三点見積り(三点見積法)の使用方法とメリット・デメリットを解説

2020年4月18日

三点見積りとは

三点見積りとは、プロジェクトの作業時間や、その作業の金額を楽観値、最可能値、悲観値の三点から見積もる手法のことです。
「三点見積り」とも、「三点見積法」とも呼ばれます。
冷戦期にロッキード社がアメリカ海軍の潜水艦発射弾道ミサイル・ポラリスを開発するプロジェクトでPERT法とともに三点見積りを導入し、プロジェクトで成功を収めたことで有名になりました。

三点見積りの使用法

楽観値、最可能値、悲観値とその計算

ここからは三点見積りをどのようにして使用するのかを見ていきましょう。
三点見積りでは、楽観値、最可能値、悲観値を使って時間を推計していきます。これら3つの値の意味は以下の通りです。

楽観値物事を円滑に運ばせる条件がすべて整い、実際にすべてのアクティビティが円滑に進んだ時の値
⇒予想される最速・最短の値
最可能値
(最頻値)
従来の経験に照らし合わせて、アクティビティの完了に必要であると実際に予想される値
いつもの値
悲観値悪条件が重なり、円滑にアクティビティが進まなかった場合の値
⇒予想される最遅・最長の値

三点見積りでは、これら3つの値をさらに以下のような計算式に当てはめていきます。

平均(悲観値+4×最可能値+楽観値)÷6
分散〔(悲観値-楽観値)÷6〕の2乗
標準偏差分散の平方根

三点見積りを使った見積り

何の見積り手法も導入しない場合、スケジュールや金額見積りで使われるのはいつもの値である最可能値です。
「いつも3日で終わる作業だから」「いつも30万円程度の見積りだから」と言うように、過去の実績や経験に基づいて見積りを行います。
一方で、三点見積りでは楽観値・悲観値も加味して見積りを行います。
例えばいつも10日で終わる作業があるとして、楽観値が6日で、悲観値が20日である場合、以下のような計算を行い、見積りを作成します。

  • (20日+4×10日+6日)÷6=11日

こうして三点見積りで計算した作業時間は最可能値の10日よりも1日多い11日です。
三点見積りで使う楽観値や悲観値は状況によって変わってきます。
例えば「今は優秀なプログラマーの手が空いているから作業が進みそう」「他のプロジェクトのヘルプをしないといけない可能性があるから、作業時間が確保できないかもしれない」というように、周囲の状況によって楽観値や悲観値は変化します。
そのため、三点見積りを使用すると最可能値だけを使った見積りに比べ、状況に応じて調査された作業時間・金額を見積もることができる言えるでしょう。

スケジュールの信頼範囲

標準偏差の計算

三点見積りの長所は、見積もった値の信頼範囲を知ることができることです。つまり、三点見積りで算出した値になる確率はどのくらいなのかを計算することができます。
とくにスケジュールを三点見積りで見積もる場合に、この長所はより光ります。
この信頼範囲を計算する際には、標準偏差の値を計算する必要があります。
先ほどの最可能値10日、悲観値20日、楽観値6日の作業で考えていくと、標準偏差の値は以下のようになります。

  • 分散=〔(20日-6日)÷6〕の2乗≒5.4
  • 標準偏差=分散の平方根≒2.3

「11日で終わりそう」というような作業であっても、多少のブレはあります。このブレが分散標準偏差です。
三点見積りの平均で11日で終わると計算できても、実際は9日かもしれませんし、最悪20日かかってしまうかもしれません。
そのため、次のステップではどの程度の確率で平均に近い値に収まるのかを考えていきます。

信頼範囲

標準偏差を計算した後は、平均と標準偏差で信頼範囲を確認することができます。
この信頼範囲を十分に理解するには、統計学の知識が必要ですが、ひとまずは以下のような傾向があることを知っておくだけで十分でしょう。

  • 平均値±標準偏差に収まる確率 … 68%
  • 平均値±標準偏差×2に収まる確率 … 95%
  • 平均値±標準偏差×3に収まる確率 … 99.7%

先ほどの例で言うと、三点見積りで算出した平均が11日で、標準偏差が約2.3日である場合、その作業が8.7日~13.3日で終わる確率は68%、6.4日~15.6日で終わる確率は95%、4.1日~17.9日は99.7%です。
つまり、11日で作業の平均を見積もったとしても、13.3日以内に終わる可能性は68%です。決して低くない確率ですが、32%で実現できないとなると少し心配ですね。
上司やクライアントに作業時間の予想をいう時、より慎重な報告するのであれば、平均の11日を言うのではなく、95%の確率で実現できる15.6日や99.7%の17.9日を選ぶ方が良いかもしれません。

三点見積りで全体の信頼範囲も見積もることができる

三点見積りでは、単体の作業だけでなく、プロジェクト全体のスケジュールや見積りの信頼範囲も計算することができます。
方法は簡単で、各作業の最可能値、悲観値、楽観値を合計し、単体の時と同様に標準偏差を出し、信頼範囲を確認するだけです。
例えば、最可能値10日、悲観値20日、楽観値6日の作業Aと、最可能値5日、悲観値10日、楽観値2日の作業Bの2つの作業からなるプロジェクトがあったとします。
この場合、最可能値、悲観値、楽観値をそれぞれ足し合わせ、そこから平均、標準偏差を出していきます。
これをまとめると以下の表の通りです。

最可能値悲観値楽観値平均標準偏差
作業A10日20日6日省略省略
作業B5日10日2日省略省略
全体15日30日8日約16.3日約3.7日

このように計算すると、このプロジェクトの平均的に必要とする日数が約16.3日であり、平均±3.7日の範囲で終了する確率が68%、平均±7.4日で終わる確率が95%、平均±11.1日で終わる確率が99.7%であることが分かります。
このように、作業が増えたとしても平均的な値を見積もることができ、その実現の可能性を可視化できるのが三点見積りのメリットだと言えるでしょう。

三点見積りのメリット

以上、三点見積りの使用方法を見てきました。
適宜、三点見積りのメリットには触れてきましたが、あらためて三点見積りのメリットをまとめると以下のようになります。

  • 参加者の多いプロジェクトでも納得度の高い見積りが可能になる
  • いつもの値(最可能値)だけを使った見積りより、状況に応じた見積りが可能になる
  • 信頼範囲を計算することができる

冒頭で紹介したように、三点見積りはポラリスの開発プロジェクトで導入され一躍有名になりました。
ポラリスのプロジェクトでは、参加企業は3,000とも3,200とも言われています[1]加藤 昭吉『計画の科学―どこでも使えるPERT・CPM』講談社、1965年、136頁。
これほど参加者の多いプロジェクトであっても、三点見積りとPERT法はプロジェクトを成功に導くことができました。
その後、大規模なプロジェクトで導入が進みましたが、大規模なプロジェクトでも納得度の高い見積りができ、その信頼範囲も計算できるのが三点見積りの大きなメリットです。

三点見積りのデメリット

他方、三点見積りのデメリットとしては、参加者の多くないプロジェクトでは最可能値だけを使用した見積りのほうが正確であることがあります。
あくまでも三点見積りは参加者が多いプロジェクトに使用するときに効果を発揮するもので、参加者が少ないプロジェクトではわざわざ計算をするだけ労力の無駄になりかねないこともあります。

1加藤 昭吉『計画の科学―どこでも使えるPERT・CPM』講談社、1965年、136頁。