フロネシスとは何か?フロネティック・リーダーとなって組織のモチベーションを高める方法を本田宗一郎を例に解説

2021年11月22日

フロネティック・リーダーとは何か?

最近では組織をまとめ上げ、モチベーションを維持していくことのできるリーダーとして、「フロネティック・リーダー」が注目をあつめています。

「フロネティック」という言葉は耳慣れない言葉ですが、古代ギリシアの哲学者アリストテレスが分類した「3つの知」の内のひとつである「フロネシス」から来ています。

フロネシスとは何か?

では、フロネシスとは何なのでしょうか?
アリストテレスが示した3つの知とは以下の通りです。

  1. エピステーメ(学問的知識)
  2. テクネ(科学的知識)
  3. フロネシス(実践的知識)

学問的知識を意味するエピステーメや科学的知識を表すテクネが割と理解しやすい言葉なのに対し、フロネシスはやや定義があいまいで理解しづらい部分があるかもしれません。
フロネシスというのは、英語に訳すと賢慮(prudence)や実践的知恵(practical wisdom)とも言われますが、これは広く中庸を守る特性を意味します。
学問・科学的知識、実践的知識のどちらか一方に偏るのではなく、状況に応じて臨機応変に判断することができ、それをもとに賢く行動できるリーダーが現在の組織には必要だと考えられているのです。

フロネティック・リーダーが備える6つの要件

フロネティック・リーダーには、備えるべき6つの要件があります。

  1. 善い目的をつくる
  2. 現実を直観する
  3. 場をつくる
  4. 本質を物語る
  5. 物語を実現する
  6. 実践知を組織する

それでは解説していきましょう。

1つ目の「善い目的をつくる」ですが、リーダーは組織の存在価値と目的の追求にこだわり、何をもって善しとするのか、という「あるべき姿」を語らなければいけません。
経営学でも「ビジョンが大切」と言われて久しいですが、同様の内容を述べています。

2つ目は、「ありのままの現実を見据える能力」です。リーダーは、絶えず現場で状況を観察し、物事の本質を見抜く必要があります。現場に立っていない者をリーダーとは呼べません。

3つ目は必要とされる場をつくり、「共感を育む能力」を意味します。この能力は、上司と部下との間に必要な信頼関係を育む際に必要です。

4つ目の「直観の本質を物語る」は、現場で得た本質を誰よりも理解でき、共感できる物語を紡ぐことができる能力です。これにより団結力が高められ、5つ目の「実現する能力」によって具体的な形にしていくことができます。

そして最後の6つ目は、時間と場所を超えて世界の現実と共鳴する「自律分散型組織を育てる能力」の必要性を説いています。

フロネティック・リーダーを目指すための7つの評価項目

実際にフロネティック・リーダーを目指すためには、どのような点に気を付ければよいのでしょうか。
ここでは、フロネティック・リーダーを目指すための評価項目をお伝えします。
この7つの評価項目に沿って定期的に行動を修正していけば、おのずとフロネティック・リーダーに近づけるような指標となっています。

  1. 全体性:組織の縦と横の関係性を自ら強化し、全体戦略に有効な提言ができる
  2. 計画力:中長期的な行動設計を描くことができ、協力者との連携をデザインできる
  3. 実行力:必要なToDoを発見し、期待以上の成果を出すことができる
  4. スケジュール管理能力:スケジュールを設計し、目標達成と自己革新が両立できる
  5. 意思決定力:状況変化に柔軟に対応し、的確な優先順位付けを、リーダーシップを持って行うことができる
  6. 説明・コミュニケーション:協力者と長期的な信頼関係を醸成してより強い協力を獲得し、全体の効率化をはかることができる
  7. コラボレーション力:問題解決に最適なコラボレーションの場を自ら創ることができる

7つの評価項目は「自身」「他者」「タスク」の3つの視点から見て、漏れなく必要な項目がまとめられています。業務やプロジェクトに取り組む際は、この項目を定期的にチェックしながら進めていくことをおすすめします。

本田宗一郎のフロネシス

本田宗一郎について

これまではフロネシスを持ったフロネティック・リーダーとは何なのかを解説してきました。
最後にフロネティック・リーダーの具体例を見るために『日本の企業家 7 本田宗一郎 夢を追い続けた知的バーバリアン』で論じられている本田宗一郎のフロネシスをご紹介していきます。

本田宗一郎の写真(Wikiより)
本田宗一郎の写真(Wikiより)

本田宗一郎については、多くを語るまでもないかと思います。バイクで有名な本田技研工業(以下、ホンダ)の創業者であり、日本の戦後経済をけん引した経営者でもあります。
経営学者の野中郁次郎先生は、『日本の企業家 7 本田宗一郎 夢を追い続けた知的バーバリアン』で本田宗一郎のフロネシスを分析しています[1]野中郁次郎『日本の企業家 7 本田宗一郎 夢を追い続けた知的バーバリアン』PHP研究所、2017年、138~181頁。
その内容を抜粋し、まとめたものが以下の表です。

善い目的をつくる「つくる喜び、売る喜び、買う喜び」という三つの喜びという目的を提示
現実を直観する「現場・現物・現実」の三現主義を徹底
場をつくる場をつくるジョークの達人であり、他人の気持ちがわかる人間
本質を物語る直感をイラストで表現できる
物語を実現する強制力と親和力が一体になった人
実践知を組織する経験を通じて、生きた知恵を身につけるように指導

本田宗一郎といえば、実際のホンダの経営はパートナーであった藤沢武夫が担っており、本田宗一郎自身は会社のハンコのありかも知らなかったという逸話もあります。
しかし、ホンダには本田宗一郎という人物がいなければならかったと言われるのは、上記のフロネシスを本田宗一郎が持っていたからにほかなりません。
本田宗一郎は会社の目的を定め、現場にこだわり、社員から「オヤジ」と呼ばれて親しまれたジョークの達人であり、時には手がでながらも、人を熱心に指導し、「やってみたのか!?」と激しく社員を叱責するほど、生きた知恵にこだわった人物でした。
こうした本田宗一郎のフロネシスなくして、世界のホンダはなかったと言えるでしょう。

まとめ

今回はフロネティック・リーダーとはどのようなものか、そして自身がフロネティック・リーダーとなるには、どのような点に気を付ければよいのかをお伝えしました。
フロネシスが持つ中庸という特性は、「能力そのもの」というよりは、そのリーダーが持つある種の「人格的特性」と考えた方が適切です。
昨今の組織においては、机上の空論になりがちな「学問的知識」「科学的知識」といった能力よりも、現場で士気を高めて部下を導く「実践的知識」の方が希少性が高く、評価されます。
まずは7つの評価項目に沿って、自身の行動を見つめ直すことからはじめましょう。

1野中郁次郎『日本の企業家 7 本田宗一郎 夢を追い続けた知的バーバリアン』PHP研究所、2017年、138~181頁。