メンタル・モデルとは何か?「学習する組織」や「UI/UX」の場面での使われ方を解説
メンタル・モデルとは?
メンタル・モデル(mental model)とは、誰もが無自覚に持っている固定観念や思い込みのことです。
メンタル・モデルは、個人の過去の経験や学習、育った環境や文化などから形成され、人はその形成されたメンタル・モデルを前提として物事の状況を判断したり、行動したりします。
そのため、同じ状況下に複数の人間がいたとしても、メンタル・モデルが異なるため、状況の受け止め方が変わってきます。
メンタル・モデルは元々認知科学における用語でしたが、1983年に2つの著作が出版されて以降、様々な分野で取り上げられるようになりました。
その2つの著作の内の1つがフィリップ・ジョンソン=レアードの"Mental Models"です。
そしてもう1冊がデドレ・ゲントナーとアルバート・スティーブンスの共著である"MENTAL MODELS"です。
今日、メンタル・モデルのアイデアは認知科学に留まらず、ビジネス分野やUI(ユーザーインターフェース)/UX(ユーザーエクスペリエンス)デザイン分野などにも応用されるようになりました。
ビジネスに役立つメンタル・モデル
「学習する組織」のディシプリンの1つ
ビジネス分野におけるメンタル・モデルの活用は広がっています。とくに変化に柔軟に対応できる「学習する組織」を作ろうとする時に、メンタル・モデルは重要な要素になります。
「学習する組織」を提唱している経営学者のピーター・センゲは、著書『学習する組織』の中でメンタル・モデルを「学習する組織」の5つのディシプリンの1つとして紹介しています[1]ピーター・M・センゲ(著)、枝廣淳子・小田 理一郎・中小路 … Continue reading。
メンタル・モデルは「学習する組織」にとって好ましい影響を与えるわけではありません。「私たちの顧客はこのような行動をとるだろう」というメンタル・モデルを持っていると、組織は状況の把握を誤ったり、それ以上の調査をしなくなったりします。
そのため、メンタル・モデルに上手く対処し、組織の学習を促さなければなりません。
メンタル・モデルへの対処法
メンタル・モデルへの対処法には、以下の3つが挙げられます。
- 振り返りを促す
- 日常的な実践を根付かせる
- 探求と考え方の問い直しを奨励する
たとえば会社の業務であれば、日々の業務の内容を定期的に振り返り、自分たちの認識と現実に乖離が生まれていないかを確認します。現状への対処法を考えた後は、必要なスキルを習得できるように日常的にスキルの実践を促します。
そして、いわゆるPDCAサイクルのように、定期的に現状の調査や、対処法が効果的であったかを問い直し、改善を続けます。
このような習慣や文化が備わることが学習する組織の形成には不可欠です。
UI/UXデザインに役立つメンタル・モデル
メンタル・モデルを考えUI/UXに活用する
UI/UXの分野でもメンタル・モデルは取り上げられています。
UIデザインにおいては重視されるのはユーザーが使いやすいかどうかです。ユーザーは過去に利用してきた製品やサービスの経験を元にして無意識にメンタル・モデルを形成します。
そこでUIデザインにメンタル・モデルを活用すると、ユーザーは直感的に製品を操作したりサービスにアクセスすることができます。
一方、UIデザインがユーザーのメンタル・モデルとは異なるものになると、予想した挙動をしないためユーザーはフラストレーションを感じてしまいます。
ユーザーのメンタル・モデルを理解して期待通りの体験を提供することがUI/UXデザインをする際のポイントです。
デザインとユーザーのメンタル・モデルが合わない時は、デザインをユーザーのメンタル・モデルに合うように変えます。
デザインをメンタル・モデルに合わせられない場合
一方、デザインをメンタル・モデルに合うように変えられない場合、ユーザーのメンタル・モデルを新しいメンタル・モデルに近づけます。
そのためにはUXの初期段階で操作方法のチュートリアルを用意したり、ラベルやインストラクションなどの視覚的なきっかけを提供したりする必要があります。
UI/UXデザインの例
ここからはメンタル・モデルを活用したUI/UXデザインの例をご紹介します。
最近では以下のようなメンタル・モデルを持ったユーザーがいると想定されています[2]メンタルモデルとは?UIUXデザインやビジネスにも活用できる考え方を解説 | NIJIBOX BLOG。
- メッセージアプリの吹き出し:右側は自分が送ったメッセージ、左側は相手が送ったメッセージ
- 虫眼鏡のマーク:検索ボタン
- 動画の「▶」ボタン:再生機能
たとえば何かしらメッセージアプリを開発している場合、自身のメッセージが左に表示されると、現在は多くのユーザーが相手からのメッセージだと誤認してしまうと考えられます。これはLINEなどのメジャーなメッセージアプリのUIが、自身のメッセージを右に、相手からのメッセージを左に表示しているため、その画面設計がユーザーのメンタル・モデルになっているからです。
このように、ユーザーのメンタル・モデルを調査することで、より使いやすいUIデザインをすることができます。
注
↑1 | ピーター・M・センゲ(著)、枝廣淳子・小田 理一郎・中小路 佳代子(訳)『学習する組織――システム思考で未来を創造する』英治出版、2011年、41頁。 |
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↑2 | メンタルモデルとは?UIUXデザインやビジネスにも活用できる考え方を解説 | NIJIBOX BLOG |