コミュニケーションのマネジメントの概要
コミュニケーションのマネジメントとは、プロジェクト情報の収集、作成、配布、保管、検索、マネジメント、監視、そして最終的な処分(廃棄やアーカイブ)を、タイムリーかつ適切に行うプロセスです[1]Project Management Institute, Inc., A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition(日本語版), 第2部 … Continue reading。
このプロセスの主な効果は、プロジェクトチームとステークホルダーの間の情報フローを効率的かつ効果的にすることにあります。
「プロジェクトマネージャーの仕事の9割はコミュニケーションだ」とよく言われます。実際、計画を立てる作業よりも、誰かに伝える・確認する・調整するといった作業に時間を使っている実感がある方は多いのではないでしょうか。それだけ比重の大きい仕事を、場当たり的にではなく管理された形で回していくのが、このプロセスの役割です。
なお、実施タイミングはプロジェクトの開始から終結まで、期間を通じて継続的です。
計画通りに流すだけでは足りない——柔軟性が鍵
前段の「コミュニケーション管理の計画」で計画書を作ったのだから、あとはその通りに情報を流せばよい。そう考えたくなりますが、PMBOK第8版はそこに釘を刺しています。
このプロセスで重視されているのは、ステークホルダーやプロジェクトの状況変化(フェーズの移行、新たな関係者の参入など)に迅速に対応できるよう、コミュニケーション活動の柔軟性を高め、方法や技法を柔軟に調整することです。
計画時点では想定していなかった相手が現れることも、週次の定例では追いつかない事態が起きることもあります。計画に縛られるのではなく、計画を土台にしながら実態に合わせて手段を変えていく——それがこのプロセスの姿勢です。
このプロセスのインプット
プロジェクトマネジメント計画書
- 資源マネジメント計画書
- コミュニケーション・マネジメント計画書:誰に、何を、いつ、どう伝えるかの基本ルール
- ステークホルダー・エンゲージメント計画書:誰にどう関与してもらうかの戦略
プロジェクト文書
- 変更ログ
- 課題ログ
- 教訓登録簿
- 品質報告書
- リスク報告書
- ステークホルダー登録簿
作業パフォーマンス報告書
進捗、コスト、品質、リスクといった各種のパフォーマンス情報を統合した、配布用の報告ドキュメントです。このプロセスで実際に配られる情報の中核になります。
組織体の環境要因(EEF)・組織のプロセス資産(OPA)
組織の文化や既存の情報基盤、過去のプロジェクトで使われたテンプレートなどが該当します。
ツールと技法
コミュニケーション技術
情報交換に使用するハードウェアやソフトウェアです。どのツールを使うかは、相手の環境や情報の性質によって変わります。
コミュニケーション方法
情報を伝える手続きの区分です。大きく3つに分かれます。
| 方法 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 双方向 | 相互にやり取りする | 会議、電話、対面での打ち合わせ |
| プッシュ型 | こちらから送りつける | メール、レポートの送付 |
| プル型 | 相手に取りに来てもらう | 共有フォルダ、社内ポータル、ナレッジベース |
送ったから伝わったとは限らない、というのがこの区分の含意です。確実に理解してほしいことをプル型で置いておくだけでは届きませんし、逆に細かな参考資料をすべてプッシュ型で送りつければ、重要な情報が埋もれます。
コミュニケーション・スキル
- コミュニケーション・コンピテンス:明確さ、関係構築、リーダーシップなどを統合したスキル
- フィードバック:伝えた内容が正しく伝わったかを相互に確認する
- 非言語コミュニケーション:ボディランゲージ、声のトーン、ジェスチャー
- プレゼンテーション:相手の期待やニーズに合わせた効果的な説明
プロジェクトマネジメント情報システム(PMIS)
ドキュメント管理システムやコミュニケーション・プラットフォームなど、情報を一元的に扱う仕組みです。
プロジェクト報告
パフォーマンス報告書や状況報告書を生成し、配布する一連の作業を指します。
人間関係とチームに関するスキル
このプロセスでとくに幅広く挙げられているのが、対人スキルです。
- 積極的傾聴:誤解を排除し、相手が本当に言いたいことの理解に努める
- コンフリクト・マネジメント:意見の不一致や対立を解決する
- 文化的な認識:文化的背景の違いによる行き違いを最小化する
- 会議のマネジメント:会議の目的を達成し、効率的に運営する
- ネットワーキング:非公式な組織内ネットワークを構築し、活用する
- 政治的認識:組織内のフォーマル・インフォーマルな権力関係を理解する
なかでも積極的傾聴は、最も基本でありながら最も効きます。相手の発言をそのまま受け取るのではなく、「つまりこういうことでしょうか」と確認しながら進めるだけで、後の手戻りはかなり減るはずです。
また、ネットワーキングと政治的認識が正式なスキルとして挙げられている点も見逃せません。公式な指揮命令系統だけでは物事が動かない場面は現実に存在します。誰に話を通しておくと進みやすいのかを把握しておくことは、PMの実務スキルの一部だということです。
会議
PMBOK第8版で加わった視点:AI活用と、そのセキュリティ確認
第8版では、現代のテクノロジーを踏まえたガイダンスが加わっています。
コミュニケーション作成物へのAI活用
スポンサー、ステークホルダー、チーム、外部ベンダーとのやり取りに使うメールや報告書といった「コミュニケーション作成物」を生成する際に、AI(LLMなど)をどう活用すべきかを評価する、とされています。
導入前に、セキュリティチームと連携する
ここが重要な点です。AIを導入する際は、機密情報の意図しない漏洩や、AI特有の誤情報(ハルシネーション)といったリスクが、組織にとって受け入れられる範囲かどうかを事前に判断する必要があります。
そのために、サイバーセキュリティチームなど適切なステークホルダーと事前に連携する「倫理・セキュリティ面での積極的な措置」が不可欠だと明記されています。
つまり、AIを使うかどうかを担当者個人の判断で決めるのではなく、組織としての合意事項として扱いなさい、ということです。プロジェクトの情報には顧客の機密や未公開の計画が含まれることも多いので、この整理は実務的だと思います。
プロダクトの特性に応じたコミュニケーション・イベント
適応型アプローチ(アジャイル開発など)を取り入れるプロダクト開発では、コミュニケーションの手段として、あらかじめアプローチに組み込まれた**共通のイベント(セレモニー)**を積極的に活用することが推奨されています。
- プロダクトレビュー(デモ)
- 計画セッション
- プロジェクト・レトロスペクティブ(振り返り)
こうした場を定期的に設けることで、ステークホルダーに高頻度かつリアルタイムに更新情報が届き、関与を維持しやすくなります。報告書を作って送るという形式だけがコミュニケーションではない、という視点です。
アウトプット
プロジェクト伝達事項
実際に配布・作成されたパフォーマンス報告書、プレゼンテーション、ステータス更新など、情報そのものがアウトプットになります。
プロジェクトマネジメント計画書の更新
- コミュニケーション・マネジメント計画書
- ステークホルダー・エンゲージメント計画書
実際にやってみて分かったこと(この頻度では多すぎた、この相手には別の手段が必要だった など)を、計画側に反映していきます。
プロジェクト文書の更新
課題ログ、教訓登録簿、プロジェクト・スケジュール、リスク登録簿、ステークホルダー登録簿。
組織のプロセス資産の更新
うまくいった報告フォーマットや会議の進め方は、組織の資産として次のプロジェクトに引き継がれます。
まとめ
コミュニケーションのマネジメントは、計画した通りに情報を流す作業ではなく、状況の変化に合わせて手段を調整しながら、情報が確実に届いている状態を保つプロセスです。
第8版では、AIをコミュニケーション作成物の生成に使う際、セキュリティチームと事前に連携して組織的な合意を取ることが求められています。便利さだけで判断せず、扱う情報の性質を踏まえて線を引いておきたいところです。
注
| ↑1 | Project Management Institute, Inc., A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition(日本語版), 第2部 2.5.2.5(285頁、図2-37)、第4章(310-312頁など)、第5章(316-324頁など)より要約。 |
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