リスク登録簿とは何か?リスク管理のための資料を解説
リスク登録簿の概要
リスク登録簿とは「発生するかどうかは確実でないものの、もし発生した場合はプロジェクトに何らかの影響をおよぼす」事項を一覧にまとめた文書です。
すでに起こったことを記入するのではなく、これから起こる可能性がある事項を記入することが特徴です。
プロジェクトマネジメントにおいて、リスク管理簿は「リスクマネジメント」の活動に分類されます。リスクを特定する目的で用いられるツールです。
リスクとは、「不確実性」を意味します。このため、プロジェクトにプラスの影響を与える事項も記録することが可能です。もちろんマイナスの影響をおよぼす内容は、プロジェクトを成功に導くためにももれなく洗い出し、記入する必要があります。
リスク登録簿に記載される項目は、以下のものが代表的です。
- リスクの事象
- リスクが発生する原因
- 発生する確率
- プロジェクトへの影響度や緊急度、優先度
- リスクへの対策
記入されたリスクの内容をもとに、プロジェクトにおいて対処すべき優先順位や対応方法を検討していきます。
リスク登録簿はなぜ必要なのか
リスク登録簿を作成する目的は、プロジェクトを成功に導くことです。そのためには納期通りに納品し本稼働を迎えることはもちろん、予算の範囲内でプロジェクトを遂行し、無事に完了させなければなりません。
一方でシステム開発のプロジェクトにおいては、当初の予定通りスムーズに進むことはあまり期待できません。
多くのプロジェクトは多少なりとも、さまざまな要因による影響を受けます。代表的な要因を、以下に挙げてみましょう。
- 顧客から機能追加の要望があり、実現には工数を大幅に増やす必要がある
- メンバーのスキルが低く、開発スピードが想定よりも遅い
- 問い合わせに対する顧客からの回答が遅いなど、なかなか仕様の確定ができない
- インフラに不具合があり、修正に期間を要する
- テストで想定よりも多くの不具合が発生した
- メンバーが病気にかかり、一定期間開発業務から離れなければならない
- 工数や金額の見積もりが甘く、赤字プロジェクトになってしまう
- 先進的なテクノロジーなど、実績の少ない技術を使う必要がある
上記の問題に対して何も備えをしていないと、発生するたびに対応を考えなくてはなりません。プロジェクト関係者は疲弊する一方、顧客からは「場当たり的な対応」と思われるおそれもあり、信頼を大きく失いかねません。仮に納品し本稼働にこぎつけたとしても、プロジェクトは失敗と評価されてしまうことでしょう。
このため事前にプロジェクトで起こりうる事態を把握し、備えることが重要です。「リスク登録簿」は、リスクの把握に役立つツールです。記録しておくことで、いつでもリスクを確認できます。早めに対策を打ち、プロジェクトに悪影響をおよぼすリスクを最小限にすることが成功への道筋です。
リスク登録簿はどのように作成し、使用するのか
リスクの事象 | リスクが発生する原因 | 発生する確率 | 優先度 | リスクの対策 |
---|---|---|---|---|
開発が予定していた期日をすぎても完了しない | 把握していない仕様の発見 プログラマーの力量不足 | 高 | 高 | あらかじめ仕様について話し合いの場を持つとともに、X月X日に中間報告を行い、進捗を確認し、スケジュール遅れが発生しそうな場合は対策をとる。 |
開発の途中で仕様変更が入る | ステークホルダーの仕様に対する理解不足 | 中 | 中 | あらかじめステークホルダーに対して仕様の説明をするとともに、プロトタイプを作成し、実際に動くアプリケーションで挙動を確認してもらう。 |
アサインしていたプログラマーが長期間稼働できなくなる | 不測の事故や病気 | 低 | 低 | 他のプログラマーの候補者をリスト化しておき、このリスクが発生した時点で、連絡をとるようにする。 |
リスク登録簿は、「リスク登録簿の概要」で記した項目に沿って、発生しうるリスクを記録することが重要です。この条件を満たせば、用いるツールは問いません。
実際には表形式となることから、Excelで作成されるケースが多いようです。項目さえわかっていれば、作成も記入も難しいものではありません。
記入方法の運用には工夫が必要です。プロジェクトメンバーに記入してもらい、プロジェクトマネージャーやプロジェクトリーダーがチェックする方法を取るとよいでしょう。これにより各メンバーしか知らない事項も可視化でき、トラブルの芽を摘むことができます。
もっともプロジェクトによっては、専用のツールが用意される場合があります。必要な項目が用意されていれば、リスク登録簿として活用できます。そのためいきなりリスク登録簿を作り始める前に、プロジェクトで使っているツールやExcelファイルがあるか確認することがおすすめです。