ピーターの法則とは何か?その影響と発生のメカニズム、対処法を解説

2022年11月7日

ピーターの法則とは

ピーターの法則は、アメリカの教育学者ローレンス・J・ピーターが提唱した「人材の無能化」に関する法則であり「あらゆる人材は昇進により能力の限界に達すると無能化する」という説です。

たとえば、優秀な能力を評価され上の役職へ昇進した人材が、昇進後の役職で任される仕事がこれまでの仕事と異なる場合、かつての能力が通用せず以前のような活躍ができなくなり、その役職での成果を発揮できないまま「無能化」してしまうというものです。

ピーターの法則は組織のあらゆる役職で起こりうるものであり、最終的に全ての役職はこのような「無能化した人材」で溢れてしまうと指摘されています。

ローレンス・J・ピーターの写真
ローレンス・J・ピーター(写真はWikiより)

ピーターの法則が組織に及ぼす影響

ピーターの法則の悪影響のイメージ

ピーターの法則が示す無能化のプロセスはあらゆる組織で現実に発生しており、組織運営に関わる人を悩ませる大きな課題となっています。
ピーターの法則が発生することで昇進した人材の能力を阻害してしまうことだけでなく、様々な問題を組織にもたらします。

生産性が低下し、業績が低迷する

ピーターの法則として謳われているものが「ある仕事で有能な人材が、別の仕事でも有能とは限らない」という点です。

たとえば、優れた営業成績を上げる人材が、マネージャーとして部下をまとめることも優れているとは限りません。
担当として売上を作る能力と、部下をまとめてチームとして成果を上げる能力は異なります。それにもかかわらず、チームを統率する能力のない人材を、売上の評価だけでマネージャーに昇進させてしまうと、マネージャーとしての役割を全うできず、「無能化」してしまいます。

その結果、成果を上げることができないチームが生まれ、生産性の低下と業績の低迷を招いてしまいます。

人事評価が機能しなくなる

無能な人材が発生するプロセスを繰り返すことで、次第に組織の重要な役職を「無能化」した人材が占めることになります。

これにより正しく部下を評価できない人材により昇進人事が決められるようになり、無能な管理職が無能な管理職を生むといった悪循環が発生します。

この悪循環が繰り返されることで結果として人事評価制度が正しく機能しなくなります。

人材流出に繋がるリスク

創造的無能

ピーターは組織において有能な人材が有能であり続けるための方法として「創造的無能」になることを提唱しています。

「創造的無能」とは、簡単に言えば昇進しないように実力をセーブしながら仕事を行うことです。
昇進すると、経営者から求められる基準も上がります。その結果、これまでと同じ成果では十分に評価されない状況が予想されます。
そのため、昇進して評価が下がるのであれば、昇進せずに現在の成果で評価されようというのが創造的無能です。

創造的無能は一見すると「無能化」に対する対策として優れているようにも思えますが、本来の実力を評価されないストレスが生じてしまうため現実的であるとは言えません。

昇進をさけようとした結果、昇給の機会も失うことで仕事へのモチベーションが低下し「人材の流出」に繋がる恐れもあります。

有能な若手人材のモチベーション低下を招く

組織における重要な役職が「無能化」した人材で埋まることは、若手人材の活躍の場が奪われることでもあります。

また、「無能化」した管理職は若手人材にとって悪影響でしかなく、このような状態が続くことで組織を支えている若い世代のモチベーションまで下げてしまうことで組織にとって危機的な状況をもたらす要因となってしまいます。

組織内でピーターの法則が発生するメカニズム

ピーターの法則が発生するメカニズム

組織に無能な管理職が発生する理由

ここからは、組織に無能な管理職が発生するメカニズムを考えていきましょう。

たとえば、現在携わっている役職において有能と評価されたAさんが上位の役職に昇進したとします。しかし、昇進後の役職においてAさんに必要な職務遂行能力がなかった場合はどうなるでしょうか?

Aさんは与えられた役職で成果を上げられないため、それ以上昇格することがありません。その結果、無能化した状態でその役職を維持することになります。

このAさんと同じ事例が複数発生することにより、組織全体が徐々に無能化していきます。

降格など役職の固定化を防ぐ仕組みがない

昇進により「無能化」した人材に対して、不適格な役職者を降格する制度が整っていない組織は無能な管理職が無能な管理職を生むという悪循環を防げられません。

日本の企業では降格に関する制度が明確化されていない傾向にあると言われており、一度昇進してしまえばよほどのことがない限りその役職に留まることになります。

役職に求める能力が明確化されていない

評価制度や昇進基準が誤っていたり、曖昧であったりすることが無能な管理職が発生する原因となるケースも多く見られます。

経営者がその役職にどのような能力が求められるのかを定めておかなければ、上司は部下を正当に評価できません。

評価制度や昇進基準が定まっていないことにより「現在の役職で優秀な人材は、上位の役職においても優秀であり続けるだろう」といった思い込みにより昇進が決定されてしまいます。
その結果、その役職にはふさわしくない人材が昇進し、無能化してしまいます。

ピーターの法則を防ぐ対策

階層別の研修を充実させる

ピーターの法則を防ぐには、従事する役職が果たすべき役割を明確にし、研修など、そのために必要となるスキルを身に付ける機会を用意します。

自分に足りていないスキルを自覚してもらい、ギャップを埋めるための支援を継続して行うことで、人材の無能化を防ぐことができます。

降格や離任の条件を明確に決める

役職に求められるスキルが明確であり、それに達していない、もしくは今後も達成する見込みがない場合は、従業員の今後のためにも降格や離任の条件を明確にしておくことも重要です。

降格はマイナスなイメージが付きやすいものとはなりますが、無能化した人材を降格し元の立場に戻すことで、再び有能な人材とすることができる場合は、その降格は本人のキャリアに対しても良い影響を与えるはずです。

多様なキャリアを用意する

管理職以外のキャリアパスを用意することも、ピーターの法則を防ぐ手段です。

今日、多くの企業では「昇格=管理職」となっています。
しかし、必ずしも「昇格=管理職」である必要はなく、専門的な技術職といったスペシャリストとして活躍できるキャリアが用意されていれば、現在の役割で成果を上げている人材を無理して管理職にする必要はなくなります。
また、自身が得意とする分野で力が発揮できる環境があれば、仕事へのモチベーションの低下を防ぐことにも繋がります。

多様な働き方が求められる時代の中で、キャリアの多様性を確保することも組織運営には重要です。

参考