水平思考(ラテラルシンキング)とは何か?垂直思考との違いや、トレーニング方法を解説
水平思考(ラテラルシンキング)とは
水平思考(ラテラルシンキング)とは、一つひとつ段階を踏まない思考プロセスを通して、あるいは異なる角度から状況を捉えることによって、問題の答えを得たり、新しいアイデアを生み出したりする思考法のことです[1]エドワード・デボノ(著)、 藤島みさ子(訳)『水平思考の世界』きこ書房、2015年、4頁。。
水平思考は医師であり、心理学者であったエドワード・デボノ(Edward Charles Francis Publius de Bono)が生み出した用語です。
問題解決のために使われることが多い水平思考ですが、エドワード自身は「水平思考は、問題を解決することにのみ関するものではない。物事の新しい見方や、あらゆる種類の新しい発想に関わりを持つのが水平思考である」と述べています[2]前掲『水平思考の世界』、22頁。。
アイデアというものは、専門知識や技術が高いだけで生まれるものではありません。そのため、アイデアの誕生は運次第と考える人もいます。
しかし、世の中にはアイデアを量産し、次々に実現していく人もいます。トーマス・エジソンのように、次々とアイデアを出せるようなアプローチを模索して、エドワードがたどり着いた手法が水平思考です。
水平思考と垂直思考との違い
「水平思考」という言葉は、「垂直思考」と対比させるために名付けられました。垂直思考とは、いわゆる「論理的思考(ロジカルシンキング)」のことを指しています。
垂直思考では、扱っているテーマや問題を論理展開しながら深掘りしていき、解答を得ようとします。
たとえば、地中に埋まっている宝物を探し出そうとする時、1点を深く掘っていけば宝物にたどり着くというのが垂直思考なのに対し、水平思考では、いろいろな箇所に穴をあけて宝物を探し出そうとします。
その他、水平思考と垂直思考の違いをまとめると、以下のようになります[3]木村尚義『ずるい考え方 ゼロから始めるラテラルシンキング入門』あさ出版、2011年、25頁。以下『ずるい考え方』と略記。。
水平思考 | 垂直思考 | |
---|---|---|
目的 | 思考の幅を広げる | 筋道を立てて、論理的に解答を導き出す |
解答 | 複数あると考える | 1つしかないと考える |
考え方 | 自由に発想する 直感を大切にする 枠組みにとらわれない | 常識的・経験的に発想する 論理を重視する 既存の枠組みに当てはめる |
水平思考の4つの原則
水平思考の生みの親であるエドワード・デボノは、水平思考の4つの原則として、以下の4点を挙げています。
- 支配的なアイデアを認識すること
- さまざまなものの見方を探し求めること
- 垂直思考の強い支配から抜け出すこと
- 偶然の機会を活用すること
水平思考に必要な3つの力
先ほどの水平思考の4つの原則を、やさしく言い換えたものが『ずるい考え方』で紹介されている3つの力です。
『ずるい考え方』では、水平思考に必要なのは「疑う力」、「抽象化する力」、「セレンディピティ」の3つだとしています[4]前掲『ずるい考え方』50~73頁。。
ここからはその3つの力を紹介していきます。
疑う力
疑う力とは、固定観念や常識を打ち破る力です。まずはあらゆることを疑ってみることが大切です。
「であるべき」「であるはず」という先入観に対して、「なぜ」を投げかけることで今までに無かった見え方が見つかることがあります。
この力を培うには、さまざまな人と交流することが有効です。
異業種や世代の違う人だけでなく、文化圏が違う人と話をすることで自分にとっての常識が相手にとっての非常識であることに気づけます。
抽象化する力
抽象化とは、物事の重要な要素を本質として抜き出すことです。
たとえば鉛筆の本質は書くことですが、ペンでも代用でき、炭や石でも書くことはできます。
このように抽象化は本質を見抜き発想を広げることができるため、とても有用な思考法の1つです。
本質を見抜くには、物事をさまざまな角度から見ることが大切です。
新聞は情報を得るための媒体ですが、包装、敷物、火種、資源など活用方法がたくさんあります。
このように、日頃から物事に対しての活用方法を考えるだけでも抽象化の力を身につけることができます。
セレンディピティ
セレンディピティとは、「何かを探しているときに偶然出会った物事から別の価値を見つける力」です。
つまり、偶然をそのまま放っておかずに、何かに関連付ける力と言えます。
たとえば、ワインは飲み水の代わりとしていたブドウの果汁が発酵してしまった偶然から生まれました。
また、カイロは菓子に入れる脱酸素剤から生まれました。失敗によって脱酸素剤が発熱してしまい、その偶然をきっかけに新たな商品として開発されたものです。
このように価値を見つけるには、偶然に対して何か応用できないかと考える思考が必要です。
そのためにも普段から感性を磨き、何事にもインスピレーションが浮かぶような癖を身につけることが大切です。
水平思考のヒント
他にも、水平思考のヒントとなる考え方や捉え方があります。
『ずるい考え方』の中で紹介されている具体例を交えながら解説していきます。
異質なもの同士を組み合わせる
全く別のもの同士を組み合わせて新しいものを作り出す考え方です。
たとえば、紙で包んで売っていたソーセージが熱くて持てないことから、パンに挟むというアイデアとしてホットドッグが生まれました。
アイスクリームも元々は容器に入れて売られていましたが、容器不足を解消するためにコーンに乗せて売られるようになったとの説があります。
この組み合わせを発見するには、組み合わせできる材料をできるだけストックし、それぞれが持つ本質を見逃さない力が大切です。
無駄なものを捨てない
目的にそぐわない無駄なものに目を向ける考え方です。
たとえばさっぽろ雪まつりは、雪の集積所となっていた大通公園から始まりました。
邪魔にならないように広い場所に集めていただけですが、この雪から中高生が雪像を作ったことがきっかけでまつりが始まりました。
また、現在の太平洋セメントの創業者である浅野総一郎氏は、農家が捨てていたタケノコの皮を買い取って菓子や寿司の包装紙として販売していたとのことです。
このように、誰も見向きもしないようなものに価値を見出す考え方です。
一部の人にとって不必要なものでも、それ以外の人にとってはお金を払ってでも手に入れたいものかもしれません。
捨ててしまっているものでも本当に価値がないのかを疑うことで、新たな価値を見つけるヒントになります。
マイナスをプラスに変える
マイナスである要素をポジティブに言い換えてメリットとする考え方です。
阪急電鉄の創始者である小林一三氏は、沿線上の人が少ない辺鄙な土地に人を集めるために、「都心から離れて静か」「環境の良い土地」として売り出しました。
当時は工業が発展途上で、工場の煙などが社会問題となっていたため、この戦略は成功しました。
また、2007年に財政破綻した夕張市は、財政破綻した経緯と施設案内を含めた企画を打ち出しました。
反面教師として学習の要素を加えたこの企画は成功し、修学旅行や視察などに活用されているとのことです。
この欠点を長所と捉える考え方は、ビジネスにおいてとても役に立つ考え方です。
大切なのは見方や捉え方を変えることであり、欠点であってもそれを活かして価値に変えることができます。
普段の生活から物事をポジティブに捉える訓練をすることで、この力を向上させることができます。
水平思考のトレーニング ~創造力を高めるゲーム~
ここからは、『ラテラル・シンキング入門 発想を水平に広げる』を参考に、水平思考のトレーニング方法を紹介していきます[5]ポール・スローン『ラテラル・シンキング入門 … Continue reading。
ブレインストーミング
ブレインストーミング(Brainstorm)は最も身近にある水平思考のトレーニングです。
ブレインストーミングでは、自由な発想で意見を出し合い、新しいアイデアを生み出します。
ブレインストーミングについては、下記の記事もご参照ください。
水平思考クイズ
水平思考クイズとは、『ラテラル・シンキング入門』の著者であるポール・スローンの「ウミガメのスープ」に代表されるクイズです。
「ある男がスープを一口飲み、シェフにそれがウミガメのスープだと確認すると、帰宅後自殺してしまった。なぜだろうか?」というようなクイズが出題されます。
これに回答者は「はい/いいえ」で答えられる質問を出題者に投げかけ、真実を明らかにしていきます。
この水平思考クイズについては、下記の記事もご参照ください。
シックスハット思考法(6つの帽子思考法)
シックスハット思考法(6つの帽子思考法)とは、「水平思考」の生みの親であるエドワード・デボノが提唱した思考法です。
彼は、人間の一般的な性格を6つの帽子に当てはめました。6つの帽子にはそれぞれに色があり、その色のイメージに合った性格が当てはめられています。
たとえば、青い帽子は「冷静」、赤い帽子は「主観的」、黄色い帽子は「楽観的」といったものです。
シックスハット思考法については、下記の記事もご参照ください。