【PMBOK第7版】測定パフォーマンス領域について解説

2022年7月8日

プロジェクト・マネジャーとして、プロジェクトを成功させるためにはどこに注目したらよいのでしょうか?
プロジェクトマネジメントのガイドラインであるPMBOK第7版では、「プロジェクトの成果を効果的に提供するために不可欠な、関連する活動」をプロジェクト・パフォーマンス領域と呼び、以下の8つの領域に注目しています[1]PMBOK第7版「プロジェクトマネジメント知識体系ガイド」、7頁。

  • ステークホルダー
  • チーム
  • 開発アプローチとライフサイクル
  • 計画
  • プロジェクト作業
  • デリバリー
  • 測定
  • 不確かさ

プロジェクトは様々な要素が影響して成否が決まりますが、これら8つに注意をすることで、プロジェクトの成功率を大きく高めることができます。
今回は8つのパフォーマンス領域の1つである「測定パフォーマンス領域」について解説していきます。

測定パフォーマンス領域とは何か?

PMBOK第7版では、測定パフォーマンス領域を「プロジェクトのパフォーマンスを評価し、受入れ可能なパフォーマンスを維持するための適切な行動をとることに関連する活動と機能に対応する」と説明しています[2]PMBOK第7版、93頁。。つまり、計画パフォーマンス領域など、他のパフォーマンス領域の活動が効果を測定するのがこの測定パフォーマンス領域です。
PMBOK第6版では監視・コントロール・プロセス群の活動で、この測定パフォーマンス領域と同じように評価や効果の測定を行っていました。

測定の対象

測定の対象はプロジェクトにより異なりますが、PMBOK第7版では例として以下の項目を挙げています。

  • 成果物のメトリックス
  • デリバリー
  • ベースラインのパフォーマンス
  • 資源
  • 事業価値
  • ステークホルダー
  • 予測

ここからは、これらの項目のどのような点を測定すべきかを解説していきます。

成果物のメトリックス

メトリックスとは、プロジェクトまたはプロダクトの属性と、それをどのように測定するのかを記述したものです。
つまり、成果物をどのように評価・測定するのかを予め計画し、その資料に照らし合わせてパフォーマンスを測定していきます。
この成果物のメトリックスとして、下記の項目が記載されます。

  • エラーや欠陥についての情報
  • パフォーマンスの尺度
  • 技術的なパフォーマンス尺度

この中でパフォーマンスの尺度とは、測定対象の物理的・機能的属性を意味しています。たとえば、大きさや重量、信頼性などがパフォーマンスの尺度です。
また、技術的なパフォーマンス尺度とは、要求事項を満たしている度合いを示すものです。

デリバリー

デリバリー(delivery)は「配達」や「引き渡し」と訳されますが、プロジェクトマネジメントでも同様に、クライアントやユーザーにプロジェクトで生み出した製品・サービスを引き渡すことを指します。プロジェクトによっては最後に1度納品をすれば終わるものもあれば、アジャイル開発のように複数回成果物の引き渡しをすることもあります。アジャイル開発の場合は、以下のような項目に気をつけ、成果物が滞りなく引き渡されているかを監視します[3]PMBOK第7版、99頁。

  • 仕掛り作業
  • リード・タイム
  • サイクル・タイム
  • 待ち行列のサイズ
  • バッチ・サイズ
  • プロセス効率

ベースラインのパフォーマンス

ベースラインとは、監視・管理される作業成果物の実績値と比較するための基準のことを指します(ベースラインについては下記の記事をご参照ください)。

ベースラインの中でも重要なのがスケジュールコストです。
スケジュールについては、下記の項目に注意し、計画と実績に隔たりが無いかを確認します。

  • 開始日と終了日
  • 作業工数と所要期間
  • スケジュール差異
  • スケジュール効率指数
  • フィーチャー完了率

コストについては、以下の項目を確認します。

  • 実コスト
  • コスト差異
  • コスト効率指数
アーンド・バリュー・マネジメント(EVM)とは何かのイメージ図

これらの内容はアーンド・バリュー分析を用いることによって、より深く現状を知ることができます。
アーンド・バリュー分析については下記の記事もご参照ください。

資源

資源については以下の項目を確認します。

  • 計画された資源の活用状況と実績との比較
  • 計画された資源コストと実績との比較

つまり、当初計画していたように資源が使われているか、計画していた費用から超過していないかを確認していきます。

事業価値

プロジェクトで得ようとしている事業価値が実現できるかどうかも監視しなければなりません。
当初の計画はビジネス・ケースやベネフィット・マネジメント計画書を確認します。これらの資料について詳しくは下記の記事をご参照ください。

ステークホルダー

プロジェクトを成功に導くには、ステークホルダーの協力が不可欠です。ステークホルダーと一口に言っても様々な立場の人がいるため、その立場に応じた適切なツールを使って、彼らの満足度や心理状態を測っていく必要があります。
ここからはその代表的な指標やツールを紹介していきます。

ネット・プロモーター・スコア

ネット・プロモーター・スコアのアンケートのイメージ

ネット・プロモーター・スコア(NPS®)とは、ステークホルダーがプロダクトやサービスを他者に推奨する度合いです。ネット・プロモーター・スコアは後述する計算式により-100~+100の範囲で算出されます。この数値は顧客のロイヤリティや満足度、企業に対する熱意を評価するために使用されます。
このネット・プロモーター・スコアについては下記の記事もご参照ください。

ムードチャート

ムードチャートは、ムードトラッカーと呼ばれる手法の1つです。ムードチャートは自分の気分を日次で記録します。現在では様々なWebサービスやスマートフォンアプリでこのムードチャートを試すことができます。
ムードトラッカーおよびムードチャートについては下記の記事もご参照ください。

アンケートによる士気の測定

ムードチャートはプロジェクト・メンバーのモチベーションを知るツールとして簡単に導入できますが、あまりに主観的なデータであるという欠点があります。そのため、客観的なデータを得るためにも、アンケートによって士気を測る必要性をPMBOKは訴えています。たとえば、PMBOK第7版では以下のアンケート項目が紹介されています[4]PMBOK第7版、104頁。

  • 私は、自分の仕事が全体的な成果に貢献していると感じている。
  • 私は、評価されていると感じている。
  • 私は、プロジェクト・チームが協力して行う仕事の進め方に満足している。

これらのアンケート項目に対して、プロジェクト・メンバーに1~5の点数で評価してもらい、プロジェクト・メンバーやチームの士気を測定します。

離職率

離職率はプロジェクト・チームの士気を測る重要な指標です。高い離職率は士気の低さに起因している可能性があるので、その動向に注意する必要があります。

予測

プロジェクトを成功に導くために、将来を予測し、必要な対応策を講じることが肝心です。将来の予測は定性的なものになりがちですが、定量的な手法もあります。ここからはPMBOKで紹介されている手法を紹介します[5]PMBOK第7版、104~105頁。

アーンド・バリュー分析

ベースラインのパフォーマンスの測定で用いたアーンド・バリュー分析は将来の予測でも使用できます。たとえばアーンド・バリュー分析残作業見積り完成時総コスト見積り完成時差異という指標は、プロジェクトが計画通りに終了するか否かの判断基準の1つになります。

アーンド・バリュー分析については下記の記事もご参照ください。

回帰分析

回帰分析は、対象となるデータを説明や予測を行うための説明変数(もしくは予測変数)と、その基準となる目的変数に分けて、両者の間に統計モデルを設定し、その関係性を予測する手法です。

スループット分析

スループット分析とは、一定の期間内に完了する項目数を評価する手法です。とくにアジャイル開発で用いられる手法で、完了フィーチャーと残存フィーチャーを比較したり、ストーリー・ポイントの進捗状況を評価したりします。

その他の測定手法

ここまでに紹介した手法以外にも、パフォーマンスの測定方法は数多くあります。その一例を紹介します。

タスクボード

Trelloを使ったタスクボード
Trelloを使ったタスクボード

タスクボードとは、計画された作業を可視化し、誰にでもタスクの状態が見えるようにする手法です。一般的にボードを「作業」「作業中」「完了」に分け、付箋などに書いたタスクを、現在の状況に適した場所に貼り付けていきます。
現在ではタスクボードを作成できるWebサービスが数多く存在します。下記の記事ではそれらのWebサービスの中でも代表的なTrelloを用いたタスクボードの作成方法を解説していますので、ご参照ください。

バーンダウン・チャート

バーンダウン・チャートのイメージ画像

バーンダウン・チャートは、ひとつの課題を進める上での時間と作業量の関係を示すグラフです。
より具体的にいうと、残りの作業量を指定の期限までに完了できるかを表したグラフのことです。時間が進むにつれて残りの作業量が減少することから、右肩下がりのグラフになります。
バーンダウン・チャートについては、下記の記事もご参照ください。

パフォーマンスを測定する時の注意点

ここまではプロジェクトのパフォーマンスを測定するための様々な手法を紹介してきました。
しかし、測定には様々な落とし穴があり、対応を誤るとプロジェクトのパフォーマンスを落としてしまうこともあります。これらの落とし穴については下記の記事で解説していますので、ご参照ください。

測定パフォーマンス領域の成果をチェックする

PMBOK第7版によれば、測定パフォーマンス領域で実施した活動が効果を上げていると、以下のような状態になります[6]PMBOK)第7版、115頁。

  • プロジェクトの状況についての信頼性の高い理解を得られる。
  • 意思決定を容易にする実用的なデータを得られる。
  • プロジェクトのパフォーマンスを軌道に乗せるためのタイムリーで適切な行動をとることができる。
  • 信頼性の高い予測と評価、情報に基づいたタイムリーな意思決定を行うことで、目標を達成し、事業価値を創出することができる。

1PMBOK第7版「プロジェクトマネジメント知識体系ガイド」、7頁。
2PMBOK第7版、93頁。
3PMBOK第7版、99頁。
4PMBOK第7版、104頁。
5PMBOK第7版、104~105頁。
6PMBOK)第7版、115頁。