代表性バイアスとは何か?例とともに判断を誤る原因となる認知バイアスを解説

2023年10月2日

代表性バイアスの概要

代表性バイアス(representativeness bias)は、認知のバイアスの一種で、人々が情報やデータを評価する際に特定の特徴やパターンが他の要因よりも強調される傾向を指します。
このバイアスは、情報を簡略化し、判断を迅速に下すために使用されますが、時には誤った結論や判断を導くことがあります。代表性バイアスは、カテゴリーやパターンの一致に過度に依存することによって生じます。

この代表性バイアスは、アメリカの心理学者であるエイモス・トベルスキー(Amos Tversky)ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)によって発見・研究されました。トベルスキーとカーネマンは、1974年にアメリカの心理学のジャーナルである「サイエンス」(Science)に発表した論文「Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases」で、代表性バイアスについて初めて詳しく説明しました。この論文は、行動経済学や判断心理学の重要な基盤となり、心理学と経済学の分野において大きな影響を与えました。

トベルスキーとカーネマンの研究では、人々が確率や不確実性に関する判断を下す際に、代表性ヒューリスティクス(representativeness heuristic)という認知のルールを使用し、代表性バイアスが生じることが示されました。代表性ヒューリスティクスは、人々が特定の事象やサンプルが特定のカテゴリーやパターンにどれだけ「似ている」かに基づいて判断し、その結果、代表的な特徴を強調しすぎて誤った結論を導くことを指します。

この研究によって、認知のバイアスや誤った判断が人間の日常的な意思決定にどのように影響を与えるかが明らかにされ、行動経済学や意思決定の分野において重要なテーマとして認識されるようになりました。代表性バイアスは、経済学、心理学、そして他の社会科学の研究において広く議論され、研究されています。

代表性バイアスの例

植原亮の『思考力改善ドリル: 批判的思考から科学的思考へ』から、代表性バイアスの例を問題形式で紹介していきます[1]植原亮『思考力改善ドリル: 批判的思考から科学的思考へ』勁草書房、2020年、17頁。

代表性バイアスの問題

A子さんは50歳になって子育ても終わり、最近、勉強することのおもしろさに気がついた。
若いころにはあまり勉強しなかった自分を反省する思いも強く、たまたま出会った心理学の本を読んで以来、学問の奥深さに引き込まれている。
今後の人生を豊かにするために、もっとさまざまなことを学んでみたいと思っている。

それでは、A子さんは、次のaとbのどちらの人物である可能性が高いと考えられるだろうか。①直観による解答と、②熟慮による解答(理由や過程も述べる)をそれぞれ示せ。

  • a:A子さんは病院の受付で働いている。
  • b:A子さんは病院の受付で働いており、通信制大学の受講を始めようと考えている。

多くの人は「学問の奥深さに引き込まれている」ということから、「通信制大学の受講を始めようと考えている」と予想し、「b」を解答として選びます。
しかしこの問題は「a」と「b」のどちらの可能性が高いかという問題であるため、正解は「a」です。

仮に「病院の受付で働いている」という確率が50%、「通信制大学の受講を始めようと考えている」という確率が50%だったとします。
この仮定では「a」の確率は50%です。一方、「b」の確率は「病院の受付で働いている」「通信制大学の受講を始めようと考えている」という事象が両方起こらないといけないため、確率は25%です。

代表性バイアスの例
図1:代表性バイアスのベン図

これはベン図を描くとより理解が深まります。
「b」の解答は「病院の受付で働いている」「通信制大学の受講を始めようと考えている」という事象が重なった部分を示しています。この事象の領域は単に「病院の受付で働いている」という事象の領域より狭いことがわかります。つまり、「A子さんは病院の受付で働いている。」という「a」の解答よりも、「A子さんは病院の受付で働いており、通信制大学の受講を始めようと考えている。」という「b」の可能性が低いことがわかります。

代表性バイアスが発生する原因

代表性バイアスはなぜ発生するのでしょうか?
代表性バイアスは、人間の認知プロセスにおける特定の誤った思考パターンに起因して発生します。
その主な理由は以下のとおりです。

代表性ヒューリスティクスの使用

人々は判断を迅速に下すために、代表性ヒューリスティクスと呼ばれる認知のルールを使用します。このヒューリスティクスでは、特定の事象やサンプルがあるカテゴリーやパターンにどれだけ「似ているか」を判断の基準として用います。しかし、この方法は時に、事象がランダムであるかもしれない場合にも代表的な特徴に過度に依存することから、代表性バイアスを引き起こします。

ステレオタイプや固定観念

人々は社会的背景や文化、個人的な経験に基づいてステレオタイプや固定観念を持つことがあります。これらのステレオタイプは、特定のカテゴリーやグループについての誤った判断や評価につながる可能性があり、代表性バイアスを強化する要因となります。

小標本の誤解

代表性バイアスは、小さなサンプルサイズの情報に特に影響を受けやすいです。小標本の場合、ランダムなばらつきによって特定の特徴が強調されやすく、代表性バイアスが生じやすくなります。

過度の認識

人々は、特定の事象やパターンがある法則に従って発生していると過度に認識することがあります。これにより、代表性バイアスが生じ、ランダムな出来事を必然的なパターンとして誤解する可能性があります。

代表性バイアスに関連するもの

認知バイアス

今回の代表性バイアスは認知バイアスの一つです。
認知バイアスについては下記の記事をご参照ください。

二重プロセス理論

二重プロセス理論(Dual-Process Theory)は、心理学や神経科学、認知科学などの分野で使用される重要な概念の一つです。二重システム理論(Dual-System Theory)二過程論とも呼ばれるこの理論は、人間の思考や意思決定プロセスを説明し、理解するために提案されました。
二重システム理論は、通常、直感で判断する「システム1」と熟慮で判断する「システム2」と呼ばれる2つの異なる思考プロセスに焦点を当てています。
代表性バイアスは、二重プロセス理論でいう「システム1」による誤った判断により発生します。

二重プロセス理論については、下記の記事もご参照ください。

連言錯誤

連言錯誤とは、2つの事象が重なって起きることと単一の事象を比較したうえで、前者の確率が高いと判断してしまう錯誤を指します。つまり、先ほどの例題で「A子さんは病院の受付で働いており、通信制大学の受講を始めようと考えている」と解答してしまう錯誤です。

連言錯誤については、下記の記事もご参照ください。

参考

  • 植原亮『思考力改善ドリル: 批判的思考から科学的思考へ』勁草書房、2020年
  • ダニエル・カーネマン(著)、村井章子(翻訳)『ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか?』早川書房、2014年

1植原亮『思考力改善ドリル: 批判的思考から科学的思考へ』勁草書房、2020年、17頁。