ステークホルダー登録簿とは何か?PMPにでるPMBOKの用語を解説
ステークホルダー登録簿とは何か
ステークホルダー登録簿とは、プロジェクトのステークホルダーを特定し、その役割や影響度を査定し、分類したプロジェクト文書の1つです。
つまり、このプロジェクトにどのような人物たちが関わっており、どのような役割と影響力をもっているのかをまとめた文書です。
ステークホルダー登録簿が作成されるタイミング
ステークホルダー登録簿は、PMBOKの手順に沿えば、プロジェクト・ステークホルダー・マネジメントの中のステークホルダーの特定のプロセスの中で作成されます。
ステークホルダーの特定のプロセスは「どのようなステークホルダーがいるのか」「彼らに対してどのような対策を講じなければならないのか」を考える場面です。
このプロセスの結果として、ステークホルダー登録簿が作成されます。
ステークホルダー登録簿はなぜ必要なのか
ステークホルダー登録簿はさまざまなプロセスのインプット、すなわち分析材料・判断材料となります。
ステークホルダー登録簿はステークホルダーの特定のプロセスで作成されますが、その後のステークホルダー・エンゲージメントの計画や、ステークホルダー・エンゲージメントのマネジメントのプロセスで使われるだけでなく、コミュニケーション・マネジメント計画書の作成などにも使用されます。
「このプロジェクトに影響を受けるのは誰か?影響を与えてくるのは誰か?」をまとめた重要な資料ですので、他のプロセスを遂行するためにも必要な資料であると言えるでしょう。
ステークホルダー登録簿の構成
ステークホルダー登録簿には以下のような情報がまとめられます[1]PMBOK第6版、514頁。。
- 識別情報
- 評価情報
- ステークホルダー分類
これらの内容を簡単に見ていきましょう。
識別情報
識別情報とは、名前や組織での立場、プロジェクトでの役割など、そのステークホルダーを識別するための情報のことを指します。
「山田太郎さん」という名前だけでなく、「営業部部長」などの役職名であったり、E-mailアドレスなどもその人を特定できる識別情報として扱われます。
評価情報
評価情報とは、主な要求事項や期待、プロジェクトの成果に影響を与える可能性、およびステークホルダーの関与度を指します。
ステークホルダー分類
ステークホルダー分類とは、ステークホルダーを分類するための情報です。例えば社内の人間か社外の人間か、プロジェクトの関心度は高・中・低のどれかなど、ステークホルダーを分類するために使用していく情報です。
ステークホルダー登録簿の例
実際にステークホルダー登録簿の例を見てみましょう。ここでは平成30年度春期のプロジェクト・マネージャ試験(以下、PM試験と略記)に出題された問題文から、ステークホルダー登録簿の例を見てみましょう[2]平成30年度春期PM試験午後Ⅰ問3より。
ステークホルダー | 部門 | 役割 | 影響度 | プロジェクトに対する姿勢 |
---|---|---|---|---|
P社社長 | ― | 最終意思決定者 | 高 | 支持する |
Q部長 | 総務部 | プロジェクト統括責任者 | 高 | 支持する |
R氏 | 総務部 | プロジェクト責任者 | 中 | 支持する |
S部長 | 営業部 | 利用部門責任者 | 高 | 抵抗あり |
T氏 | 営業部 | 利用部門担当者 | 低 | 支持も抵抗もしない |
先ほどのステークホルダー登録簿の構成で見てきた3種類の情報に分けていくと、識別情報としてステークホルダーの名前、部門、役割が記載されています。
評価情報として影響度が掲載され、ステークホルダー分類としてプロジェクトに対する姿勢が記載されています。
ステークホルダー登録簿に記述する内容は、これらの内容に限定されないので、プロジェクトにあわせて適宜必要な情報を掲載していきましょう。
ステークホルダー登録簿のインプット
ステークホルダー登録簿を作成するためのインプットとは何なのでしょうか。つまり、「誰がこのプロジェクトのステークホルダーなのか」を特定していく際に、どのような資料を使っていけばよいのでしょうか。
ここではステークホルダー登録簿を作成するプロセスである、ステークホルダーの特定のプロセスのインプットを掲載します[3]PMBOK第6版、509~510頁。。
- プロジェクト憲章
- ビジネス文書
- プロジェクトマネジメント計画書
- プロジェクト文書
- 変更ログ
- 課題ログ
- 要求事項文書
- 合意書
- 組織体の環境要因
- 組織のプロセス資産
以下、これらのインプットの使い方について考えていきます。
まずは文書資料を読み込む
ステークホルダー登録簿を作成していく際は、まずは文書資料を読み込んでいくことが大切です。
プロジェクト憲章、ビジネス文書、プロジェクトマネジメント計画書、プロジェクト文書、そして合意書を読み直して、ここから「どのような人がこのプロジェクトに影響を受けるのか?」を考えていく必要があります。
とくに変更ログや課題ログ、要求事項文書などのプロジェクト文書はその文書からも様々な情報を得られますが、「この変更や要求はどこから発生したのか」を探っていけば、さらに明確にステークホルダーを特定することができます。例えば要求事項文書に書かれている要求をしていたのは、プロジェクト・チームが見逃していた部門からの声だった、ということは少なからずあります。
環境によってステークホルダーは異なる
次に、組織体の環境要因を考えていきます。つまり、「いまこのプロジェクトはどのような環境の下にあり、どのような影響を受けているか」を整理し、その中でステークホルダーの存在を探っていきます。
過去に同様のプロジェクトを行ったとしても、対応する組織や場所が変わるだけで、ステークホルダーは異なってきます。
同じ「ブランコを設置する」というプロジェクトであっても、ブランコという遊具を歓迎する地域とそうでない地域がありますし、場所によっては条例にも影響されます。
こうしたプロジェクトの環境を整理し、ステークホルダーを特定していきます。
過去のノウハウを利用する
組織のプロセス資産を使うこともリスク登録簿の作成においては重要です。
過去のステークホルダー登録簿を参考にするというだけでなく、「似たような過去のプロジェクトでは、このようなステークホルダーを見逃していてトラブルがあった」というような教訓が残っていれば、積極的に活用していきましょう。
ステークホルダー登録簿を閲覧できるメンバー
ステークホルダー登録簿はプロジェクトにおける極秘情報です。
そのため、閲覧できるのは、プロジェクト・マネジャーなど、ごく限られた人物にするのがよいでしょう。
ステークホルダー登録簿の活用法
ステークホルダーを特定し、ステークホルダー登録簿が作成できても、それで終わりではありません。
ステークホルダー登録簿を見て、プロジェクトを進める上での懸念事項がないかを確認していきます。
先ほどのPM試験に出てきたステークホルダー登録簿であれば、P社社長が「最終意思決定者」となっています。
社長なので、常にプロジェクトの会議に参加してもらうことは難しいかもしれませんが、重要事項の決定の際に足を運んでもらわなければ、後から決定事項が覆されてしまう恐れがあります。
また、S部長は影響度が高い一方で、プロジェクトには抵抗を示しています。
こうしたステークホルダーをそのままにしていると、思わぬところで「待った」が入り、スケジュール遅延の原因になってしまうかもしれません。
そのため、S部長の姿勢を変えられるようなコミュニケーションを計画していく必要があります。
このように、ステークホルダー登録簿は作成して終わりではなく、その後のステークホルダー・エンゲージメントの計画やコミュニケーション・マネジメントのために役立ててこそ価値があると言えるでしょう。