【UXデザイン入門】良い体験を生み出すために学ぶべき事とは?必須知識(インプット)を3分野で徹底解説!

[画像:安藤昌也『UXデザインの教科書』]
「UXデザイン」については『UXデザインの教科書』もチェック!

「UXデザインって、なんだか面白そうだけど、一体何から勉強したらいいんだろう?」
「最高のユーザー体験を作るためには、どんな知識や情報が必要なのかな?」

UXデザインの世界に足を踏み入れたばかりのあなたは、きっとこんな期待と疑問でいっぱいですよね。
ただ見た目をキレイにするだけでなく、ユーザーが心から「使いやすい!」「楽しい!」と感じる体験をデザインするためには、実は色々な「知識」や「情報」をインプット(収集・学習)することが大切です。

この記事では、UXデザイナーが良い体験を生み出すために、どんなことをインプットしているのか、『UXデザインの教科書』で示されている考え方も参考にしながら、大きく3つのカテゴリーに分けて、初心者の方にも分かりやすく徹底解説します!

この記事を読み終える頃には、UXデザインを学ぶ上での「地図」が手に入り、何から学べば良いのか、その全体像がスッキリと見えてくるはずです。さあ、一緒に最高の体験デザイナーへの第一歩を踏み出しましょう!

第1章:なぜ?を知るための「デザイン理論」編 ~人の心の動きと使いやすさのヒミツ~

「デザインってセンスでしょ?」いえいえ、実はUXデザインの世界では、人の行動や心理に基づいた「理論」がとっても重要なんです。

UXデザインに「理論」が必要なワケ

すべてのユーザーに直接話を聞いたり、すべての行動データを集めたりするのは、残念ながら現実的には不可能です。
そこで役立つのが、先人たちが積み重ねてきた「デザイン理論」です。
これを知っていると、限られた情報からでも「ユーザーはきっとこう考えるだろうな」「こういうデザインなら喜んでくれるかな」と、より賢く予測する手助けになります。

「なんとなくこっちのデザインが良い気がする…」ではなく、「こういう理由で、このデザインの方がユーザーにとって分かりやすいはずです!」と自信を持って言えるようになるための、強力な武器になります。

ユーザーはどう考える?「認知工学」の視点

[画像:電球のマークの中に、脳のイラストや思考のフキダシが描かれているイメージ。認知工学を象徴。]

「認知工学(にんちこうがく)」と聞くと難しそうですが、簡単に言うと「人はどうやって物事を理解し、考え、行動するのか」を探る学問です。

初めて使うアプリでも、なんとなく操作方法が分かるのはなぜ?

スマートフォンの普及に伴って、多くのアプリがリリースされています。
初めて使うアプリでも、そこまで操作に困るということはありませんが、何故でしょうか?
それは、私たちが頭の中に持っている「これはこうやって使うものだよね」という経験からくる思い込み(メンタルモデル)と、アプリのデザインが合っているからです。
例えば、紙飛行機のアイコンを見たら「送信」だと多くの人が思いますよね?それもメンタルモデルの一つです。

人が目標を達成するまでの心のステップ

私たちが何かをしようとするとき、無意識のうちにいくつかのステップ(目標設定→計画→実行→確認など。これを「行為の7段階モデル」と呼んだりします)を踏んでいます。
デザイナーは、ユーザーがどのステップでつまずきやすいかを知り、手助けするデザインを考えることができます。

人にとって自然で使いやすいって?「人間工学(HCD)」の視点

[画像:電球のマークの中に、人の形と、それを取り巻くように快適さを示すアイコン(例:笑顔、親指を立てるなど)が描かれているイメージ。人間工学を象徴。]

「人間工学(にんげんこうがく)」は、「人が無理なく、自然に、そして快適に使えるようにモノや環境をデザインする」ための考え方です。特に、人間中心設計(Human Centered Design: HCD)というアプローチが重要です。

スマートフォンのボタン、押しやすい大きさと場所は?

身近なHCDの例として、スマートフォンのボタンが挙げられます。
スマホのボタンが小さすぎたり、指が届きにくい場所にあったりするとストレスですよね。人間工学は、そんな身体的な使いやすさを考えます。

大切なのは3つの「誰が・何のために・どんな状況で?」

HCDで大切なのは、下記の3つの要素です。

HCDの3つの要素
  • 誰が使うの?(ユーザー): 年齢、性別、ITスキル、体の特徴など。
  • 何のために使うの?(タスク): ユーザーの目的や操作の流れ。
  • どんな状況で使うの?(環境): 場所、時間、使っているデバイス、周りの状況など。

これらをちゃんと考えることが、人に優しいデザインの第一歩です。

「なんかイイ感じ!」を科学する「感性工学」の視点

[画像:電球のマークの中に、ハートマークやキラキラしたエフェクトが描かれているイメージ。感性工学を象徴。]

「感性工学(かんせいこうがく)」は、「使っていて楽しい!」「なんだか好きだな」「心地よい」といった人の「感性」や「感情」を科学的に分析し、それをデザインに活かす考え方です。

このWebサイト、なんだか見ていて心地よいな…の理由

Webサイトを見ていて、「このWebサイト、なんだか見ていて心地よいな…」と思ったことはありませんか?
それは、色使いや文字の形、写真の雰囲気、操作したときのちょっとした動きなどが、あなたの「心地よい」と感じるポイントを刺激しているからかもしれません。

論理だけでは測れない「好き」を作る

現代は機能が良いだけでは選ばれない時代です。
感性工学は、ユーザーのポジティブな感情に訴えかけるデザインを目指します。スターバックスの店舗デザインが「居心地の良さ」を追求しているのも、この感性工学的なアプローチの一例です。

迷わせないための「ガイドライン」

[画像:電球のマークの中に、チェックリストや定規、分度器などが描かれているイメージ。ガイドラインを象徴。]

「デザインガイドライン」とは、製品やWebサイトなどで、色々な画面や機能のデザインに一貫性を持たせ、品質を保つための「ルール集」のようなものです。

どのページを見ても操作方法が同じで安心!

ボタンの形や色、文字の大きさ、アイコンの意味などがバラバラだと、ユーザーは混乱してしまいますよね。ガイドラインは、そういった「迷子」を防ぎます。

有名企業のデザインルールも参考に

世の中には、多くのガイドラインが公開されています。
例えば、Googleの「Material Design」やAppleの「Human Interface Guidelines」などは、優れたデザインの原則を学ぶ上でとても参考になります。
有名企業のデザインガイドラインから、「良いとされるデザイン」のルールを学ぶことができます。

「お決まりの解決策」を学ぶ「デザインパターン」

[画像:検索窓、パンくずリスト(サイト内の現在地を示す表示)など、WebサイトによくあるUIたち。デザインパターンを象徴。]

「デザインパターン」とは、過去のたくさんのデザインの中から見つけ出された、「こういう問題には、こういう解決方法がだいたい上手くいくよ」という「設計の型」や「お手本」のことです。

よく見るデザインには理由がある

検索窓、ハンバーガーメニュー(三本線のメニューアイコン)、パンくずリスト(サイト内の現在地を示す表示)。Webサイトを見ていると、よく見る似たようなデザインが並んでいます。
これらは多くの人が見慣れていて、直感的に使い方が分かるデザインパターンです。

車輪の再発明を避ける知恵

よくある問題に対して、毎回ゼロから解決策を考えるのは大変ですよね。デザインパターンを知っていれば、効率よく、質の高い、そしてユーザーにとって馴染みやすいデザインを作ることができます。

第2章:何を作るの?「デザインの対象領域」編 ~今とこれからを見つめる~

[画像:虫眼鏡で、ウェブサイトやアプリの画面、人々が様々な場所(電車、カフェ、家など)でスマホを使っている様子、市場のグラフなどを覗き込んでいるイメージ。「既存UX」「利用文脈」「製品・市場」の要素を想起させる。]

デザイン理論で「人」についての理解を深めたら、次はその知識を「何に対して」使っていくのか、つまりデザインの対象となる領域を見ていきましょう。
良いUXデザインは、ただ新しいものを作るだけでなく、今ある状況をしっかり理解することから始まります。

今ある体験どうなってる?「既存UXの調査」

新しい製品を作るときも、今ある製品を良くするときも、まずやるべきは「今のユーザー体験(既存UX)はどうなっているんだろう?」と調べることです。

今のWebサイト、どこが使いにくくてお客さんが困ってる?

既存UXの調査をせずに改善を始めてしまうのは、どこが悪いか分からないまま家をリフォームするようなもの。まずは現状把握が大切です。

ユーザーの声を聞く、行動を観察する

既存UX調査は、ユーザーに直接インタビューしたり、アンケートを取ったり、実際に製品を使ってもらって問題点を見つける(ユーザビリティテスト)などの方法で、今の課題やユーザーが本当に求めていることを見つけ出します。

いつ、どこで、なぜ使う?「利用文脈の理解」

「利用文脈(りようぶんみゃく)」とは、ユーザーが製品やサービスを「いつ、どこで、どんな目的で、どんな風に」使うのか、その具体的な背景や状況のことです。

同じ地図アプリでも、急いでいる時と旅行の計画を立てる時では使い方が違う!

通勤中に乗換案内をサッと調べたい時と、週末の旅行プランをじっくり練りたい時では、地図アプリに求める情報や使い勝手は変わってきますよね。
こうした「いつ、どこで、どんな目的で」という利用文脈を考えることは、UXデザインで大切なことです。

ユーザーが製品やサービスを使う「状況」を具体的に想像する

UXデザインでは、ユーザーが製品やサービスを使う「状況」を具体的に想像することも重要です。
ペルソナ(仮想的なユーザー像)を作ったり、カスタマージャーニーマップ(ユーザーが製品やサービスと出会ってから利用後までの一連の体験の流れをまとめたもの)を作ったりして、色々な状況を想像し、それぞれの状況に合ったデザインを考えることが大切です。

作るものとライバルは?「製品・市場分析」

良いUXデザインは、ユーザーにとって使いやすいだけでなく、ビジネスとしても成功し、市場で受け入れられる必要があります。そのためには、作る製品そのものや、その製品を取り巻く市場の状況をよく知ることが大切です。

私たちが作ろうとしている製品は、誰のどんな悩みを解決するの?ライバル製品との違いは?

製品・市場分析では、製品の目的、主な機能、誰に使ってほしいのか(ターゲットユーザー)、そして市場に同じような製品(競合製品)はあるのか、あるならその強みや弱みは何か、などを分析します。

市場のトレンドや、競合が何をしているかを知ることも大事

今、市場ではどんな技術やデザインが流行っているのか、ライバル会社はどんな戦略で来ているのか、といった情報も、競争力のある製品を作るためには欠かせません。3C分析やSWOT分析といったフレームワークも役立ちます。

第3章:ビジネスとして成り立つ?「ビジネス領域」編 ~デザインを成功につなげる~

[画像:歯車のイラスト。それぞれの歯車に「戦略」「収益」「チーム」「技術」「ブランドイメージ」といった言葉が書かれており、それらが噛み合って回っているイメージ。ビジネス領域の要素の連携を示す。]

ユーザーにとって最高の体験も、ビジネスとして成り立たなければ続けることはできません。UXデザイナーは、ユーザーのことだけでなく、ビジネスのことも考える視点を持つことが、デザインを本当の成功に導くために重要です。

会社の目標とデザインを繋げる「ビジネス戦略」

「ビジネス戦略」とは、会社が「何を達成したいのか(売上アップ、新しいお客さんを増やすなど)」という目標を立て、それをどうやって実現するかの計画のことです。

会社の目標が「もっと多くの人に使ってもらうこと」であったとします。この場合、UXデザイナーは「初めて使う人でも迷わない、簡単な登録プロセス」をデザインすることで、新しいユーザーが増えやすくなり、会社の目標達成に貢献できます。
しかし、会社の目標を理解しておかなければ、デザインは独りよがりなものになってしまいます。
そのため、UXデザイナーは、会社のビジネス戦略を理解し、「このデザインは何のためにやるのか」「どうすればビジネスに役立てるか」を常に考えることが大切です。

どうやって儲けるの?「ビジネスモデル」の理解

「ビジネスモデル」とは、会社が「どうやってお金を稼ぐか」という儲けの仕組みのことです。

広告で収益を上げるモデル(広告モデル)なのか、月額料金をいただくモデル(サブスクリプションモデル)なのか、といったビジネスモデルによって、最適なUXデザインの形も変わってきます。

広告で収益を得るアプリは無料であることが多いです。この場合、ユーザーの金銭的な負担はないのですが、広告が多すぎるとユーザーは不快に感じるかもしれません。だからといって、広告が全くないとビジネスが成り立ちませんよね。

一方、サブスクリプションモデルであれば、ユーザーがサブスクを契約して、ようやく売上になります。
契約をしてもらうために、登録用のボタンを目立つ場所に配置したり、どのような有料コンテンツが利用できるかを示したりする必要があります。

UXデザイナーは、ビジネスモデルを理解した上で、ユーザーにとってもビジネスにとっても良いバランスのデザインを考える必要があります。

誰とどうやって作る?「組織・人材」

最高のUXは、一人の天才デザイナーだけで作れるものではありません。色々なスキルを持ったチームメンバーと協力し、UXを大切にする会社の文化があってこそ実現します。

デザイナーだけでなく、エンジニア(実際に作る人)、企画を考える人、マーケティングをする人など、たくさんの人が関わります。
それぞれの専門性を尊重し、スムーズに情報交換しながら協力できるチーム体制や、意見を言いやすい雰囲気づくりが大切です。

技術的にできること、できないこと「システム(技術的制約)」

どんなに素晴らしいUXデザインのアイデアも、技術的に作れなかったり、ものすごくお金や時間がかかったりしては意味がありません。

例えば、最新技術を使ったリッチなアニメーションも、ユーザーのスマホが古くてうまく動かなければ、かえって使いにくいですよね。

UXデザイナーは、開発を担当するエンジニアとよく話し合い、何ができて何が難しいのかを理解し、その範囲の中で最高の体験を目指す必要があります。「制約は創造性の母」という言葉もありますよ!

どんなイメージを持ってもらいたい?「ブランド」

「ブランド」とは、単なる会社名やロゴではなく、その会社や製品が持つ独自の個性や価値観、お客さんとの約束のことです。そしてUXデザインは、お客さんが製品やサービスを通じて感じる体験を直接作るため、このブランドイメージに大きく影響します。

例えば、高級ブランドなら、Webサイトのデザインも洗練されていて、言葉遣いも丁寧であるべきですよね。Webサイト、アプリ、広告、お店の雰囲気、サポートの対応など、お客さんが触れるすべての場所で、ブランドのイメージが一貫していることが大切です。
UXデザインは、その「ブランドらしさ」を体験を通じて伝える役割を担います。

まとめ

UXデザインに必要なインプットは、大きく分けて「デザイン理論」「デザインの対象領域」「ビジネス領域」の3つの柱があることをお伝えしました!

  • 「デザイン理論」で人の心や行動の基本を学び、
  • 「デザインの対象領域」で今ある状況やユーザー、市場を深く知り、
  • 「ビジネス領域」でデザインを実際の成功に結びつける。

これらをバランス良くインプットし、それぞれの関連性を理解していくことが、ユーザーに本当に価値のある体験を提供できるUXデザイナーへと成長するための大切なステップです。

UXデザインの世界は、新しい技術や考え方がどんどん出てきて、ユーザーの求めるものも変わり続ける、とてもエキサイティングな分野です。一度学んだら終わりではなく、常に新しい情報にアンテナを張り、学び続ける姿勢がとても大切です。

そして、知識を得ることと同じくらい大事なのは、実際に手を動かしてデザインを試してみること。この記事で紹介したインプットを意識しながら、まずは身の回りのモノやサービスのUXを観察し、「なぜこれは使いやすいんだろう?」「もっとこうしたら良くなるかも?」と考えてみてください。

それが、あなたが最高の体験デザイナーになるための、素晴らしい第一歩となるはずです!

参考

  • 安藤昌也『UXデザインの教科書』丸善出版、2016年