プロジェクトを本格的に始める前の準備段階を、プロジェクトマネジメントの用語で「立ち上げ(Initiation)」と呼びます。
「とりあえず作業を始めよう!」と見切り発車してしまうと、後になって「誰のためのプロジェクトだったのか」「いつまでに終わらせればいいのか」がブレてしまい、炎上の原因になります。
今回は、プロジェクトを正しい方向へ導くために、立ち上げフェーズで必ず明確にしておくべき5つのポイントを解説します。
プロジェクトの目標(ゴール)は何か?〜「モノ」ではなく「価値」を定義する〜

まずはプロジェクトのゴールを明確にします。目標は、プロジェクト中に選択を迫られた時の「判断軸」になります。
ここで重要なのは、「Webサイトをリニューアルする」「新システムを導入する」といったモノ作り(Output)をゴールにしないことです。
これからのプロジェクトマネジメントでは、その結果として組織や顧客にどのような「価値(Value)」をもたらすのかを目標に据える必要があります。
例えば、Webサイトのリニューアル1つとっても、「10代向けのポップなデザインにしたい」と「高齢者向けに文字を大きくしたい」という二律背反の要望が出ることがあります。
この時、「Webサイト経由の採用応募を月20件にする」という価値目標が明確になっていれば、「今回は若年層の採用強化が目的なので、ポップなデザインを採用しよう」と迷わず判断できます。
使う人や関わる人(ステークホルダー)は誰か?

プロジェクトの目標を達成するためには、プロジェクトに関わるすべての人や組織、すなわち「ステークホルダー(利害関係者)」を初期段階で特定しておく必要があります。
ステークホルダーは、実際に製品やサービスを使う「エンドユーザー」だけではありません。
- プロジェクトに資金を提供する「スポンサー(経営層など)」
- 業務フローが変わることで影響を受ける「他部署の担当者」
- 開発に協力してくれる「外部ベンダー」
これらすべてがステークホルダーです。立ち上げ段階で彼らを洗い出し、「誰の期待に応え、誰の協力を得る必要があるのか」を把握しておかないと、後になって「そんなシステムは聞いていない!」とちゃぶ台返しに遭う危険性があります。
スケジュールと費用はどの程度か?(概算見積もり)
プロジェクトの輪郭が見えてきたら、本格的に動く前にスケジュールと費用の「概算見積もり」を出しておきます。
立ち上げの段階では、まだ詳細な要件が決まっていないため、1円・1日単位の正確な見積もりは出せません。しかし、「だいたい半年くらいで、予算は500万円程度」という大枠(制約条件)を握っておくことが重要です。
同じ組織に専門家がいれば協力を仰ぎ、いなければ外部ベンダーに参考見積もりを依頼します。「プロジェクトの中盤になって、実は予算が全く足りなかった」という事態を防ぐための重要なステップです。
プロジェクトの成功基準・失敗基準は何か?

プロジェクトマネジメントでは、目的の達成だけでなく、品質・コスト・納期(QCD)を含めて、このプロジェクトの成否をどう判断するのかを文書化しておきます。
成功基準
「何をもって成功とするか」を、できるだけ具体的な数値や状態(例:投資収益率の達成、特定機能のリリースなど)で定義します。
- このプロジェクトの成功とはどのような状態か?
- 成功はどのように測定されるか?
失敗基準(撤退ライン)
実は、成功基準以上に重要なのが「失敗基準」です。
プロジェクトの企画段階で、「予算が〇〇万円を超えたら」「〇月までにテストが終わらなければ」といった撤退ラインを明確にしておきましょう。
失敗の基準があらかじめ定まっていることで、状況が悪化した際に「ここまでお金をかけたから……」と価値のないプロジェクトをズルズルと続けてしまう(サンクコストの罠に陥る)のを防ぎ、適切なタイミングで見直しや中止の判断を下すことができます。
さいごに:プロジェクト憲章を作成し、承認を得る
ここまで検討してきた以下の内容を、1つの文書にまとめます。
- 目標と提供する価値
- 主要なステークホルダー
- 概算のスケジュールと予算(制約条件)
- 成功基準と失敗基準
この立ち上げ時の重要事項をまとめた文書を、PMBOKでは「プロジェクト憲章(Project Charter)」と呼びます。いわば、プロジェクトの企画書であり、羅針盤となるものです。
このプロジェクト憲章をスポンサーや経営層に提出し、「この条件・目的でプロジェクトを進めてよいか」の正式な承認(オーソライズ)を得ます。
承認が下りて初めて、プロジェクトマネージャーには人やお金を動かす権限が与えられ、プロジェクトの「立ち上げ」フェーズが完了となります。
準備が整ったら、次はいよいよ具体的な「計画」フェーズへと進んでいきましょう。

