権力と関心度のグリッド、権力と関与度のグリッド、影響度と関与度のグリッドとは何か?ステークホルダー・キューブについても解説
権力と関心度のグリッド、権力と関与度のグリッド、影響度と関与度のグリッドの概要
権力と関心度のグリッド、権力と関与度のグリッド、影響度と関与度のグリッドはPMBOKのステークホルダーの特定のプロセスで行われるステークホルダー分析のデータ表現の1つであり、権力・関心度・関与度から2つの指標を組み合わせ、4つの領域を持つ格子状のグラフを作成し、ステークホルダーを分類する手法です。
PMBOKでは、これらの手法は小規模プロジェクトや、ステークホルダーとプロジェクト間の関係が単純である場合に有効であるとしています[1]PMBOK第6版、512頁。。
権力と関心度のグリッドの使い方
権力と関心度のグリッド、権力と関与度のグリッド、影響度と関与度のグリッドの3つのデータ表現の中で、権力と関心度のグリッドが最もよく使用されます。
なぜなら、権力を持っているステークホルダーがプロジェクトに影響を与えやすく、関心度が高ければ、プロジェクトに影響を与える機会も増えます。
権力と関心度のグリッドを描くと、下の参考画像1のようになります。
ステークホルダーの中で、最も注意すべきなのは、権力もあり、関心度も高いステークホルダーです。多くの場合、組織の経営層がこのカテゴリーに属しています。
権力も強く、関心度も高いステークホルダーについては密に管理を行い、コミュニケーションを十分にとりながら、彼らの期待を裏切らないようにプロジェクトを進めていく必要があります。
関心度が高いものの、権力は高くないステークホルダーについては、プロジェクトの状況を公開したり、進捗を伝えたりすることでコミュニケーションをとっていきます。
これらのステークホルダーは、ビルを建てるプロジェクトの近隣住民のような存在です。近隣住民はそのプロジェクトに権力をもって影響を与えることはできませんが、ビル建設の進捗が気になりますし、何か気に入らないことがあれば、市長などの権力者に訴えてプロジェクトに影響を及ぼそうとしてきます。
もし近隣住民が情報を求めてきたら快く情報を開示するのがトラブルの少ないプロジェクト進行のコツですし、Webサイト上で進捗や状況を公開するのも一つの手です。
このように、関心度は高いものの、権力は強くないステークホルダーに対しては、プロジェクトの情報を提供し続け、不満から権力者と結びついてプロジェクトに影響を及ぼさないようにしていきます。
権力は高いものの、プロジェクトへの関心度が低いステークホルダーについては、今の状況に満足させ続け、プロジェクトに必要以上の関心をもってもらわないようにしていきます。
こうしたステークホルダーはプロジェクトのために招集された他部署のメンバーの上司のようなものです。より具体的には、広報部で進めているWebサイトリニューアルプロジェクトのために呼び出された営業部のメンバーの上司を想像すればよいのではないでしょうか。
その営業部の上司は、プロジェクトが上手くいっており、送り出した営業部の部下が聞かされていた作業範囲内で動いているのであれば何の文句もなく、プロジェクトに干渉してくることもありません。しかし、部下がプロジェクトにかかりっきりになってしまい、本来の業務が滞ってしまうと、権力をもってプロジェクトに介入していきます。
このような事態にならないために、権力が高く、関心が低いステークホルダーに対しては、プロジェクトの状態に満足させ続け、不要な介入を招かないようにしていかなければなりません。
権力が低く、関心度も低いステークホルダーに対しては、存在を認めつつも、積極的なアクションは起こさず、動向を監視し続けます。
これらのステークホルダーへの対応の優先順位は低くても問題ないですが、プロジェクトの状況によっては関心度が高くなり、不満があれば権力者と結びついてプロジェクトに影響を及ぼそうとします。
そのため、権力が低く、関心も低いとはいえ、無視することなく監視を続け、ステークホルダーの態度に変化がないかを確認していく必要があります。
ステークホルダー・キューブとは何か?
これまで見てきた権力と関心度のグリッド、権力と関与度のグリッド、影響度と関与度のグリッドでは、それぞれ2つの指標の高低によって表現されます。そのため、1つの図に2×2の4種類のステークホルダーの分類しか行えないことになります。
この点を改良したデータ表現の手法がステークホルダー・キューブであり、プロジェクトへの態度・権力・関心の3つの指標の高低の組み合わせでステークホルダーを分類しようとしています。
ステークホルダー・キューブでは、態度・権力・関心の高低でステークホルダーを分類するため、2×2×2の8種類のカテゴリーが生まれます。8種のステークホルダーの概要をまとめると、以下の通りです[2]Stakeholder Analysis – Spheres of Influence – Power, Attitude, Interest – BrightHub Project Management 。
- トリップワイヤー(Tripwire):弱い権力、低い関心、否定的な態度
- 時限爆弾(Time Bomb):強い権力、 低い関心、 否定的な態度
- 知り合い(Acquaintance): 弱い権力、低い関心、肯定的な態度
- 眠れる巨人(Sleeping Giant): 強い権力、低い関心、肯定的な態度
- 刺激物(Irritant): 弱い権力、高い関心、否定的な態度
- 妨害者(Saboteur): 強い権力、高い関心、否定的な態度
- 友達(Friend): 弱い権力、高い関心、肯定的な態度
- 救い主(Savior): 強い権力、高い関心、肯定的な態度
ステークホルダー・キューブでは、強い権力・高い関心・肯定的な態度を持つステークホルダーを「救い主」と呼び、望ましいステークホルダーの状態としています。
このステークホルダー・キューブで注意しなければならないのは、権力が強く、否定的な態度をとっているステークホルダーです。これに該当するのが、「時限爆弾」と「妨害者」です。
妨害者はプロジェクトに否定的な態度をとりながら強い関心も持ち、強い権力を使ってプロジェクトを妨害してきます。プロジェクト・マネジャーはこうした妨害者の関心をそらしたり、懐柔して態度を変えるように努める必要があります。
他方、時限爆弾は強い権力を持ち、否定的な態度をとりながらも、プロジェクトに関心をもっていません。
そのため、すぐにプロジェクトに悪影響を及ぼすものではないものの、何かの拍子にプロジェクトに関心をもってしまえば、たちまち妨害者へと姿を変えてしまいます。
そのため、時限爆弾が爆発しないよう、関心を持たないように対策するとともに、妨害者と同様に否定的な態度を変えるようにしていく必要があります。
なお、トリップワイヤーは聞きなれない言葉ですが、罠を仕掛けるときに使うワイヤーです。つまり、このワイヤーに引っかかってしまうと、罠が作動してしまいます。
トリップワイヤーはプロジェクトに否定的な態度をとっているものの、権力も弱く、プロジェクトに対する関心も低いステークホルダーです。そのため、すぐにプロジェクトに影響を与えるような存在ではありませんが、トリップワイヤーであるステークホルダーの不興を買ったため、権力者と結びついてプロジェクトを妨害してくる可能性もあります。
こうした性質から、罠の仕掛け線である「トリップワイヤー」という名称が付けられています。