クリティカルチェーンとは何か?プロジェクトマネジメントへの適用とメリット・デメリットを解説
クリティカルチェーンの概要
クリティカルチェーンとは、各作業の従属関係とリソースの依存関係を考慮した一番長い作業工程です。
このクリティカルチェーンはエリヤフ・ゴールドラットが考案したもので、プロジェクトマネジメントや生産管理で用いられるクリティカル・パスの考えにリソース管理の考えを加えたものです。このクリティカルチェーンの理解には、クリティカル・パスの知識が不可欠であるため、クリティカル・パスという言葉をはじめて聞いた方はこちらの記事もご参照ください。
このクリティカルチェーンに基づいて「クリティカルチェーン・スケジューリング」という計画方法も存在します。
これは、複数のプロジェクトや工程が含まれているリソースの作業優先順位をクリアにし、作業を掛け持つことがないようにスケジュールする手法です。
プロジェクトの管理にもクリティカルチェーンは使われることがあり、クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント(CCPM)と呼ばれます。
CCPMはプロジェクト工程の締め切りを短縮し、納期までの日数に余裕を持たせるプロジェクト管理法です。CCPMを用いてプロジェクトを実行する際は、リソースがいつごろ必要になるのか作業開始の日時を前もって知らせます。
クリティカルチェーンに配慮したスケジューリング・マネジメントを行うと、プロジェクト・マネジャーは、バッファ・マネジメントに取り組むことになります。
バッファ・マネジメントでは、各工程の納期は管理せず、用意したバッファをどれだけ使用したかを管理します。
そのため、バッファの減るペースが速い場合やバッファの残りが少ない場合などに、具体的な対策を立ててプロジェクトを完遂するように動きます。
クリティカルチェーンはなぜ必要なのか?
クリティカルチェーンに基づいたプロジェクトの管理は、プロジェクトの納期延長を極力起こさないために必要な管理法です。
各工程から捻出できる日数をバッファとして用意しているため、プロジェクト全体の納期に余裕を持たせられます。
プロジェクト・マネジメントには、期間短縮というアプローチに欠けており、この課題を解決するためにクリティカルチェーンは誕生しました。
クリティカルチェーンの特長
クリティカルチェーンには、以下3つの特長があります。
- 作業ごとの期限は設定しない
- 最短の作業期間を設定する
- タスクの競合は計画段階で解消する
ここからはこれら3つの特長を詳しく説明していきます。
作業ごとの期限は設定しない
従来、プロジェクトの期限を遵守するためになるべく細かく作業ごとに期限を設定する傾向がありました。
しかし、期限を設定すると「その期限までに終えればいい」という思考(学生症候群)になりやすく、作業時間の短縮化には繋がりにくいです。
その点、期限は設定せずに期間を設定すれば、作業が回ってきたらすぐに着手し、終わればすぐ申告するというやり方でプロジェクトを進められます。
最短の作業期間を設定する
クリティカルチェーンを用いてプロジェクトマネジメントをする際は、各工程の作業時間見積もりは、余裕を持たせないギリギリの時間に設定します。その結果により発生した時間の余裕はプロジェクト全体の余裕として集中させます。
たとえば、「設計には3日程度かかるから、設計の工程は余裕をみて5日分の時間を確保しておこう」と考えるのではなく、設計に3日かかるのであれば、3日で終了させることを目指し、スケジュール上も3日で作業が終了すると予定しておきます。
このように各工程で余裕時間を取らない一方で、発生した時間の余裕は、クリティカルチェーンの管理に使っていきます。
タスクの競合は計画段階で解消する
プロジェクト内や複数のプロジェクト間のいずれにおいても、タスクの競合は排除しておきます。つまり、同じ作業者に異なるプロジェクトの作業が入らないように、プロジェクト・マネジャーは調整しておく必要があります。
上述のように、クリティカルチェーンでは各工程の作業時間には余裕をもたせていないため、基本的に作業が開始した後のメンバーに時間の余裕は生まれません。
そのため、何かのタスクをしている最中に、別のタスクが発生してしまうと、本来完遂すべきプロジェクトの進捗に悪影響を及ぼします。
異なるプロジェクトで同じ作業者にタスク競合が発生している場合は、着手のタイミングを調整したり、双方のプロジェクト・マネジャーで調整したりする必要があります。
クリティカルチェーンでの計画方法
ここからはクリティカルチェーンでの計画方法の基本を解説していきます。
クリティカルチェーンでプロジェクトを計画する具体的な方法は、以下のようになります。
- 必要な作業を洗い出す
- 各作業期間は最短のものを見積もる
- 作業の優先順位や従属関係、所要時間を明確にする
- リソースの競合を確認する
1~3はPERT図を作成する過程です。このPERT図については、下記の記事もご参照ください。
大切なことは、このPERT図を作成する際に、各作業期間は最短の時間を見積もり、作業単体には予備の時間は計上しないことです。
たとえば、「作業Aは最短2日で終わるけれども、1日の予備時間を見積もって3日で完了予定としておこう。同様に、作業Bは最短3日で終わるかもしれないけれども、余裕をみて5日で完了するとしておこう」と考えるのではなく、「作業Aは最短2日、作業Bは3日で終わらせることを目指し、3日のバッファをトラブル発生時に使おう」という考えでPERT図を作成していきます。
そして、PERT図ができたら、次はリソースの競合が無いかを確認していきます。
たとえば、参考画像1のように、「サラダを作る」「サラダを盛り付ける」「目玉焼きを作る」「目玉焼きをお皿に乗せる」「パンを焼く」「パンをお皿に乗せる」という6つの作業を経て朝ごはんを用意するとしましょう。サラダはいくつかの野菜を切って作り、目玉焼きはフライパンでたまごを焼き、パンはトースターで焼くとします。現実の世界であれば、この程度の作業であれば1人ですべて並行してこなすこともできますが、今回は1人1つの作業しかできないとします。
この朝ごはんの用意を料理経験のある大人3人で進めれば、それぞれ「サラダ係」「目玉焼き係」「パン焼き係」を分担して、最短7分で朝ごはんを用意することができます。つまり、「目玉焼きを作る(6分)」という作業と「目玉焼きを盛り付ける(1分)」の作業がクリティカル・パスになっています。
しかし、お母さんは料理ができますが、まだ包丁もフライパンも握れない子ども2人では朝ごはんを用意することができません。つまり、野菜を切るサラダや目玉焼きはお母さんしか対応することができないため、同時並行して「サラダを作る」という作業と「目玉焼きを作る」という作業を進めることができません。このように、進めようとした異なる作業で、同一の人的・物的資源を使うために、どちらかの作業に支障がでることを「リソースの競合」と呼びます。
リソースの競合が発見された場合、作業の順序を変えたり、リソースの配置を工夫したりして、できるだけ当初のスケジュールを維持できるようにすることが望ましいです。しかし今回の朝ごはんの例では、お母さんは追加でお手伝いできる大人もいないため、サラダを作った後に目玉焼きも作らなければならないとします。
サラダの盛り付けや目玉焼き・パンをお皿に乗せることは子どもたちにもできたとしても、結局朝ごはんは参考画像2のように、最短で12分もかかってしまいます。このようにリソースの状況を加味して組み替えられた、「サラダを作る」「目玉焼きを作る」「目玉焼きをお皿に乗せる」という新たなクリティカル・パスこそがクリティカルチェーンです。
クリティカルチェーンのメリット
クリティカルチェーンによるプロジェクトマネジメントには、以下のようなメリットがあります。
- 適切な作業の優先順位付け
- プロジェクトの短期化
- プロジェクト全体の動きをメンバーが意識できる
ここからは、クリティカルチェーンのメリットを詳しく説明していきます。
適切な作業の優先順位付け
クリティカルチェーンに則ったスケジュールを作成する際には、各工程の優先順位を決めた上でバッファを割り当てていきます。
そのため、作業の優先順位が明確になりやすいというメリットがあるだけでなく、作業メンバーもどの作業の優先順位が高いのかがわかるため、作業にスムーズに取り組める利点もあります。
プロジェクトの短期化
プロジェクトのスケジュールを短期化できるのもクリティカルチェーンのメリットです。
クリティカルチェーンの考えのもとにプロジェクトを進める場合は、各工程には最短の作業日数が見積もられ、バッファは設けていません。
その結果、不要な予備の時間が削減され、プロジェクトを短期で完了することができます。
プロジェクト全体の動きをメンバーが意識できる
CCPMによるプロジェクト管理は全体の進捗状況がわかりやすく、メンバーがプロジェクト全体の動きを確認できます。
全体の進捗がわかれば、たとえば、手の空いているメンバーが進捗の遅れている工程を手伝うといった能動的な動きができるでしょう。
各メンバーがスケジュールをもとに作業に取り組めるのはもちろん、積極的に遅れを取り戻せるように動けるのも、クリティカルチェーンのメリットと言えます。
クリティカルチェーンのデメリット
上記のメリットがある一方、クリティカルチェーンによるプロジェクトマネジメントには、以下のようなデメリットもあります。
- 短期プロジェクトには不向き
- 協力体制が整わないプロジェクトには不向き
短期プロジェクトには不向き
短期プロジェクトの場合、そもそもプロジェクト内でバッファを取る余裕がないことが多く、機能しないという観点から不向きと言えます。
メンバーにとっても、ただでさえ期限が短い中でバッファ分の日時を取られては、不満やストレスの原因にもなりかねません。
仮に短期プロジェクトでクリティカルチェーンを行うにしても、全体バッファを使っても大丈夫だという認識をすり合わせる必要があります。
協力体制が整わないプロジェクトには不向き
クリティカルチェーンのプロジェクトは、全体進捗を管理できる点が強みです。
各工程の作業進捗を見て他工程のサポートに回ったり、協力したりすることでプロジェクトを期限内に完了できます。
しかし、メンバー間で協力体制が整っていない場合、クリティカルチェーンのメリットは活かしにくいでしょう。
バッファが用意してあるとは言え、協力できなければ無駄にバッファを使うことに繋がります。
中には、プロジェクトのバッファを積極的に活用してしまおうと動くメンバーが出てきてしまう可能性もあります。
このように、メンバー間で協力できる体制になっていない場合もクリティカルチェーンは不向きです。
どのような時にクリティカルチェーンは使われるのか?
クリティカルチェーンは以下のような場合に使われる管理手法と言えます。
- 中長期のプロジェクトを管理する
- 作業の優先順位・スケジュールを明確化したい
- メンバーの協力体制が整っている
クリティカルチェーンは、今までのプロジェクト管理にかけていた期間短縮を実現するための方法です。
中長期のプロジェクトの納期遅延を防ぐ、もしくは期間を短縮したい際に使うべきでしょう。
また、プロジェクトの計画当初に各工程の優先順位を決め、スケジュール(期日)を確認することからスムーズに着手できる利点もあります。
スケジュールの全体像をメンバーで共有するため、優先順位や期限に対して不満や無理が発生しにくい点もクリティカルチェーンの魅力です。
普段、各工程の優先順位決めが曖昧だったり、スケジュール調整に悩んでいる場合にも、クリティカルチェーンを使ってみる価値があると言えます。
ただし、クリティカルチェーンはメンバーの協力体制が整っていないとバッファを使ってもカバーが難しくなる可能性があります。
そのため、メンバーの協力体制が整っている場合にも、クリティカルチェーンは使える手法です。
参考
参考文献
- エリヤフ ゴールドラット(著)、三本木亮(訳)『クリティカルチェーン―なぜ、プロジェクトは予定どおりに進まないのか?』ダイヤモンド社、2003年。