自己認識(インサイト)とは何か?自己認識を阻害する要因、自身の内面を知る方法、自己認識力向上の方法などを解説

2023年1月17日

明確な自己認識(インサイト)が必要な現代

自己認識とは自分を明確に認識し、社会への適応度を理解する力で「自己認識力」と呼ばれることもあります。
この能力は年齢が上がるほど重要になり、高いほど幸福度も上がると言われています。しかし、自分自身を明確に理解することはとても難しいことです。

多くの人は自身のEQ(心の知能指数)が高いと信じ、他人の自己認識力不足には気づけても、自身の能力は疑いもしません。
また、能力の低い人ほど自分を素晴らしいと思い込む「ダニング=クルーガー効果」という傾向もあります。
現代は高度に発達し、何不自由ない社会のように見えますが、仕事や人間関係などの課題はどんどん複雑化しています。
このような現代だからこそ、思い込みを捨てて自分自身をより明確に知る必要があるのではないでしょうか?

今回は『insight―いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力』をもとに、自己認識を阻害する要因、自身の内面を知る方法、他者からどう見られているかを知る方法などを解説していきます[1] … Continue reading

自己認識を妨げる3つの盲点

前述のとおり、人は他人の自己認識力不足には気づくものの、自身の能力を省みるのは難しいことです。
では、何が自己認識を妨げているのでしょうか?
『insight』では、自己認識を妨げる障壁として、以下の3つの盲点を挙げています。

  • 認識の盲点
  • 感情の盲点
  • 行動の盲点

ここからは、これら3つの盲点を詳しく見ていきます。

認識の盲点

「平均以上効果」という言葉をご存知でしょうか?
これは「自分の能力が平均より高く、他者よりも優れている」と自己評価してしまう傾向のことです。
この傾向は、様々な経験を重ね、年齢と地位が高くなるほど強くなると言われています。
これは周囲に自分を批判する人間が少なくなり、仕事も複雑化して評価基準も成功の定義も曖昧になることから、認識が主観的になるためです。
これを「認識の盲点」と言います。
この盲点を防ぐには、該当する分野について学習し、自分の不足部分を認識することが大切です。
また、周囲に真実を伝えてくれる人を置き、フィードバックを求めることも認識の盲点を防ぐことにつながります。

感情の盲点

2つ目は「感情の盲点」です。
人は人生の幸福度を考えたときに、現時点での感情に振り回される傾向があります。
これは脳が最小限の労力しか使わないため、熟考しても直感に近い答えを出してしまうことからです。
感情の影響から免れることはできませんが、この盲点があると自覚するだけでもリスクを減らすことができます。

行動の盲点

3つ目は「行動の盲点」です。
自分の行動を客観的に見ることは難しく、自己評価と客観的評価は一致しないものです。
自分の行動の結果が望み通りでないとき、人はその原因を外部や環境のせいだと考えてしまいがちです。
行動の盲点を防ぐには、まず自分の価値観や前提を疑い軌道修正することです。
これを「ダブルループ学習」と呼びます。
行動する前にその結果を予測し、実際の結果と比較することで、差異とその要因を正確に知ることができます。

内的自己認識と外的自己認識

ここまでは自己認識を妨げる要因を見てきました。
様々な障害がありますが、その中でどのようにして自己認識を高めていけばよいのでしょうか?
自己認識を高める方法は大きく2つに分けられます。

1つは内的自己認識(内面的自己認識)を高める方法です。内的自己認識とは、自己を省みて、改善点を考える手法です。自分の価値観、情熱、願望、環境への適合、反応(思考、感情、態度、強み、弱みなど)、他者への影響力について、自身がいかに明確に捉えているかを振り返ります[2]リーダーに不可欠な「自己認識力」を高める3つの視点 | HBR.org翻訳リーダーシップ記事|DIAMOND … Continue reading

自己認識を高めるもう1つの方法は外的自己認識(外面的自己認識)です。外的自己認識では、他者が自分をどのように捉えているのかを考え、改善していきます。

ここからは内的自己認識と外的自己認識について解説していきます。

内的自己認識ツールを活用

内的自己認識を進める場合、ただ内省するだけでは、自己認識力が低下してしまう恐れがあります。
感情だけを振り返り、その妥当性や価値を検証しないとストレスや不安が強まり、誤った結果をもたらします。
大切なのは適切な方法で自分を見つめることです。

ここからは自分を見つめ直す際に使える内的自己認識ツールの紹介と、活用方法を解説していきます。

マインドフルネス

マインドフルネスのイメージ画像

自分を見つめ直す代表的な方法として「マインドフルネス」が挙げられます。
マインドフルネスとは、自分がどこにいて何をしているのかを認識し、周囲で起こっていることに過度に反応したり圧倒されたりせずに、完全に存在する人間の基本的な能力です[3]What is Mindfulness? – Mindful(2023年1月16日閲覧)
マインドフルネスでは心を落ち着かせ、瞑想します。

マインドフルネスはただリラクゼーションのために行うのではなく、自分の思考や感情を客観的に監視してください。
そうすることで主観的な感情に振り回されず、賢明な判断が可能になります。

ライフストーリー

2つ目の方法は「ライフストーリー」を書き記すことです。
これは自身の人生を振り返り、重要な段階で章立てしながら書いていくものです。
人生全体を見返すことで、自分の感情や価値観、教訓、人間性などを客観的に見つめることができます。

ソリューション・マイニング

3つ目の方法は「ソリューション・マイニング」です。
これは自身の問題や課題に対し、解決となる目標を立てて進捗を記録するものです。
問題を悲観的に捉え反芻思考するのではなく、自分の学びと成長の観点で見直すことで、具体的な行動に移すことができます。

外的自己認識を得るには

ここからは外的自己認識について解説していきます。
外的自己認識として、自分が他者からどう見られているかを知るには、人から意見や助言を聞くことが最も有効な手段です。
しかし、誰しも自分の欠点など聞きたくもないものですし、相手もお互いの関係に波が立つことを恐れていれば正直に話すことは難しいことです。
このように悪い情報を伝えることを避ける傾向を「MUM(マム)効果」と呼びますが、MUM効果のある中で正確なフィードバックを得るには、適切な相手を選ぶ必要があります。

適切な相手とは?

では、どのような相手を選べばよいのでしょうか?
自分がフィードバックを受けたい行動を長く目にしていることや、自分の理想像を理解していることが第1条件ですが、相手との関係性も重要です。
ただの批判者はもちろん避けるべきですが、親しい家族や友人だと関係が複雑化しているため、正確なフィードバックが難しくなります。
相応しい相手は、たとえば何年も一緒に仕事をしているが親しくない同僚など。
フィードバックを受けても関係性が変わらず、正直でいてくれる相手を選ぶことが理想的です。
頼む際にも、自身の成長と改善のためであり、どのような内容でも真摯に受け止めることを伝えましょう。
フィードバックのレベルは自分の一番嫌なところを尋ねるなどの簡単なものもありますが、自身の行動を一定期間観察してもらうことで、より具体的なフィードバックを受けることができます。

フィードバックを受けたら、まずは向き合う

予想外のフィードバックを受ければ当然痛みが伴い、なかなか素直に受け止めることは難しいと思います。
事前に心の準備も必要ですが、まずは自分の弱点を認めて自己肯定感を伸ばすことが大切です。
フィードバックを受けたからと言って、いきなり改善することは不可能です。
大事なことは、自分の欠点に気づけたということ。
自分の欠点が認められれば他者の欠点も許容できるようになり、人に対してオープンになれます。
また、欠点が分かれば、自分の課題に対する解決の糸口にもなります。
フィードバックをしてくれた相手に再度観察してもらうことで、今度は違う結果をもたらすかもしれません。

チームの自己認識力を高めるには

心理的安全性を高める

個人と同様にチーム内でも自己認識力を高めることは可能ですが、まずリーダーにその能力が備わっている必要があります。
リーダー自身がフィードバックを受けて、改善する意思があることを示さなければなりません。
そのためには、声を上げたメンバーが批判されたり罰せられたりしない「心理的安全性」が必要です。

この「心理的安全性」をチームに浸透させるポイントは、チーム内にルールを作ることです。
たとえば「陰口禁止」「意見は直接伝える」「感謝と思いやりの気持ちを持つ」「欠点を認め合い許し合う」などのルールを設ければ、チームに心理的安全性が形成されます。

会議にもルールを設ける

定期的にフィードバックの会議を開くことも有効ですが、ここでもいくつかルールが必要です。
たとえば「解釈や感情ではなく行動で指摘すること」「善意の意見として受け止めること」「受けた後に約束を1つ作ること」などのルールを用意しておけば、会議がより生産的になります。

これらを継続的に行うことで、チーム全体の自己認識力を高めるだけでなく、仕事においても問題提起や意見交換がしやすくなり、効率や成果も向上します。

さいごに

今回は『insight―いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力』をもとに、自己認識を阻害する要因、自身の内面を知る方法、他者からどう見られているかを知る方法などを解説してきました。

この本の著者であるターシャ・ユーリック(Tasha Eurich)は、組織心理学者という経歴を持ちつつ、幹部人材を育成する企業の経営者として、様々な企業のCEOやリーダーなどの自己認識力を向上させる支援をしてきました[4]Tasha Eurich: About(2023年1月16日閲覧)
自己認識はこれからのビジネスでも重要なキーワードになると予想されます。

1ターシャ・ユーリック(著)、中竹竜二(監修)、樋口武志(翻訳)『insight―いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力』英治出版、2019年。以下『insight』と略記。
2リーダーに不可欠な「自己認識力」を高める3つの視点 | HBR.org翻訳リーダーシップ記事|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー(2023年1月16日閲覧)
3What is Mindfulness? – Mindful(2023年1月16日閲覧)
4Tasha Eurich: About(2023年1月16日閲覧)