【PMBOK第7版】計画パフォーマンス領域について解説
プロジェクト・マネジャーとして、プロジェクトを成功させるためにはどこに注目したらよいのでしょうか?
プロジェクトマネジメントのガイドラインであるPMBOK第7版では、「プロジェクトの成果を効果的に提供するために不可欠な、関連する活動」をプロジェクト・パフォーマンス領域と呼び、以下の8つの領域に注目しています[1]PMBOK第7版「プロジェクトマネジメント知識体系ガイド」、7頁。。
- ステークホルダー
- チーム
- 開発アプローチとライフサイクル
- 計画
- プロジェクト作業
- デリバリー
- 測定
- 不確かさ
プロジェクトは様々な要素が影響して成否が決まりますが、これら8つに注意をすることで、プロジェクトの成功率を大きく高めることができます。
今回は8つのパフォーマンス領域の1つである「計画パフォーマンス領域」について解説していきます。
計画パフォーマンス領域とは何か?
PMBOK第7版では、計画パフォーマンス領域を以下のように定義しています。
計画パフォーマンス領域は、初期、継続中、進化中のプロジェクト組織に関連した活動と機能、およびプロジェクト成果物と成果を提供するために必要となる調整を扱う。
PMBOK第7版、51頁。
PMBOK第6版まで、PMBOKの内容の大半はこの計画に関わるものでした。
しかしそれは精度の高い計画を作成すればプロジェクトは成功するという予測型アプローチを前提にしたものでした。
計画の変更が想定されている適応型アプローチやハイブリッド型アプローチが採用されるようになるにつれ、プロジェクトマネジメントの中の計画の比重は小さくなっています。
そのため、PMBOK第7版での計画はプロジェクトで注意すべき8つのパフォーマンス領域の内の1つになっています。
とはいえ、依然として計画がプロジェクトマネジメントで重要な存在であることは変わりありません。
計画に影響を与えるもの(計画変数)
PMBOK第7版では計画策定に影響を与えるものを「計画変数」と呼んでいます。
PMBOK第7版で紹介されている主な計画変数は以下のとおりです。
- 開発アプローチ
- プロジェクトの成果物
- 組織の要求事項
- 市場の状況
- 法律または規制による制限
- デリバリー
- 見積り
- スケジュール
- 予算
- プロジェクト・チームの編成と構造
- コミュニケーション
- 物的資源
- 調達
- 変更
- メトリックス
- 整合
以上のように計画変数は多岐にわたります。ここですべての計画変数を詳しく紹介することはできないため、複雑な内容の解説は他ページに譲りながら、計画変数を概観していきましょう。
開発アプローチ
どのような開発アプローチを採用するかは、プロジェクトの計画に大きな影響を与えます。
プロジェクトの開発アプローチは以下の3つの手法があります。
- 予測型アプローチ
- 適応型アプローチ
- ハイブリッド・アプローチ
予測型アプローチとは、ウォーターフォール型(ウォーターフォール・モデル、ウォーターフォール・アプローチ)とも呼ばれる手法で、プロジェクト初期に作成した計画を重視してプロジェクトを進めていきます。
一方、アジャイル開発に代表される適応型アプローチでは、プロジェクトのビジョンを明確にし、そのビジョンを実現するために状況に応じてプロジェクトを進めていきます。
ハイブリッド・アプローチは予測型アプローチと適応型アプローチの要素を組み合わせながらプロジェクトを進めていく手法です。
これらの開発アプローチについては下記の記事で詳しく解説しているのでご参照ください。
PMBOK第7版の「開発アプローチとライフサイクル・パフォーマンス領域」では、これらの開発アプローチの内、どの開発アプローチを採用すればよいかを考えていきます。
この開発アプローチとライフサイクル・パフォーマンス領域については下記の記事で解説していますので、ご参照ください。
プロジェクトの成果物
プロジェクトの成果物もプロジェクトの計画に影響を与えます。たとえば、建築物のように適応型アプローチの採用が難しい成果物であれば、予測型アプローチを採用するため、綿密な計画を練ることが求められます。
一方ソフトウェア開発では適応型アプローチやハイブリッド型アプローチを採用することもあります。その場合は、採用した開発アプローチに応じた計画を考える必要があります。
組織の要求事項
プロジェクトを進めていく組織からの要求事項もプロジェクトの計画に影響を与えます。
たとえば会社の「若手社員育成プロジェクト」など、単に目的の成果物を得るだけでなく、人材の育成も求められるプロジェクトであれば、人材育成も想定したプロジェクト計画を練る必要が出てきます。
このように、組織の要求事項も考慮し、プロジェクトの計画を練っていきます。
市場の状況
プロジェクトの成果物を送り出す市場の状況によっても、計画が左右されます。
たとえば、競争が激しく、短い期間で製品・サービスを送り込まなければならない場合は、アジャイル開発などの適応型アプローチを採用する必要があります。それだけでなく、人的・物的資源の調達のしやすさも、市場の状況によって変化します。
市場の状況を見て、適切な計画を立てる必要があります。
法律または規制による制限
計画の前には法律や規制を確認し、プロジェクトの制限がないかを調べる必要があります。
たとえば、プロジェクトで開発した製品を市場に送り込む際に、国の審査が必要ということであれば、その審査の手続きや期間も計画に織り込んでおかなければなりません。
デリバリー
デリバリー、つまり納品やリリースのサイクルや方法も計画に影響を与えます。
見積り
計画において、見積りは重要な作業の1つです。プロジェクトでは作業工数や所要期間、コスト、人員、物的資源など、さまざまな見積りをしていきます。
見積り方法については、以下のような手法があります。
スケジュール
先述の見積り方法を用いてスケジュールを見積もっていきます。
まず、どのような作業(アクティビティ)が必要かを洗い出し、作業の前後関係や依存関係を確認しながらスケジュールを立てていきます。
これらの内容については、下記の記事をご参照ください。
予算
プロジェクトの予算を策定するためにコストの見積りを作成します。まず、そのプロジェクトでどのような資源が必要なのかを特定し、コストの見積りを作成していきます。
これらの活動については下記の記事をご参照ください。
プロジェクト・チームの編成と構造
プロジェクト・チームの編成と構造はコストやコミュニケーションの方法に影響を与えるため、計画にも影響を及ぼします。
チームに加えようとしている人員のスキルや経験を評価し、内製・外製分析を行い、外部の人員を確保する場合は、そのコストも評価しなければなりません。
また、作業をする場所も同じオフィスなのか、それとも地理的に離れたメンバーとオンラインで作業をするのかという点も、計画に影響します。
コミュニケーション
プロジェクトでは様々なステークホルダーとコミュニケーションをとっていきます。そのため、コミュニケーションの方法も計画をしなければなりません。
コミュニケーションの計画では以下の点を考慮します。
- 誰が情報を必要としているのか。
- どのような情報を各ステークホルダーが必要とするのか。
- なぜステークホルダーと情報を共有する必要があるのか。
- 情報を提供する最善の方法は何か。
- いつ、どれくらいの頻度で情報が必要とされるのか。
- 誰が必要な情報を持っているのか。
物的資源
プロジェクトでは、人だけでなく、設備などの物的資源が必要になることもあります。
この物的資源を調達するのにどのくらいのコストがかかるのかを見積るだけでなく、それが必要な時に使えるように手配をしなければなりません。
調達
先ほどの物的資源と密接に関係しているのが調達です。
調達とは、プロジェクトに必要な物的資源を使えるようにする活動です。社内で必要な物的資源を製作するにせよ、外部から購入するにせよ、そのスケジュールを見積り、必要な時期に使用できる状態にしなければなりません。
変更
プロジェクトではさまざまな変更要望が発生します。たとえば、開発中のソフトウェアの仕様変更について、ステークホルダーに言われるがままに対応していくと、たちまちプロジェクトは頓挫してしまいます。
そのため、変更の内容と変更によるリスクを加味して対応するか否かを決定し、その優先度を付けていかなければなりませんが、この変更管理をどのように進めていくのかをあらかじめ計画しておくことが大切です。
メトリックス
メトリックスとは、計画・デリバリー・測定の結びつきのことを指します。たとえばテストの計画やプロジェクトのベースラインを定めていきます。
プロジェクトのベースラインについては、下記の記事もご参照ください。
整合
整合とは、計画と成果物を統合することです。
たとえば、見積りの計画をした場合、見積書がその成果物になります。このように計画の結果がどのような成果物となって現れるのかをあらかじめ確認しておくことも大切です。
プロジェクト計画書を作る
PMBOK第7版では重視されていませんが、PMBOK第6版では計画した内容はプロジェクト計画書(プロジェクトマネジメント計画書)にまとめていました。
プロジェクト計画書はスケジュールや見積り、変更管理などの計画をまとめた文書です。
プロジェクト計画書については、下記の記事もご参照ください。
計画パフォーマンス領域の成果をチェックする
PMBOK第7版によれば、計画パフォーマンス領域で実施した活動が効果を上げていると、以下のような状態になります[2]PMBOK第7版、68頁。。
- プロジェクトは、組織化され、調整され、計画的に進む。
- プロジェクトの成果を提供するための総合的なアプローチがある。
- プロジェクトの進展に伴い、実施目的である成果物と成果を生み出すために、情報が詳細化される。
- 状況に見合った時間を計画に費やす。
- 計画情報は、ステークホルダーの期待をマネジメントするのに十分である。
- 新たなニーズ、あるいはニーズや状況の変化に基づいて、プロジェクト期間を通じて計画を適合させるプロセスがある。
つまり、以下のような問いをプロジェクト・チーム内で考えながら、計画パフォーマンス領域の効果をチェックしていきます。
- 計画通りか否かを判断する、プロジェクトのベースラインなどの測定基準が設けられているか?
- デリバリー・スケジュールや資金調達などの計画が、全体的な方法で立てられているか?
- 計画と成果物は整合しているか?
- プロジェクトに応じたプロジェクト計画書やプロジェクト文書が作成されているか?
- ステークホルダーの期待をマネジメントできる計画が立てられているか?
- 変更管理の計画が立てられているか?