不在情報の無視(オミッション・ネグレクト)とは何か?具体例を含めて解説
不在情報の無視(オミッション・ネグレクト)の概要
不在情報の無視(オミッション・ネグレクト, Omission neglect)とは言及されていない、または未知のオプション、代替案、特徴、特性、可能性、イベントなど、あらゆる種類の欠落情報に対して人が鈍感であることを指します。
人は、自分が知らないことについて考えることができないと、欠けている情報の重要性を過小評価します。
そのため、入手可能な証拠が弱い場合でも、人は強い意見を形成するようになります。
新しいスマートフォンの購入 ~不在情報の無視の具体例~
不在情報の無視の具体例として、新しいスマートフォン(スマホ)を購入する場面を考えていきましょう[1]マリア・コニコヴァ(著)、日暮雅通(訳)『シャーロック・ホームズの思考術』早川書房、2016年、156~159頁を参考に作成。。
いま、A社製のスマホを買うか、それともB社製のものを買うかで迷っているとします。その時、以下の情報をお店のスタッフから提示されたとします。
A社製 | B社製 | |
---|---|---|
Wi-Fi | 802.11 b/g | 802.11 b/g |
通話時間 | 12時間 | 16時間 |
連続待受時間 | 12.5日 | 14.5日 |
容量 | 16GB | 32GB |
価格 | 1万円 | 1万5千円 |
この「比較データ1」を与えられた状況では、どちらの会社のスマートフォンを選ぶでしょうか?
少し時間が経って、さらに店員から追加の情報を加えた形で、以下の「比較データ2」を提示されました。
A社製 | B社製 | |
---|---|---|
Wi-Fi | 802.11 b/g | 802.11 b/g |
通話時間 | 12時間 | 16時間 |
連続待受時間 | 12.5日 | 14.5日 |
容量 | 16GB | 32GB |
価格 | 1万円 | 1万5千円 |
重量 | 135g | 300g |
「比較データ2」では重量の情報が追加されています。この情報を得て、選ぶスマホは変わったでしょうか?
さらにこの後、店員から以下の「比較データ3」を提示されました。
A社製 | B社製 | |
---|---|---|
Wi-Fi | 802.11 b/g | 802.11 b/g |
通話時間 | 12時間 | 16時間 |
連続待受時間 | 12.5日 | 14.5日 |
容量 | 16GB | 32GB |
価格 | 1万円 | 1万5千円 |
重量 | 135g | 300g |
比吸収率 | 0.79 W/kg | 1.4 W/kg |
「比較データ3」では、比吸収率の情報が追加されています。比吸収率とは、触れている人体に吸収されるエネルギー量のことで、安全性の指標になっています[2]https://www.arib-emf.org/01denpa/denpa02-02.html。
スマホであれば、2.0 W/kgを超えていなければ問題はないとされています[3]https://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/ele/medical/system/。しかし、この比吸収率が示されたことにより、高い数値のB社製のスマホの購入を止めるという判断をする人もいるでしょう。
このように、人は与えられた情報によって判断を変えます。それは当然のことですが、不在情報の無視の問題は、人が与えられた情報の中だけで判断をする傾向があることです。
つまり、比較データ1を見た時と、比較データ3を見た時では、購入の意思決定は変化するのにもかかわらず、比較データ1だけしか提示されなくても、それ以上の情報は求めず、その情報の中で判断しようとします。
不在情報の無視はなぜ起こるのか?
不在情報の無視は意思決定の後悔につながります。
先ほどの例でいえば、「比較データ3」を持っていればA社製を買ったのに、知らなかったためにB社製のスマホを購入したという結果につながります。
ではなぜ不在情報の無視は起こるのでしょうか?その主な原因には以下の3つが挙げられます[4]https://psychology.iresearchnet.com/social-psychology/decision-making/omission-neglect/。
- 情報の欠落は注意を引かない
- 特定の要素に注目している
- 情報が提示されいている
不在情報の無視の第1の原因は、情報が欠けていても注意を引くことがないことです。
第 2 に、人々は多くの要素を比較するのではなく、特定の要素に焦点を当てることがよくあります。たとえば、先ほどのスマホの例でいえば、価格を重視した人も多いでしょう。このため、十分な情報が入手可能かどうかを判断することが困難になります。
第3に、情報が提示されているために、提示されていない情報について深く考えなくなります。
こうした不在情報の無視を回避するためには、意思決定の前に落ち着いて、さまざまな可能性を考えることが大切です。