ディシジョン・ツリー分析(決定樹)とは何か?期待金額価値(EMV)の計算方法
ディシジョン・ツリー分析とは
ディシジョン・ツリー分析(決定樹)とは複数の選択肢・代替案がある中で期待金額価値(EMV)を比較しながら最良の選択をするための意思決定の手法です。
PMBOKではディシジョン・ツリー分析を「不確実性のある中で、一連になった複数の選択肢から推測される結果を評価する図式および算出の技法」と定義しています[1]PMBOK第6版、721頁。。
ディシジョン・ツリー分析の方法
ディシジョン・ツリー分析の大きな流れは以下の通りです。
- 意思決定事項の決定
- 選択肢の洗い出し
- 可能性の洗い出し
- 各可能性の結果の価値を見積もる
- ディシジョン・ツリーの作成
- 期待金額価値(EMV)の計算
- 意思決定
意思決定事項の決定
ディシジョン・ツリー分析を用いるタイミングというのは、何かしらの意思決定を行いたいときです。
例えば「会計ソフトの機能追加の方法」、「次のイベントの内容」など、複数の選択肢がある意思決定でディシジョン・ツリー分析は使用されます。
まずは意思決定事項を明確にし、ディシジョン・ツリー分析で何を決定したいのかを明らかにします。
選択肢の洗い出し
何を決めたいのかが明確になったら、選択肢を洗い出していきます。
例えば「会計ソフトを新規で導入するか、今使っているシステムを改修するか」、「予算内で実行できるのは屋外イベントか屋内イベントかの2つ」など、どのような選択肢があるのかを整理していきます。
さらに各選択肢にどのくらいの費用が必要なのかもまとめておきます。
可能性の洗い出し
選択肢が整理できたら、次はそれぞれの選択肢にどのような可能性があるのかを洗い出していきます。
よく例として挙げられるのが、イベントの内容を決める際に起こりうる可能性の洗い出しです。屋外イベントを行う選択肢を考えていれば、イベント当日の降水確率が40%であれば、40%の確率で雨が降ってイベントは中止になってしまい、60%の確率で晴れてイベントを実施することができます。
このように、「何%でどのようなことが起こるのか」を整理していきます。
各可能性の結果の価値を見積もる
選択肢とその選択肢を選んだ際に発生すると考えられる可能性も整理できたら、各可能性の結果の価値を見積もっていきます。
先ほどのイベントの例ですと、屋外イベントを選んだ場合は晴れていれば200万円の売上が見込まれるが、雨で中止となれば当然0円という風に、各選択肢・可能性毎に発生しうる収益額などを見積もっていきます。
ディシジョン・ツリーの作成
ここまで来たら、一度ディシジョン・ツリーを作成していきましょう。
今回は「次のイベントの実施内容」を決定するためのディシジョン・ツリーを例として作成していきます。
予算の都合上、選択肢として挙げられるのは「屋外イベント」と「屋内イベント」の2つであり、それぞれ費用として屋外であれば50万円、屋内であれば25万円必要であるとします。
問題は天候であり、イベント当日の降水確率が40%と予想されています。屋外イベントは60%の確率で晴れていれば200万円の売上が見込まれていますが、40%の確率をひいて雨が降ればイベントは中止となって売上が0円になります。
一方、屋内イベントは屋外に比べて大きな集客は見込めませんが、晴れている場合は100万円の売上が見込まれ、雨天であっても50万円の売上が予想されています。
これらの情報をまとめたのが下の図1です。
ディシジョン・ツリーを作成するときは、まず左端に意思決定事項として「何を決めたいのか」を掲載します。
そのあと、その意思決定事項から線を引き、「決定ノード」で各選択肢に枝分かれさせて記述します。
「ノード」という言葉が聞きなれないかもしれませんが、ものとものを結ぶ「結合点」を意味しています。ただし、この「ノード」のイメージがつかめなくともディシジョン・ツリーは作成できますので、わからない場合は気にしなくても良いかもしれません。
次に各選択肢から線を引き、「可能性ノード」で各可能性に分岐させていきます。それらの線の上には発生確率を記載しています。
ここまで掲載したら「終点」の後ろに「純パスバリュー」を掲載します。「純パスバリュー」と言われるとわかりにくいですが、要するに予想粗利益を計算していきます。
例えば屋外イベントの晴れの場合の純パスバリューは予想売上の200万円から費用の50万円を差し引いた150万円です。他方、屋外イベントを実施して、雨が降ってしまった場合は、予想売上0円から50万円を引いたマイナス50万円が純パスバリューになります。
こうした情報を整理してディシジョン・ツリーを作成していきます。
期待金額価値(EMV)の計算
ここまで各可能性の純パスバリューまで算出できたら、期待金額価値(Expected Monetary Value、以下EMVと略記)を計算していきます。
EMVとは、それぞれの選択肢を選んだ時に得られることが予想される金額のことで、選択肢がもつ各可能性の純パスバリューと発生確率を掛け合わせたものを合計した金額になっています。
図1でいうと、「屋外イベント」は60%の確率で純パスバリュー150万円が得られて、40%の確率でマイナス50万円の純パスバリューが発生します。つまり、屋外イベントのEMVは以下のように計算することができます。
- 屋外イベントのEMV = 150万円 × 60% + マイナス50万円 × 40% = 1,500,000 ×0.6 + (-500,000) × 0.4 = 700,000
計算の結果、屋外イベントのEMVは70万円であることがわかりました。同様に屋内イベントのEMVも計算すると55万円でした。
ここまででディシジョン・ツリー分析で行う計算は終了です。最後にこれらの結果から意思決定を行っていきます。
意思決定
図2にまとめてある通り、ディシジョン・ツリーを作成し、EMVを計算した結果、屋外イベントのEMVは70万円、屋内イベントのEMVは55万円であることがわかりました。
ディシジョン・ツリー分析は意思決定を行うための手法です。最後にこれらの結果から「どのような選択肢を選べばよいのか」を判断します。
とはいえ方法は単純で、EMVが最も高い選択肢を選ぶのが最良の意思決定です。屋外イベントは雨天の場合のマイナスが怖くて、人によっては躊躇してしまうかもしれませんが、それをおそれて屋内イベントをするよりも高い粗利益が期待できるため、屋外イベントを選択することが推奨されます。
要求定義にも使えるディシジョン・ツリー
ディシジョン・ツリーといえば、今日ではこれまで紹介してきたようなEMVの分析ツールとして使われることが多くなってきましたが、この他にも要求定義のツールとしても使うことができます。
「このプロジェクトで何が欲しいのか?」を定義する要求定義は、簡単なように見えて難しい作業です。たとえば「Webサイトを新規で立ち上げる」というプロジェクトであっても、それが会社情報を発信するサイトを立ち上げるのか、ネットショップ(ECサイト)を立ち上げるのか、問い合わせ増加を目的としているのか採用活動に使うのかで求められるWebサイト像は変わってきます。
しかし、こうした自分たちが求めているものを言語化することは容易ではありません。そのためディシジョン・ツリーを使い、「用途は何ですか?」「主なユーザーは誰ですか?」というように、ステークホルダーに対して質問を繰り返しながら、一歩ずつ要求事項を確認していきます。
あらゆる選択肢と可能性を考え、必要なものだけ抽出する
今回はディシジョン・ツリー分析の方法を解説してきました。
ディシジョン・ツリー分析では選択肢とコストを洗い出し、発生しうる可能性と確率、そして予想される売上を見積り、EMVを算出し、各選択肢のEMVを比較して意思決定を行います。
今回は例として「屋外イベントか屋内イベントか」という選択肢と「晴れか雨か」という可能性しか考慮しませんでした。
しかし、実際の意思決定の場はここまでシンプルなものではなく、「コストはさらに高くつくけど屋外に勝るイベント会場を使う」という他の選択肢や、「集客・宣伝がうまくいくかどうか」という可能性もでてきます。
このようにありとあらゆる選択肢・可能性を考えていくと、ディシジョン・ツリーはどんどん複雑になっていきます。
しかし、複雑になりすぎてかえって意思決定ができなくなっては本末転倒です。
大切なことは選択肢や可能性を洗い出した後、その中で何を考慮しなければならないのかを整理し、必要最低限の項目でディシジョン・ツリーを作成することではないでしょうか。
注
↑1 | PMBOK第6版、721頁。 |
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