根本的な帰属の誤りとは何か?ビル・ゲイツの話を例にして解説

2023年10月26日

根本的な帰属の誤りの概要

根本的な帰属の誤り(Fundamental attribution error)とは、人が他人の行動を判断する際に、個人の特徴を過度に強調し、状況要因を無視するという認知バイアスの一つで「基本的帰属錯誤」「基本的な帰属の錯誤」「基本的な帰属のエラー」とも呼ばれます。
これが転じて、観察対象の環境の一部である自分自身を省みない傾向に対しても、根本的な帰属の誤りを使って説明されることがあります。

この用語は、1967年のエドワード E. ジョーンズ(Edward E. Jones)ビクター・ハリス(Victor Harris)による実験から10年後、社会心理学者のリー・ロス(Lee David Ross)が名付けました。

ビル・ゲイツと根本的な帰属の誤り

ビル・ゲイツはなぜ成功したのか?

根本的な帰属の誤りを、ビル・ゲイツの話を例にして解説していきます[1]リチャード・E・ニスベット (著)、小野木明恵(訳)『世界で最も美しい問題解決法 … Continue reading

ビル・ゲイツの写真
ビル・ゲイツ(画像はWikipediaより)

ビル・ゲイツはマイクロソフトの創業者です。
19歳でハーバード大学を中退し、マイクロソフトを起業し、数年のうちに世界で最高の収益を上げる会社に成功させました。
アメリカの雑誌であるフォーブスの世界長者番付で、1994年から2006年まで13年連続の世界一となったことでも有名です。

では、なぜこのような成功をおさめることができたのでしょうか?

この質問に対して、多くの人は「ビル・ゲイツが世界でトップレベルに賢かったから」という解答をするでしょう。
ビル・ゲイツが賢かったのは確かでしょうが、もちろん成功の要因はそれだけではありません。

ビル・ゲイツとコンピュータ

ビル・ゲイツほど、若い時からコンピュータに接する機会があった人間はいなかったでしょう。それが1960年代であればなおさらです。

1964年に日本電信電話公社中央統計所へ導入されたIBM 7044
1964年に日本電信電話公社中央統計所へ導入されたIBM 7044
(画像はWikipediaより)

1968年に、ビル・ゲイツの両親は公立学校の授業に退屈していた彼を私立の学校に転校させます。
その学校では、当時としてはかなり貴重なメインフレーム・コンピュータに接続された端末があり、それを使うことができました。
メインフレームとは、主に企業など巨大な組織の基幹情報システムなどに使用される大型コンピュータを指す用語ですが、この高性能のメインフレームに接続した端末を、ビル・ゲイツは利用することができました。

そうした中で、地元のワシントン大学の近くにコンピュータ・センター・コーポレーション(CCC)という会社が設立され、ソフトウェア検査をする人員を募集していました。ビル・ゲイツはこの仕事を引き受け、ワシントン大学のコンピュータセンターで、夜間と週末にコンピュータを無料で使用できるようになり、自由にプログラミングをする時間をもらいました。
こうした経験の延長線で、ビル・ゲイツはマイクロソフトを創業しました。

ビル・ゲイツの環境のよさ

ビル・ゲイツと同じ経験をしたら、誰でも彼と同じように世界的なコンピュータソフトウェアを開発できたわけではありません。その成功にはビル・ゲイツの天性と努力も不可欠ですが、環境の良さも忘れてはいけません。

退屈しているビル・ゲイツを両親がそのままにしていたら、あるいは私立学校にコンピュータがなかったら、彼の人生、ひいては世界全体の姿が変わっていたかもしれません。

「ビル・ゲイツと他のプログラマーは何が違うのか?」と考えることもありますが、そもそも帰属している環境がビル・ゲイツと他のプログラマーと大きく異なり、比較にはなりません。それにもかかわらず、こうした環境については、何かを評価する際に見落とされがちです。それが根本的な帰属の誤りです。

根本的な帰属の誤りの発見

根本的な帰属の誤りは1967年のエドワード E. ジョーンズとビクター・ハリスの実験から生まれました。
ジョーンズとハリスは「人は自由に選択されたように見える行動を、体質・気質に起因すると考え、明らかに偶然に導かれた行動を、状況に起因すると考える」という仮説を立て、以下の実験をしました。

実験の内容
  • 実験対象者は、フィデル・カストロに関する賛成派と反対派の文章を読む
  • 実験対象者はカストロびいきの作者の態度を評価するよう依頼される

この実験の結果、実験対象者は、その作者が自身の思想に忠実にその文章を書いたと信じている場合、そのような文章を書くのは当然だと評価をしました。
つまり、カストロに対して肯定的な文章を書いた人は、カストロに対して肯定的な態度をとっていると評価し、逆に否定的な文章であれば否定的な態度をとっていると考えました。

しかし、ジョーンズとハリスの仮説に反して「文章の作者はコイントスでどちらの立場で書くかを決めた」と伝えられても、評価は変わりませんでした。
つまり、肯定的な文章を書いた作者はカストロに肯定的であり、否定的な文章であれば作者も否定的だと評価しました。

この実験から、実験対象者は作者が置かれた状況的制限の影響を考慮することができないことがわかりました。
この現象をリー・ロスが「根本的な帰属の誤り」と名付けました。

周りが見えていない

この根本的な帰属の誤りは「周囲の状況を考えず、自分主体で考えてしまう傾向」という意味でも使われます。
たとえば、車の運転中に割り込みをされたら、とても腹立たしく感じますが、自分が割り込みをしてもそれを正当化する傾向が人にはあります。
この例では、割り込みをした人にもそれなりの理由があったかもしれませんし、割り込みをした自分が他者に与える影響が考えられていません。

何かを判断する時には、周囲の状況にも気を配ることが大切です。

参考

書籍

  • リチャード・E・ニスベット (著)、小野木明恵(訳)『世界で最も美しい問題解決法 ―賢く生きるための行動経済学、正しく判断するための統計学』青土社、2017年

Webページ

  • https://en.wikipedia.org/wiki/Fundamental_attribution_error(2023年10月25日確認)
  • https://en.wikipedia.org/wiki/Lee_Ross(2023年10月25日確認)
  • https://ja.wikipedia.org/wiki/ビル・ゲイツ(2023年10月25日確認)
  • https://ja.wikipedia.org/wiki/メインフレーム(2023年10月25日確認)
  • https://online.hbs.edu/blog/post/the-fundamental-attribution-error(2023年10月25日確認)
  • https://wa3.i-3-i.info/word12562.html(2023年10月25日確認)

1リチャード・E・ニスベット (著)、小野木明恵(訳)『世界で最も美しい問題解決法 ―賢く生きるための行動経済学、正しく判断するための統計学』青土社、2017年、53頁。