完璧なリソース管理のルールは存在しない

「前回のプロジェクトではこのやり方で上手くいったから、今回も同じようにメンバーと機材を管理しよう」
プロジェクトマネージャーをしていると、つい自分の得意な勝ちパターンに依存したくなります。しかし、すべてのプロジェクトはそれぞれ固有の環境や制約、ステークホルダーを持っています。
新規事業の立ち上げと、既存システムの保守では、チームの動かし方も資材の調達スピードも全く異なります。そのため、PMBOKではプロジェクトの特定の要求事項や環境に合わせて、資源のマネジメント手法を柔軟に調整(テーラリング)することが強く求められています。
今回は、PMBOK第8版の「資源パフォーマンス領域」におけるテーラリングの考慮事項を整理しつつ、日本のIT現場でよく直面する「開発アプローチの違い」や「チームの教育」というリアルな課題について解説します[1]Project Management Institute『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)第8版』日本語版、第2部 … Continue reading。
テーラリングにおける6つの主要な考慮事項
PMBOK第8版では、資源のマネジメントやチーム・リーダーシップをテーラリング(調整)する際、以下の6つの要素を考慮すべきだと定義しています。
- 開発アプローチの選択: 予測型(ウォーターフォール)か適応型(アジャイル)かによって、必要なリーダーシップや資源割り当ての構造を変えます。
- 業界の背景: 資源が希少な業界であれば、リーン・マネジメントやジャストインタイムといった「最適化手法」をプロジェクトにも適応させます。
- 組織のガバナンス構造: 母体組織がトップダウン型か分散型かによって、チームへの権限委譲の度合いを調整します。
- 持続可能性の考慮: メンバーの採用から機材の廃棄に至るまで、環境や社会への影響(グリーン人的資源マネジメントなど)を考慮して資源を設計します。
- チーム・メンバーの成熟度: 経験豊富なメンバーには自律を促し、不慣れなメンバーが多い場合は手厚い指導やフォロー体制を敷きます。
- バーチャル・チーム: 地理的に分散したチームでは、コラボレーションツールなどを積極的に導入し、コミュニケーションの質と量を補います。
予測型と適応型で変わる「資源管理の難易度」
上記の考慮事項の中でも、私たちの実務に最も直結するのが「1. 開発アプローチの選択」です。
PMBOKが示すように、資源の管理はウォーターフォールなどの「予測型」か、スクラムなどの「適応型」かで大きく変わります。
- 予測型の場合: 事前に全体像が決まっているため、「いつ・どのタイミングで・どんな資源が必要になるか」の見当がつきやすく、計画的な手配が可能です。
- 適応型の場合: 状況に合わせて柔軟に仕様を変えていくため、「途中でどんな特殊な機材や追加の人員が必要になるか」が不透明です。
つまり、物理的な機材や外部ベンダーの調達が絡むプロジェクトにおいて、適応型アプローチは「資源の確保が間に合わない」というリスクを常に抱えており、管理の難易度が非常に高くなります。
ただし、これをIT業界の「ソフトウェア開発」に限定して考えてみましょう。
ソフトウェア開発の現場では、必要となる資源の大部分が「パソコン」と「チームの人的資源(エンジニア)」だけで完結します。大がかりな重機や特殊な資材を取り寄せる必要がないため、「資源の調達が間に合わない」という適応型特有のデメリットは、実はそれほど表面化しません。
自分たちのプロジェクトが「人を回せばなんとかなる」環境なのか、「モノの調達がボトルネックになる」環境なのかを見極めることが、テーラリングの第一歩です。
チームの成熟度と「教育」という視点

もう一つ、私たちが現場で頭を悩ませるのが「5. チーム・メンバーの成熟度」です。
プロジェクトを立ち上げる際、PMとしては「全員が経験豊富なドリームチーム」を作りたいと願うものです。しかし、現実の組織においてそんな理想的なチームが組めることは稀です。
もし仮に、奇跡的にドリームチームが作れそうになったとしても、私は組織の将来を考えるなら、あえてそこに新人や中堅メンバーを何人か加え、「教育の機会」とすることが非常に大切だと考えています。ベテランの背中を見せながら実務で育成しなければ、組織の資源(人材)はいつか枯渇してしまうからです。
逆に、若手や経験の浅いメンバーばかりでプロジェクトを回さなければならない厳しい状況もあるでしょう。その場合は、細かなタスク管理に労力を割くよりも、「チームの中で司令塔(リーダー格)になれる存在を、最低でも一人確保する」ことに全力を注いでください。頼もしい司令塔が一人いれば、彼らを中心にチームは自己組織化し、経験不足を補いながら成長していくことができます。
実践ステップ:テーラリングの具体的な2つの適用例
PMBOKでは、これらを踏まえたテーラリングの具体的な適用例を2つ紹介しています。
- 適応型の大規模・高変動性プロジェクトの場合:
将来の正確な資源予測が困難なため、ガチガチの事前契約を結ぶのではなく、「柔軟な契約・合意形成」と「リーン手法(ムダの削減)」を組み合わせてコントロールします。 - 新規結成されたバーチャル・チームの場合:
信頼関係が未構築なままリモートで働くため、情報の常時アクセス環境を整え、チャットで定常的にコンタクトを取り、チーム憲章(ルール)を作成します。さらに「少なくとも1回は対面ミーティングを実施する」といった施策で協働の課題を解決します。
まとめ:プロジェクトは「今いる資源」で戦うしかない
「もっと優秀な人がいれば」「もっと潤沢な予算や機材があれば」と嘆いても、プロジェクトは前に進みません。プロジェクトマネジメントの本質とは、「今、自分たちに与えられた限られた資源(人とモノ)を、どう組み合わせれば最大の成果を出せるか」を考え抜くことです。
ベテランが多いなら任せる。若手が多いなら教育を兼ねた仕組みを作る。モノの調達が難しいなら予測型でかっちり進める。
このように、プロジェクトの特性やチームの成熟度に合わせてマネジメントの「服(テーラリング)」を着替える柔軟さこそが、環境の変化に強いプロジェクトマネージャーの必須スキルと言えるでしょう。
注
| ↑1 | Project Management Institute『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)第8版』日本語版、第2部 2.6.3「テーラリングの考慮事項」(88〜91ページ)より要約・引用。 |
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