心理的安全性とは何か?『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』をもとに解説

2022年3月23日

知識とイノベーションが競争力の源泉となっている昨今のビジネスでは、「心理的安全性」が不可欠だとされています。
今回はエイミー・C・エドモンドソンの『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』をもとに、心理的安全性について解説していきます。

心理的安全性の概要

心理的安全性とは、組織の仲間が互いに信頼・尊敬し合い、率直に話ができるなど、対人関係のリスクを取っても安全だと信じられる環境を意味しています[1]エイミー・C・エドモンドソン … Continue reading
この心理的安全性は組織のチーム学習や創造性に影響を与えるものとされています。つまり、人は所属している組織に心理的安全性を感じていれば、チーム学習が促進され、創造的な仕事のパフォーマンスも高まると考えられています。

心理的安全性についてのよくある誤解

心理的安全性は近年注目されている用語であるものの、話題にする人が増えるにつれて、その概念が誤解される危険性が強まっていると『恐れのない組織』の著者・エイミー・C・エドモンソンは述べています[2]『恐れのない組織』40頁。
エイミーは心理的安全性についての代表的な誤解として、以下の4点を挙げています。

  • 心理的安全性は、感じよく振舞うこととは関係がない
  • 心理的安全性は、性格の問題ではない
  • 心理的安全性は、信頼の別名ではない
  • 心理的安全性は、目標達成基準を下げることではない

心理的安全性が「対人関係のリスクを取っても安全だと信じられる環境」であると言っても、それは感じよく振舞おうとして、周囲にあわせるということではありません。率直な意見を交わしあえる環境こそが、心理的安全性であると言えます。
こうした環境が築けるかどうかは、性格と関係していません。外交的であるか否かに関わらず、意見を述べられるような環境が心理的安全性です。
また、心理的安全性は信頼とイコールの関係にはありません。個人が特定の個人に対して信頼を寄せるのではなく、グループレベルで感じる心理的な安全を心理的安全性と呼びます。
そして、心理的安全性は目標達成基準を下げることでもありません。下記の画像のとおり、むしろ心理的安全性が保たれているのであれば、より高い目標や基準であったほうが学習やパフォーマンスが高いとされています。

心理的安全性と業界基準の関係性のイメージ
心理的安全性と業界基準の関係性のイメージ(『恐れのない組織』44頁より)

心理的安全性を測るための意識調査

エイミーは心理的安全性を測るための意識調査の項目として以下の7つを挙げています[3]『恐れのない組織』47頁。

  • このチームでミスをしたら、きまって咎められる。(R)
  • このチームでは、メンバーが困難や難題を提起することができる。
  • このチームの人々は、他と違っていることを認めない。(R)
  • このチームでは、安心してリスクを取ることができる。
  • このチームのメンバーには支援を求めにくい。(R)
  • このチームには、私の努力を踏みにじるような行動を故意にする人は誰もいない。
  • このチームのメンバーと仕事をするときには、私ならではのスキルと能力が高く評価され、活用されている。

たとえば、これらの項目を質問し「全く同意できない」「同意できない」「どちらともいえない」「同意できる」「非常に同意できる」の5段階で回答してもらうとします。通常は「全く同意できない」を最低の1点とし、「非常に同意できる」を最高の5点として回答結果を集計していきますが、(R)のついた質問項目は点数を逆転させて集計します。
つまり、「このチームでミスをしたら、きまって咎められる」に「非常に同意できる」という回答なのであれば、最高点の5点ではなく、最低点の1点を計上します。
この意識調査の点数が高ければ心理的安全性も高く、低ければ心理的安全性も低い環境であると言えます。

心理的安全性を高めるためのフレームワーク

心理的安全性は高いパフォーマンスを発揮するための土台と言われますが、心理的安全性を確立するにはどのようにすればよいのでしょうか?
エイミーは心理的安全性の確立を目指すリーダーに向けて、以下のフレームワークを用意しています[4]『恐れのない組織』197頁。

カテゴリー土台をつくる参加を求める生産的に対応する
リーダーの務め仕事をフレーミングする
目的を際立たせる
状況的謙虚さを示す
探究的な質問をする
仕組みとプロセスを確立する
感謝を表す
失敗を恥ずかしいものではないとする
明らかな違反に制裁措置をとる
成果期待と意味の共有発言が歓迎されるという確信絶え間ない学習への方向づけ

このフレームワークの中の「リーダーの務め」の行の内容を実践することにより、組織やチームの心理的安全性は高められます。
「土台をつくる」のカテゴリーの「リーダーの務め」である「仕事をフレーミングする」というのは、仕事に対する信念を確立することです。つまり、失敗や不確実性、相互依存を当たり前とし、率直な発言の必要性をリーダーは組織やチームの信念として確かなものにしていく必要があります。
「目的を際立たせる」というのは、チームや組織で掲げている目的がなぜ、誰にとって重要であるのかを意識させることです。「仕事をフレーミングする」「目的を際立たせる」が達成されれば、チームや組織の中で「期待と意味の共有」がなされます。

「参加を求める」のカテゴリーではリーダーは発言が歓迎されるという環境を形成するための行動が求められます。
「状況的謙虚さを示す」というのはリーダー自身が完璧でないことを認めることです。「リーダーが完璧である」という考えは、チーム・メンバーが発言を控えてしまう結果につながりがちです。そのため、リーダーは謙虚さを示して、チーム・メンバーに発言を促していきます。
同様に、リーダーは問題や状況、人について詳しく知っていくために探究的な質問をしていきます。この探究的な質問は、ただ単に質問をしていくだけでなく、相手の話に耳を傾ける「傾聴」の力も必要です。
そして、仕事の仕組みやプロセスを確立し、発言が歓迎される環境を整えていきます。

「生産的に対応する」のカテゴリーでは、リーダーはチームや組織のメンバーに対し、感謝を表し、失敗を恥ずかしいものではないと伝え、明らかな違反に制裁措置をとることで、発言が歓迎される環境を維持しつつ、絶え間ない学習への方向づけを行います。

1エイミー・C・エドモンドソン (著)、野津智子(訳)『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』英治出版、2021年、30頁。以下『恐れのない組織』と略記。
2『恐れのない組織』40頁。
3『恐れのない組織』47頁。
4『恐れのない組織』197頁。