サービス残業を示す証拠品には何があるのか?割増賃金や残業についての仕組みと、会社の違法性を示し、有利に退職できるような証拠品について解説

2023年5月10日

はじめに

「ブラック企業を退職したけど、払ってもらっていないサービス残業代を取り戻したい!」という思いをお持ちの方は多いでしょう。
この記事では、割増賃金や残業についての仕組みと、会社の違法性を示し、有利に退職できるような証拠品について解説していきます。

残業(時間外労働・休日労働)とは

法定労働時間と法定休日

残業(時間外労働・休日労働)とは、法定労働時間を超えて働いたり、法定休日に勤務したりすることを指します。

  • 法定労働時間:原則、週40時間以内 1日8時間以内
    ※変形労働時間制やフレックスタイム制を採用している職場では、定められた期間で平均週40時間を超えないようにする必要があります。
  • 法定休日:週1日以上 または 4週間で4日以上

サービス残業は違法

サービス残業とは、本来払われるべき残業代が支払われることなく働かされた時間外労働や休日労働を指します。時間外労働・休日労働を行った場合、使用者は労働者に割増賃金を払わなければなりなせん。
すなわち、残業代の支払われないサービス残業は違法であるといえます。

残業代と割増賃金

ケース別割増賃金の割増率(原則)

残業や休日出勤、深夜勤務については、通常の賃金に以下の割増率を掛けた割増賃金が支払われなければなりません。

  • 時間外労働の場合:25%以上
  • 法定休日に働かせた場合:35%以上
  • 深夜労働の場合:25%以上

労働基準法における深夜とは、原則午後10時~午前5時を指します。ただし、地域や期間によっては午後11時~午前6時を深夜とされるケースもあります。

残業代の割増率は加算式

時間外労働が深夜に行われた場合は25%+25%で50%、法定休日に深夜労働をした場合は35%+25%で60%以上の割増率となります。

ただし例外として、法定休日に8時間を超えて労働したからといっても、それは時間外労働ではなく、あくまで休日労働としてカウントされます。
すなわち、「法定休日に10時間働いた」という場合、深夜労働ではない限り、35%以上の割増率で足ります。(時間外25%+法定休日35%で60%とはなりません)

残業時間が月60時間を超える場合の割増賃金

時間外労働が月60時間を超える場合は、上記の場合よりも更に割増率が高くなります。

  • 時間外労働の場合:50%以上
  • 時間外労働+深夜労働の場合:75%以上

割増率が50%を超える部分が発生する場合、割増率25~50%の部分については休暇に代替することも可能です。
ただしこの休暇は1日または半日の単位で、残業代60時間を超えた月から2カ月以内に与えられなければいけません。

元々は中小事業主には50%以上の割増率に対して猶予措置がありましたが、令和5年3月31日より廃止されました。

残業についての取り決めを行う「三六協定」

会社と従業員間の、残業についての取り決めは「三六協定」によって行われます。

三六協定の有無

使用者は「三六協定」を締結して、行政官庁に届け出た場合にのみ、法定時間外の労働や休日労働をさせることができます。
「三六協定」はその職場の労働者の過半数で組織する労働組合か、労働組合がない職場の場合は労働者過半数の代表者と書面で締結しなければなりません。

そもそも三六協定がなかったり、届出がされていなかったりする場合、時間外労働や休日労働をさせること自体が違法になります。

三六協定に定められた限度時間

三六協定には、残業させることができる「限度時間」を定めます。
この限度時間は原則1カ月につき45時間、1年につき360時間までとされています。

三六協定に定められた特別条項(臨時的な特別な事情がある場合)

想定外の業務量の大幅な増加などで、上記で定めた残業限度時間もオーバーしてしまう可能性がある場合、限度時間を超える残業について「特別条項」を定めることができます。

特別条項では、限度時間を含んで1カ月につき100時間まで、1年につき720時間までの範囲で残業や休日労働をさせることのできる時間を定めます。
ただし、この「特別条項」を定める場合、残業限度時間(1カ月につき45時間)を超える月数は年間6カ月以内にしなければいけません。また、限度時間をオーバーした月の残業時間と、その直前の1カ月~5カ月を平均した残業時間がそれぞれ80時間以内になるようにしなければなりません。

残業代未払いを示す証拠品を集める方法

三六協定で残業の上限を確認する

まずは会社と従業員の間で、残業についてどういった取り決めがされているのか「三六協定」を確認しておきましょう。

ただし、残業自体が三六協定によらない違法なものであったり、別の書面で会社と従業員の間で「割増賃金を支払いません」という申し合わせをしていたりしたとしても、残業中の割増賃金は支払わなければなりません。

時間外労働、休日労働の上限の規程に違反した使用者は、6カ月以内の懲役または30万円以内の罰金に処されます。

就業規則で法定休日と所定休日を確認する

休日には週1日の法定休日と、会社が独自で定めた所定休日があります。週休2日制の場合、どちらか1日だけが法定休日となります。

1日の所定労働時間が8時間で、土曜と日曜が所定休日の場合、土曜にのみ「休日出勤」をして日曜は休んでいた場合は、1週間の法定労働時間(40時間)を超えるものの、1週間に1日の法定休日は確保されているため、時間外労働としてカウントされ、割増率は25%とされます(休日出勤の35%は適用されません)

三六協定や就業規則は会社のどこにある?

使用者には三六協定や就業規則の周知が義務づけられています。
具体的には、以下いずれかの方法で、従業員の誰でもいつでも確認できるようにしておかなければいけません。

  • 職場内の見やすい場所に掲示するか、備え付ける
  • 従業員に書面で配布するか、サーバ上などでいつでも見れる状態のデータで公開する

この周知義務を怠った場合にも罰則は適用されます。
一般的にはすぐに罰金とはならず、まずは労働基準監督署から指導を受けることになりますが、悪質な場合は30万円以下の罰金が科されることもあります。

タイムカード(打刻の履歴)を保管する

タイムカードや勤怠システムで打刻を行っている場合は、履歴が確実な残業の証拠品となります。
「残業や深夜労働と割増賃金の関係」で述べた通り、

  • 月の残業時間が60時間を超えているか?
    ※中小企業の場合は60時間を超えているのが、令和5年3月31日以降か?
  • 深夜の時間帯(原則午後10時~午前5時)に残業を行ったか?
  • 法定休日に出勤していたか?

という点で、残業代の割増率が異なってくるため、「いつ・どれだけ残業したか?」が分かるデータがあれば適切な残業代を算出できます。

その他、残業を示す証拠品を集める

外勤をしていたり、勤怠打刻後に仕事を続けていたり、「タイムカードを打刻できる状況でなかったが、確かに残業が発生していた」といえる場合も多いでしょう。
タイムカードがなくても、この時間に仕事をしていたという証拠品があれば残業を立証することが可能です。

パソコン画面のスクリーンショット

業務中である様子が分かる画面と、時刻が写っている必要があります。

メールや書類

「上司から残業を指示された」「取引先とのメールのやり取りが業務時間外まで続いた」といったことが分かる証拠です。メールでなくても、メモ書きや書類などで指示と時刻が分かると証拠になります。

領収書

「終電がなくなったのでタクシーで帰宅した際の領収書」「業務時間外だが、業務に必要なものの買い付けをおこなった際の領収書」など日時が明記されている領収書が証拠品として有効です。

パソコンのログイン・ログアウト情報

Windows PCの場合、イベントビューアーよりログイン・ログアウトの履歴を確認することができます。

どこに通報する?厚生労働省や労働基準監督署

職場に労働基準法等の違反がある場合、労働者は行政官庁や労働基準監督署に申告をすることができます。
厚生労働省の以下のページでは、メールでの窓口を設けています。

申告があった職場においては、労働基準監督官による立ち入り調査が行われることがあります。
また会社側は、申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇やその他不利益な取り扱いをしてはならず、これに違反した場合は6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

残業代の請求はいつまで可能?

未払い残業代の請求は、3年までしかさかのぼることができません。
なるべく早めに準備をしておくことをオススメします。

参考

  • https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf(2023年5月9日)
  • https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/index.html(2023年5月9日)
  • https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000078427.pdf(2023年5月9日)