ダニング=クルーガー効果とは何か?できない人ほどできた気になる現象を解説

2023年3月22日

動画でも解説しています

今回のダニング=クルーガー効果については、動画でも解説していますので、ぜひご覧ください。

ダニング=クルーガー効果とは

ダニング=クルーガー効果とは、心理学者のデイビット・ダニング(David Dunning)ジャスティン・クルーガー(Justin Kruger)が提唱した認知バイアスに関連する効果の1つで、能力の低い人が実際の評価と自己評価を正しく認識できず、誤った認識で自分自身を過大評価してしまう心理現象です。
これまでの経験、先入観、直感などが作用し、実際の評価と乖離した自己評価をし、固定概念が原因となって非合理的な判断や行動をしてしまう認知バイアスを引き起こします。

「自意識過剰」と混同されがちですが、自意識過剰は他人が自分に対してどう認識しているかを意識しすぎる状態であり、ダニング=クルーガー効果では自分自身を過大評価してしまう状態を示すため、この2つの効果は異なります。

ダニング=クルーガーの実験

「楽観主義バイアス」と個人の能力の関係

楽観主義バイアスとは、根拠がないにもかかわらず「きっと大丈夫」「自分は平均以上だ」と考えてしまう認知バイアスの1つです。
ダニングとクルーガーは、この楽観主義バイアスが個人の能力によって発現の仕方に違いが出るかを調査しました。
それが「ダニング=クルーガーの実験」と呼ばれるものです。

3種目のテスト

ダニングとクルーガーは、アメリカのコーネル大学の学生に対して、「ユーモア」「論理的思考」「英文法」の3種目のテストを実施し、自分自身の成績が全体の内どの程度なのかを予想してもらいました。

実際の得点が上位25%の学生と下位25%の学生でグループ分けし、能力による楽観主義バイアスの傾向を調査しました。

調査の結果は以下の通りです。

自己評価実際の得点評価の乖離
上位25%の学生74点86点14%の過小評価
下位25%の学生86点12点470%の過大評価

本人の自己評価と実際の成績を照らし合わせた結果、3種目全てにおいて実際の成績が低い学生ほど自己評価が高く、成績が高い学生ほど自己評価は低くなったという結果が出ています。

上記の結果から、ダニングらは「能力の低い者は自分の能力を過大に評価する傾向がある」と結論づけ、「ダニング=クルーガー効果」と命名しました。
これらの研究結果を1999年に論文で発表し、翌年2000年にはイグノーベル賞の心理学賞を受賞して世界中で注目されるようになりました。

ダニング=クルーガー効果の影響

ここからは、ダニング=クルーガー効果によって引き起こされる影響を紹介していきます。

自身を過大評価してしまう

自身の能力以上に自己評価を高く見てしまうと、自分自身の立ち位置を見誤ることにつながります。自分の能力以上の仕事を請け負ってしまい、処理できず、周りに迷惑を掛けてしまいます。

また、運転免許を例とした場合でも、免許を取得してから3年から5年経過して運転に慣れたドライバーの方が、免許を取得したばかりの初心者よりも事故を起こす確率が増えるという結果も出ています。
これも、運転の慣れから自身の運転技術を見誤って事故を起こしてしまう認知バイアスにより錯覚や評価のズレが引き起こしたものと考えられます。

知識不足に陥る傾向になる

能力が低い人ほど、全体の本質や知識の総量が不足しているにもかかわらず、自分は知識があると錯覚します。「自分は知識を十分持っている」と錯覚しているため、勉強や運動、仕事における知識の習得を補う努力をしなくなり、成長の機会を失ってしまう傾向があります。
逆に能力のある人ほど「自分はまだまだ知識不足だ」と自己評価を低く見てしまうため、努力を重ねて知識が増えるという傾向があります。

評価ができなくなる

自分の方が優れていると錯覚しているため、自分や他人を正しく評価できなくなることにつながります。部下を評価する上司がダニング=クルーガー効果に陥っていた場合、自分自身を高く評価してしまっているがために、部下の評価を不当に低くつけてしまう可能性があります。

問題を他人の責任だと思ってしまう

問題が発生した際、解決できないのは周りの能力が低いからだと思い込んでしまう傾向があります。自分自身の能力は十分優れているという錯覚から「問題が解決しないのは他人のせいだ」と他人の能力を否定してしまうケースが多くなります。

詐欺被害に遭いやすい

自己評価が高すぎる人ほど詐欺被害に遭いやすい傾向にあります。「自分は優れているから騙されるはずがない」「自分の判断は正しい」と思い込んでしまうことから、自分の判断に疑問を持てず詐欺だと気が付かない場合があります。

平均効果の発生

認知神経学者のバハドル・バーミラ(Bahador Bahrami)らは、ダニング=クルーガー効果が実際の仕事現場においてどのような影響を及ぼすかを調査しました。

能力が高い者と低い者を2人1組にし、特定の問題に対して話し合いで意思決定する実験を行いました。
結果として、能力が高い者の判断が正しい場合でも、話し合いの末に能力の低い者の意見が採用されるケースが多く見られました。

これは、能力が高い者は相手も同等の能力がある前提で話し合いに臨むため、過剰な自信を持って発言をする能力の低い者に引きずられてしまったためでした。

これを「平均効果(Equality bias)」といい、片方の能力がもう一方の能力を一定以上下回ると、個人の選択より話し合いの結果の方が結果が悪くなることがわかっています。

ダニング=クルーガー効果に陥っているかに気が付く方法

ダニング=クルーガー効果では自分自身の能力の低さに自分で気が付くことが困難であるとされています。
したがって、実際に自分が周りにどんな影響を与えているかどうかは自分自身では正しく評価することができません。
そのジレンマから抜け出すには次の方法が良いとされています。

メタ認知を高める

ダニング=クルーガー効果が発生する原因は、メタ認知の欠如が原因と言われています。
メタ認知とは「自身が認識していることを客観的に把握する事」であり、このメタ認知が欠如している場合は作業を遂行する能力が足りていないという事実を認識できなくなります。そのため、自分自身が置かれている状況、能力を客観的に把握することができず、自分自身を過大評価してしまうことで、現実の評価とのズレが生じてしまいます。

他者からのフィードバックを受ける

自分で自分の評価が正しくできないのであれば、他者に評価してもらうのが効果的です。
自己評価に対して他者からの評価が低い場合には、自分の能力を疑ってみる必要があります。

数値の明確化と振り返り

成果や過程を数値化して結果につながったかどうかを明確化することで、自身の評価がより客観的、正確に把握することができるため、改善につなげることができます。
また、「なぜ成功したのか、なぜ失敗したのか」といった原因を特定し、振り返りを行うことで、自分自身への理解と認識のズレを修正することができるようになり、次の行動の改善を促すことが可能となります。

最後に

自身の能力に対して過大評価を続けてしまうと、その後の能力の成長に支障をきたします。
しかし過大評価を認知することができれば、自身の態度を見直し成長に向けて舵を切ることは可能です。
今後のスキルアップや正しい意思決定のために、一度自分自身の評価を見直す機会を作りましょう。

参考

  • 橘 玲『バカと無知 -人間、この不都合な生きもの-』新潮新書、2022年

Webページ

  • https://en.wikipedia.org/wiki/David_Dunning(2023年3月13日確認)
  • https://en.wikipedia.org/wiki/Justin_Kruger(2023年3月13日確認)
  • https://gakusen.repo.nii.ac.jp/index.php?action=repository_action_common_download&item_id=940&item_no=1&attribute_id=18&file_no=1&page_id=13&block_id=17 (2023年3月13日確認)
  • https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1421692112(2023年3月13日確認)