解雇予告期間満了直前に、業務上の傷病の療養のため休業する場合、解雇日はいつになるか?
はじめに
解雇については「解雇制限期間」や「解雇予告」など、労働基準法上に様々なルールが定められています。
「解雇制限期間」や「解雇予告」については、下記の記事もご参照ください。
この記事では解雇予告期間満了直前に、業務上の傷病の療養のために休業した場合、解雇日はいつになるかについて解説していきます。
前提ルール1:解雇制限期間
労働者の生活が脅かされることになるのが明白な状況下での解雇は、労働者保護の観点から制限が加えられています。
以下の解雇制限期間中は労働者に非がある場合でも解雇はできません。
- ①労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のため休業する期間
- ②産前産後の女性労働者が産休の規程(労働基準法65 条)により休業する期間
- ③上記①および②の休業期間後30日間
前提ルール2:解雇予告と解雇予告手当
原則、会社側が労働者を解雇しようとする場合には、少なくとも30日前にその予告をしなければなりません。
30日前に予告をしない場合は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならないとされています。
解雇予告をしたのに、そのまま労働者を雇用し続けた場合は?
では、解雇予告をしたにもかかわらず、そのことをうっかり忘れていて、解雇予定日を過ぎてもその労働者を雇用したままにしてしまった場合はどうなるのでしょうか?
この場合は、解雇予定日を過ぎた時点で、同一条件での労働契約が継続されたものとみなされ、最初に行った解雇予告は無効となります。
その後、「やはり解雇したい」という場合は、再度改めて、解雇予告の手続き(解雇予告してから30日以上後に解雇か、平均賃金30日分以上の解雇予告手当の支払い)が必要になります。
解雇予告期間満了直前に、業務上の傷病の療養のために休業した場合はどうなるか?
それでは、解雇予告をした後、その予告期間が満了する前に労働者が業務上の傷病の療養のために休業した場合はどうなるのでしょうか?
例えば、解雇予告をした日から30日後の解雇予定日までの間に、解雇予定の労働者が仕事中、機械などに手を挟んでケガをしてしまい、しばらく仕事を休まなければならない、といったケースが考えられます。
この場合でも、前述の「解雇制限期間」のルールが適用され、解雇予告をしていたとしても、制限期間中は解雇できないことになります。すなわち、療養のために休業している期間と、回復してからの30日間は解雇することができません。
ただし、その休業期間が長期にわたるものでない限り、解雇予告の効力の発生がいったん中止されたにすぎないと解されます。すなわち、休業期間終了後や解雇予告期間満了後に、改めて解雇予告の手続きを踏まなくても解雇をすることができます。
例えば、1月1日に解雇予告を行い、30日後の1月31日を解雇予定日としていたが、1月30日から業務上の傷病の療養のために7日間休業したとします。
この場合、1月30日からの7日間+その後30日間の3月7日までは解雇できず、実際の解雇予定日は3月8日に延びることになります。
休業補償給付も受けることができる
業務上の傷病の療養のために休業した場合は、労災保険から休業補償給付金が支給されます。
休業補償給付は、賃金を受けない日の4日目から、1日につき平均賃金の60%が支給されます。
まとめ
最後に、今回の内容をまとめていきましょう。
- 解雇予告をしたにもかかわらず、解雇予定日を過ぎてもその労働者を雇用したままにした場合は、同一条件での労働契約が継続されたものとみなされ、解雇予告は無効となる。その後解雇しようとするときは、改めて解雇予告の手続きを踏む必要がある。
- 解雇予告をしたとしても、解雇予告期間(30日間)が満了する前に労働者が業務上の傷病の療養のために休業した場合、療養のために休業している期間と、回復してからの30日間は解雇することができなくなる。
- 「2」の場合、休業期間が長期にわたるものでない限り、解雇予告の効力の発生は中止されたにすぎないと解される。そのため上記「1」のケースとは異なり、休業期間終了後や、解雇予告期間満了後に、改めて解雇予告の手続きを踏む必要はない。
参考
書籍
- TAC社会保険労務士講座『みんなが欲しかった! 社労士の教科書 2023年度』TAC出版、2022年
Webページ
- 解雇制限|WEB労政時報(2023年2月15日閲覧)
- 解雇予告期間中の労災(2023年2月15日閲覧)