UGC活用ガイド:【初心者マーケター向け】基本とステップ
近年、マーケティングを取り巻く環境は大きく変化しており、消費者の情報収集行動も多様化しています。
かつては企業が発信する広告が主な情報源でしたが、インターネットやSNSの普及により、消費者はより多くの情報を簡単に入手できるようになりました 。
このような状況下で、従来の企業主導のマーケティング手法だけでは、消費者に情報が届きにくくなっています。
その背景には、広告に対する消費者の不信感の高まりと、第三者である他の消費者の意見をより信頼する傾向が強まっていることが挙げられます 。
本記事では、このようなマーケティング環境において注目を集めている「ユーザー生成コンテンツ(User Generated Content:以下UGC)」について、新任のマーケターの皆様に向けて分かりやすく解説いたします。
UGCの基本的な定義から、消費者が購入時に重視する理由、具体的な種類、マーケターが活用するメリットと注意点、そして効果的な活用方法までを網羅的にご紹介することで、皆様が今後のマーケティング活動にUGCを効果的に取り入れるための一助となれば幸いです。
なお、UGSという類似の略語も存在しますが、本記事では特に断りがない限り、User Generated Contentを指すものとします 。同じ略語が文脈によって異なる意味を持つ可能性があるため、ご注意ください。
User Generated Content(UGC)とは
UGCの定義
UGCとは、「ユーザー生成コンテンツ」の略称であり、一般の消費者が主体となって作成したコンテンツ全般を指します。
具体的には、SNSへの投稿、レビューサイトの口コミ、ECサイトの商品レビュー、個人のブログ記事、ユーザーが作成した写真や動画などがこれにあたります 。
UGCの特徴は、企業自身が作成した広告やプロモーションコンテンツ、あるいは企業がインフルエンサーに依頼して作成してもらったコンテンツとは異なり、ユーザーが自発的に情報を発信している点にあります。
企業からの依頼ではないため、ユーザーの率直な意見や感想が反映されやすく、客観性が高いと考えられています。
消費者は、企業が発信する情報よりも、同じ立場であるユーザーのリアルな体験談や意見を信頼する傾向が強いため、UGCはマーケティングにおいて重要な役割を担っています。
UGCと類似する用語との違い
UGCと混同されやすい用語として、「CGM(Consumer Generated Media)」と「IGC(Influencer Generated Content)」があります。
CGMは、「コンシューマー生成メディア」の略で、ユーザーの投稿によって成り立つメディアやプラットフォームのことを指します。
具体例としては、食べログやアットコスメのような口コミサイト、X(旧Twitter)やInstagramなどのSNS、YouTubeなどの動画共有サービスなどが挙げられます 。
UGCが個々のユーザーによって作成されたコンテンツそのものを指すのに対し、CGMはそれらのUGCが集まって形成されたメディア全体を指すという違いがあります 。
一方、IGCは「インフルエンサー生成コンテンツ」の略で、インフルエンサーと呼ばれる、特定の分野で影響力を持つ人物によって発信されるコンテンツのことです。
発信者が一般ユーザーであるかインフルエンサーであるかによって区別されます。IGCは、企業がマーケティング戦略の一環としてインフルエンサーに依頼して作成されることが多いですが、広義にはUGCの一種として捉えられることもあります 。
このように、UGC、CGM、IGCはそれぞれ異なる概念でありながら、現代のマーケティングにおいては密接に関連しており、マーケターはそれぞれの特徴を理解し、目的に応じて適切に活用する必要があります。
消費者が商品購入の際にUGCを重視する理由
消費者が商品を購入する際、UGCを重視する背景にはいくつかの理由があります。
信頼性の高さ
第一に、UGCは企業が発信する広告と比較して、消費者に高い信頼性を持たれる傾向があります。
近年、インターネット広告が氾濫する中で、消費者は企業の宣伝文句に対して懐疑的な目を向けるようになっています。
一方、UGCは実際に商品やサービスを利用したユーザーの率直な意見や体験談であるため、よりリアルで客観的な情報として受け止められやすい傾向にあります。
また、ポジティブな情報だけでなく、ネガティブな情報も含まれているUGCの方が、消費者にとって信頼性が高まるという研究結果もあります。
肯定的な意見ばかりだと、消費者は「本当に良いことばかりなのか?」と疑念を抱くことがありますが、否定的な意見も開示されていることで、よりバランスの取れた情報だと認識し、参考にしやすくなります。
これは、マーケターにとって、ネガティブなUGCを隠蔽するのではなく、真摯に対応することの重要性を示唆しています。
購入決定への影響力
UGCは、消費者の商品購入の意思決定に大きな影響を与えます。
多くの消費者が、商品やサービスを購入・利用する際に、インターネット上の口コミやレビューを参考にすることが一般的になっています。
実際に、ある調査によると、オンラインでの購入を検討する際、消費者の約80%がレビューを参考にしているというデータもあります。
特に、SNSの普及は消費者の購買行動に大きな変化をもたらしており、友人やフォローしている人の投稿、SNSで話題になっている情報などが購入のきっかけになるケースが増えています 。
このような消費者の行動の背景には、「社会的証明」や「バンドワゴン効果」といった心理効果も働いています。
多くの人が良い評価をしている商品やサービスは、「きっと良いものだろう」と感じやすく、購入を後押しする力となるのです。マーケターは、UGCを積極的に活用することで、これらの心理効果を味方につけ、購買意欲を高めることができます。
リアルな体験の共有
UGCは、実際に商品やサービスを利用したユーザーの体験に基づいて作成されるため、これから購入を検討している消費者にとって、購入後のイメージが非常にしやすいというメリットがあります。
企業が発信する広告では伝えきれない、商品の細かな使用感や、どのようなシーンで活用できるかといったリアルな情報がUGCには詰まっているため、消費者はより具体的なイメージを持って購入を検討できるのです。
また、UGCは、実際に利用したユーザーの生の声であるため、購入後の後悔を避けるための重要な情報源となります 。
消費者は、広告の理想化された情報よりも、実際のユーザーの生活に根ざした情報を求めているため、UGCを活用することで、商品の具体的な利用シーンを潜在顧客に伝え、購買意欲を高めることができるのです。
UGCの具体的な種類
UGCには、様々な形式が存在します。以下に代表的な種類をまとめます。
UGCの種類 | 具体例 |
---|---|
テキストコンテンツ | レビューサイトのレビュー、ECサイトの商品レビュー、SNSのコメントや投稿、ブログ記事、Q&Aサイトの投稿 |
視覚的コンテンツ | SNS投稿、レビュー投稿などの写真、商品レビュー、開封動画、使用シーンなどの動画、イラスト |
音声コンテンツ | ポッドキャスト(製品レビュー、体験談など) |
その他の形式 | 評価・レーティング、ハッシュタグ付き投稿、ユーザー作成レシピ、まとめサイト、地図アプリの口コミ、アプリストアのレビュー、投票コンテンツ、ライブ配信コメント、フォーラム投稿、ニュース記事コメント、SNSアンケート回答、プロフィール、投票、リアクション、お気に入りリスト、ユーザー名 |
マーケターにとってUGCを活用するメリット
マーケターがUGCを活用することには、多くのメリットがあります。
信頼性の向上
繰り返しになりますが、消費者は企業が発信する情報よりも、実際に商品やサービスを利用したユーザーの声を信頼する傾向が非常に強いです。
UGCを自社の広告やコンテンツに活用することで、客観的な視点を取り入れることができ、ブランド全体の信頼性を高める効果が期待できます。
また、UGCの中には、必ずしも肯定的な意見ばかりではなく、時には否定的な意見も含まれる可能性がありますが、そのような意見に対しても真摯に対応することで、透明性の高い企業姿勢を示すことができ、結果的に消費者の信頼を得ることにつながることもあります。
エンゲージメントの促進
UGCは、ユーザーとブランドの間のリアルなコミュニケーションを生み出し、エンゲージメントを促進する効果があります。
特にSNS上で発信されたUGCは、ユーザーのネットワークを通じて自然に拡散されやすく、ブランドの認知度向上や、ユーザーとのインタラクションの増加に貢献します。
UGCを活用したキャンペーンを実施することで、ユーザーにコンテンツ作成への参加を促し、ブランドに対する関与を深めることも可能です 。
さらに、UGCは、同じブランドに関心を持つユーザー同士のコミュニティ形成を促進する役割も果たします。
コスト削減
UGCは、企業が自らコンテンツを制作するのに比べて、大幅なコスト削減につながる可能性があります。
写真や動画などのクリエイティブをユーザーが自発的に作成してくれるため、制作にかかる時間や費用を抑えることができます。
また、UGCはSEO(検索エンジン最適化)にも効果を発揮する可能性があり、良質なUGCがウェブサイトに蓄積されることで、検索エンジンの評価が高まり、オーガニックな流入を増やすことも期待できます。
新たな発見と改善
UGCには、企業側の視点だけでは気づかなかった、ユーザーならではの意見やアイデアが含まれていることがあります。
ユーザーの生の声に耳を傾けることで、商品開発やサービスの改善につながるヒントを得たり、新たなニーズを発見したりするきっかけになることもあります。
幅広い層へのリーチ
ユーザーによって作成されたUGCは、それぞれのユーザーのネットワークを通じて拡散されるため、企業が自社の力だけではリーチできなかった幅広い層の潜在顧客に情報を届けることができます。
特にSNSにおける拡散力は非常に大きく、思わぬ形でブランドの認知度が向上する可能性があります。
UGCを活用する上での注意点や課題
UGCは多くのメリットをもたらす一方で、活用する際には注意すべき点や課題も存在します。
ネガティブな意見
UGCはユーザーの率直な意見であるため、肯定的な意見だけでなく、否定的な意見が含まれる可能性も十分にあります 。これらのネガティブな意見を放置してしまうと、ブランドイメージを損なう原因となりかねません。
しかし、ネガティブな意見に対して真摯に対応することで、顧客の不満を解消し、信頼回復につなげたり、改善点を見つける機会と捉えることもできます。
著作権・肖像権
ユーザーが作成したUGCには、著作権が発生します。そのため、企業がUGCを無断で利用した場合、著作権侵害にあたる可能性があります。
また、写真や動画に第三者が写っている場合は、その人物の肖像権にも配慮が必要です 。UGCをマーケティングに活用する際には、必ずコンテンツの作成者であるユーザーから利用許諾を得るようにしましょう。
プライバシーの問題
ユーザーがUGCを投稿する際に、意図せず個人情報が公開されてしまう可能性や、プライバシーに関わる内容が含まれてしまう場合もあります。
また、商品やサービスによっては、ユーザーが積極的にUGCを生成・公開することに抵抗がある場合も考えられます。例えば、コンプレックスに関する商品などは、UGCが発生しにくい傾向があります。
情報の正確性・品質のばらつき
UGCは、専門家ではない一般のユーザーによって作成されるため、情報の正確性やコンテンツの品質にはばらつきが生じる可能性があります。
誤った情報が拡散されたり、低品質なコンテンツがブランドイメージを損なうリスクも考慮しておく必要があります 。また、企業が意図的に良い口コミを依頼するような行為は、ステルスマーケティング(ステマ)とみなされ、消費者の信頼を失う原因となるため、絶対に避けるべきです。
薬機法などの法令遵守
特に、医薬品や化粧品、健康食品など、広告表現に法律による規制がある商品については、UGCの内容が薬機法などの関連法規に違反していないか細心の注意を払う必要があります。不適切な表現が含まれている場合は、修正を依頼したり、場合によっては削除を検討する必要も出てきます。
新人のマーケターがUGCを効果的に活用するための具体的なステップや戦略
新任のマーケターがUGCを効果的に活用するためには、以下のステップと戦略を参考にしてください。
UGCの目標設定
まず、UGCを活用することでどのような目標を達成したいのかを明確にしましょう。例えば、ブランドの認知度向上、商品の購買意欲向上、顧客ロイヤルティの向上などが考えられます 。目標を定めることで、どのようなUGCを収集し、どのように活用していくべきかの方向性が定まります。また、ターゲットとするユーザー層を明確にすることも重要です。
UGCの収集
次に、自社ブランドや商品に関するUGCを幅広く収集します。SNS、レビューサイト、ECサイトなどを定期的にチェックし、ユーザーがどのような投稿をしているのかを把握しましょう。
もしUGCが少ない場合は、ユーザーにコンテンツの作成を促すための施策を検討します。例えば、特定のハッシュタグをつけて投稿してもらうSNSキャンペーンや、写真や動画のコンテストなどを実施するのも有効です。
その際に、魅力的な賞品やクーポンなどのインセンティブを用意することも、ユーザーの参加意欲を高める上で効果的です。店舗やイベントなど、オフラインの接点がある場合は、その場でUGCの投稿やシェアを促すことも有効です。また、商品に同梱する形で、UGC投稿を促す案内を入れるのも良いでしょう。
診断コンテンツやクイズなどを活用し、結果をSNSでシェアしてもらうことでUGCを増やすこともできます。
UGCの選定と活用
収集したUGCの中から、設定した目標に合致するものを選定します 。選定したUGCは、自社のウェブサイトやECサイトの商品ページに掲載したり 、SNSでユーザーの投稿をリポスト・リツイートしたり 、広告クリエイティブに活用したり 、メールマガジンやニュースレターで紹介するなど、様々な方法で活用できます。
店舗内ポスターやパンフレットにUGCを活用するのも効果的です 。商品の同梱物に掲載するのも良いでしょう。
UGCを活用する際には、著作権や肖像権に配慮し、必ず投稿者から利用許諾を得るようにしてください 。
UGCの分析と改善
収集したUGCを分析することで、顧客のニーズやインサイトを深く理解することができます。ポジティブな意見はプロモーションに活用し、ネガティブな意見は商品やサービスの改善、顧客対応の向上に役立てましょう。UGCの活用効果を定期的に測定し、戦略を改善していくことも重要です。
注意点の遵守
UGCを活用する際には、著作権、肖像権、プライバシー、薬機法などの関連法規を遵守することが不可欠です。
また、ステルスマーケティングと誤解されないように、広告であることを明示する必要がある場合は、その旨を明確に記載しましょう。
不正確な情報や低品質なコンテンツの拡散を防ぐための対策を講じ、ネガティブな意見には誠実に対応することも忘れてはいけません。
まとめ
本記事では、新任マーケターの皆様に向けて、現代のマーケティングにおいてますます重要性を増しているユーザー生成コンテンツ(UGC)の活用について解説しました。
UGCは、企業が発信する情報よりも消費者に信頼されやすく、購買意欲を高める上で非常に有効な手段です。SNSへの投稿、レビュー、ブログ記事など、様々な形式で存在し、マーケターはこれらを活用することで、信頼性の向上、エンゲージメントの促進、コスト削減、新たな発見、幅広い層へのリーチといった多くのメリットを得られます。
ただし、UGCを活用する際には、ネガティブな意見への対応、著作権や肖像権、プライバシーへの配慮、情報の正確性の確認、そして薬機法などの関連法規の遵守といった注意点も存在します。
新任のマーケターの皆様がUGCを効果的に活用するためには、まず目標を設定し、適切な方法でUGCを収集します。集めたUGCの中から目的に合ったものを選定し、ウェブサイトやSNS、広告など様々なチャネルで活用しましょう。そして、その効果を分析し、改善を重ねていくことが重要です。
UGCは、消費者のリアルな声であり、マーケティング活動をより人間味あふれる、そして効果的なものに変える可能性を秘めています。本記事が、皆様の今後のマーケティング活動の一助となれば幸いです。