二重プロセス理論とは何か?二重システム理論、二過程論とも呼ばれる意思決定プロセスを解説
二重プロセス理論の概要
二重プロセス理論(Dual-Process Theory)は、心理学や神経科学、認知科学などの分野で使用される重要な概念の一つです。二重システム理論(Dual-System Theory)や二過程論とも呼ばれるこの理論は、人間の思考や意思決定プロセスを説明し、理解するために提案されました。
二重システム理論は、通常、「システム1」と「システム2」と呼ばれる2つの異なる思考プロセスに焦点を当てています。
システム1
システム1は、自動的で直感的な思考プロセスを指します。直感システムと呼ばれることもあります。
このシステムは高速で効率的であり、情報の処理にほとんどの認知リソースを必要とせず、非常に速く反応します。システム1は、日常的な簡単なタスクや習慣的な行動、感情の反応などに関与します。
たとえば、何かをつかむ、自動車の運転中に信号で止まるなど、直感的な行動に関与します。
システム2
システム2は、より計算的で慎重な思考プロセスを指します。「熟慮システム」と呼ばれることもあります。
このシステムは遅く、認知的なリソースを多く必要とし、問題を分析し、複雑な課題を解決するために使用されます。システム2は、論理的思考、計算、新しい情報の評価、意思決定などに関与します。たとえば、数学の問題を解く、新しい仕事の選択をする、重要な意思決定を下すなど、より意識的な思考に関連しています。
システム1とシステム2の違い
システム1とシステム2の違いをまとめると以下のようになります。
特徴 | システム1 | システム2 |
---|---|---|
速度 | 非常に速い | 遅い |
意識度 | ほとんど無意識 | 意識的 |
自動性 | 自動的で無意識 | 意識的で計算的 |
認知リソースの使用 | ほとんど使用しない | 多くの認知リソースを必要とする |
直感的な判断 | 促進しやすい | 促進しにくい |
複雑な問題解決 | 不適切 | 適切 |
意思決定 | 感情に基づく決定が多い | 論理的、計算的な決定が多い |
知識の活用 | 過去の経験やスキーマに基づく | 新しい情報を評価し、分析する |
代表的なタスク例 | 自転車に乗る、リンゴを認識する、顔を認識する | 複雑な数学問題を解く、新しい仕事を選ぶ、意思決定 |
二重プロセス理論が注目される理由
二重プロセス理論は、行動経済学や心理学の研究、バイアスや誤った判断を理解するために広く使用されています。
たとえば、子どもの頃、友人とこのような遊びをしたことはないでしょうか。
Aさん「10回『ピザ』と言って」
Bさん「ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ」
Aさん「では、この部分は何ですか?」(肘を指さす)
Bさん「膝(ヒザ)!」
Aさん「残念!これは肘(ヒジ)です」
このように、「ピザ」と10回言った人が「肘(ヒジ)」を「膝(ヒザ)」と間違って答えてしまうのは、無意識の状態だとシステム1で物事を判断しているためです。
システム1は直感による判断であるため、心理操作やバイアスなどに簡単に騙されてしまいます。
このように、「人がなぜ判断を誤ったのか?」ということを理解するために、この二重プロセス理論が用いられます。
システム1に騙されないために
システム1の思考に騙されないためには、意識的にシステム2の熟慮をすることが大切です。
熟慮をする際は、批判的思考(クリティカル・シンキング)が役立ちます。批判的思考については、下記の記事もご参照ください。
また、私たちの身の回りにあるバイアスを知ることも、直感的な判断を踏みとどまる要因になります。
バイアスについては、下記の記事もご参照ください。
参考
- 植原亮『思考力改善ドリル: 批判的思考から科学的思考へ』勁草書房、2020年