況がこれからも続いていく」という状況を表すために、CPIを使って調整を行っています。
完成時差異(VAC)
完成時差異(Variance At Completion、以下VACと略記)は完成時総予算(BAC)と完成時予測コスト(EAC)との差異を求めていきます。
従って、完成時差異は以下の計算式で導き出されます。
- VAC = BAC – EAC
VACは、プロジェクト開始前や直後に見積もった予算とプロジェクト中に改めて予測した完成時のコストとの間にどの程度の乖離があるのかを確認していきます。
VACの値がマイナスになってしまう場合は、進めているプロジェクトが予算オーバーになってしまう可能性があるため、対策を講じる必要があります。
残作業効率指数(TCPI)
残作業効率指数(To-Complete Performance Index、以下TCPIと略記)とは、プロジェクトを完了させるために、残資源で達成しなければならないコスト効率指数を意味しています[8]PMBOK第6版、266頁。
TCPIは以下の計算式で導き出されます。
- TCPI = (BAC – EV) ÷ (BAC – AC)
上記計算式の中のBACはEACに置き換えられることもあります。
正確な進捗管理は正確な見積りから
今回はEVMの紹介と、その分析手法について解説していきました。
EVMでは見積書の金額を使うことによって進捗を把握することができるため、数量的に進捗状況を把握でき、実コストを加えることで、コスト超過の有無も確認することができます。
そのため、EVMを導入する上で重要なのは、プロジェクトの正確な見積りをすることです。
プロジェクトの失敗の大きな要因の一つは「不正確な見積り」と言われています[9]ロバート・L・グラス (著)、山浦 恒央 (訳)『ソフトウエア開発 55の真実と10のウソ』日経BP出版センター、2004年、42頁。。もしEVMを導入して、ACがEVを上回ってしまうことが多いのであれば、まずは見積りの手法から見直したほうがよいのかもしれません。