認知バイアスとは何か?発生の原因と種類、付き合い方を解説

2023年5月8日

認知バイアスとは何か?

認知バイアスとは心理学において無意識に発生する「思考の偏り」のことです。
簡単に言うと、思い込みや経験によって、ものごとを正しく判断できなくなる心の働きのことです。

例えば、一度悪い印象を持った人に対しては、その人の良い面を見ようとしなくなってしまう、といったような心の働きです。

「認知バイアス」という言葉の「バイアス(bias)」とは、偏りやゆがみを意味しており、「バイアスがかかる」とは、偏った見方をしている状態を指します。

認知バイアスとは、思い込みや経験により非合理的な判断をしてしまうことを指す心理学用語であり、倫理学、認知科学、社会心理学などの学問にて研究対象とされています。
商品の購入決定に至るまでの過程や集団におけるコミュニケーションの場でも認知バイアスが様々な判断に関わる事も多く、ビジネス分野でも注目され活用されています。

認知バイアスの原因

認知バイアスの主な原因としては物事に対する「思い込み」から物事を客観的に判断できなくなってしまうことが挙げられます。

直感、先入観

認知バイアスは、過去の経験から得た情報から推測して認知することから発生します。

たとえば、パートナー企業の担当者がある分野に対して長く携わっているという情報から、経験が豊富で高難度のプロジェクトも任せることができると思っていたが、プロジェクト管理は行うことができなかったということがあったとします。
これは、経験豊富な人はプロジェクト管理も行うことができるだろうと思い込んでしまい、一部の情報から全てを推測して完結させてしまったために起こる認知バイアスの一つです。

直感や先入観といった思い込みは、ただの推測であり事実ではありません。
思い込みから判断を誤るケースもあります。

直感、先入観による認知バイアスの例
  • ある分野に長く携わっている人は、経験が豊富でプロジェクト管理もできるだろうと思い込む。
  • 高価な商品は、品質が良いと思い込む。

自身の正当化

自信過剰な方や自分自身を正当化してしまう方の共通点として自分の都合のいいように考えてしまう傾向がみられます。
自分自身は仕事ができなかったとしても、周りのメンバーが優秀で仕事がスムーズに進んでいた場合は自分も優秀だと勘違いしてしまうこともあります。
また、プロジェクトが失敗した際、自分ではなく周りが原因で失敗したと自分以外に理由をみつけて自分自身を正当化してしまいます。
立場や利益を守りたいという心理が働き自己防衛として認識してしまうことも認知バイアスが発生する原因です。

自身の正当化による認知バイアスの例
  • プロジェクトが失敗した時、自分の責任を認めず、周りのせいにする。
  • 仕事ができなかった時、周りのメンバーが優秀だったからだと考える。

希少性、特別感

人は数が少ないものに高い価値があると無意識に思い込んでしまいます。「限定販売〇〇個のみ」といった形で売り出されていると、数が少ない=希少性が高く今手に入れないと損をすると思い購入してしまいます。
また、数だけでなく、「期間限定30%オフ」といったものも、この機会を逃すと勿体ないという思いを利用した販売方法です。

希少性、特別感による認知バイアスの例
  • 「限定販売〇〇個のみ」の商品に飛びついてしまう。
  • 「期間限定30%オフ」のセールで、必要のないものまで買ってしまう。

認知バイアスの種類

認知バイアスには、様々な種類があります。ここでは、代表的なものをいくつか紹介します。

確証バイアス

確証バイアスは、自分自身の信じることや願望について裏付けとなる情報を重視し、反対に都合の悪い情報については軽視してしまう心理状態を言います。
自分にとって都合のいい情報ばかりを集めてしまうため、デメリットが見えにくい弊害があり、仮説や信念が強いほど確証バイアスが強まり自信過剰になりやすくなってしまいます。

確証バイアスによる認知バイアスの例
  • 好きな政治家のスキャンダル記事は信じないが、嫌いな政治家のスキャンダル記事はすぐに信じてしまう。
  • 健康食品の効果を信じたいあまり、効果がないという情報を見ないようにする。

確証バイアスにとらわれないためには、自分の意見と反対の意見にも耳を傾け、客観的に情報収集を行うことが大切です。

正常バイアス

正常バイアスは、自分の都合の悪い情報を無視してしまう現象のことです。追い詰められた状況でも「まだ何とかなる」と考えてしまい、次の行動を踏み出すことが遅くなってしまいます。
たとえば、大地震が発生し津波警報が発令された場合でも、過去に津波が発生した経験がない方は「まだ逃げなくても大丈夫だろう」と考えてしまい気が付いた時には津波に巻き込まれてしまうケースもあります。

正常バイアスによる認知バイアスの例
  • 大地震が発生し、津波警報が発令されても、「自分は大丈夫」と避難を遅らせてしまう。
  • 病気の診断を受けても、「自分は大丈夫」と治療を拒否してしまう。

正常バイアスでトラブルに巻き込まれないためにも、危機感を持ち、最悪の事態を想定して行動することが大切です。

信念バイアス

信念バイアスは、結果が正しかったら過程も全てが正しいと思い込んでしまうことです。
反対に、結果が悪かった場合は過程も悪かったのだと否定的な考えに陥ってしまうこともあります。
結果によって全てが左右されてしまう考え方となるため、仮にプロジェクトが失敗してしまった場合に自分やチームの頑張りや良かった点も全て否定してしまう認知バイアスとなります。

信念バイアスによる認知バイアスの例
  • プロジェクトが成功した時は、プロジェクトマネジメントが良かったからだと考える。
  • プロジェクトが失敗した時は、チームメンバーの能力が低かったからだと考える。

信念バイアスにとらわれないためにも、結果だけでなく、過程も評価することが重要です。

情報バイアス

情報バイアスは、必要以上に情報を集めてしまい、不要な情報まで必要だと思い込んで集めてしまうことを言います。
判断の選択肢を増やすためにも情報は必要となりますが、多すぎても良くはありません。
情報が多いほど迷いや混乱を起こし、判断ミスを起こしてしまうケースもあります。

情報バイアスによる認知バイアスの例
  • 旅行の計画を立てる際に、あまりにも多くの情報サイトを見てしまい、結局どこに行くか決められない。
  • 新しい家電製品を購入する際に、機能や性能に関する情報を集めすぎて、どれを選べば良いか分からなくなる。

情報バイアスにわずらわされないためには、情報収集の範囲を絞り、本当に必要な情報だけを集めることが大切です。

自己奉仕バイアス

自己奉仕バイアスは、成功した時は自分のおかげ、失敗した時は他の人や別の要因だと思い込むことを言います。
仕事での成果は自分の能力が高いから成功したと考え、失敗した時は周りの能力が低いことが原因であり、サポート不足や環境が悪いと考えてしまう現象です。

自己奉仕バイアスによる認知バイアスの例
  • プレゼンテーションが成功した時は、自分のプレゼン能力が高かったからだと考える。
  • プレゼンテーションが失敗した時は、資料作成を手伝ってくれた人の能力が低かったからだと考える。

自己奉仕バイアスから脱却するには、謙虚な姿勢を忘れず、失敗から学ぶことが重要です。

内集団バイアス

内集団バイアスは、自分が所属する集団の人達に対して贔屓してしまう心理現象です。自分と同じグループにいるため意識が高くて優秀に違いないと思ってしまうことがこのバイアスに該当します。

内集団バイアスによる認知バイアスの例
  • 自分の会社の社員は優秀で、他の会社の社員は能力が低いと思い込む。
  • 自分の出身地の人は親切で、他の地域の人は冷たいと思い込む。

内集団バイアスに陥らないために、日ごろから他の集団の人たちにも公平に接することが大切です。

認知バイアスとの付き合い方

認知バイアスは、自分が正しい、思った通りに進めたいと思ってしまうことから引き起こされる現象です。重要な選択に迫られたときに認知バイアスに支配されることを防ぐためにも以下を念頭に行動してみましょう。

違った視点に立って考える

何かの選択を行うときに、直感に従って選択をするのではなく一度立ち止まってみることをお勧めします。他の選択肢はないか、この選択は本当に正しい選択なのかといった視点で考えてみるとより良い選択が見えてくるかもしれません。

自分にとって本当に必要な情報は何かを考える

自分に都合のいい情報しか見ないことや、周りが賛同するものを正しいと思い込んだりせず必要な情報を集めた上で判断するようにしましょう。

認知バイアスについて知る

どのような認知バイアスがあるのかを知ることも大切です。認知バイアスがもたらす影響や可能性を知ることで意識的に防ぐことができます。また、認知バイアスを知ることで組織的に対策を取ることもできるため、まずは知るところから始めてみましょう。

自分の思考の癖を知る

現代では沢山の情報が飛び交う中で選択の判断を行いながら生活しています。
情報をシャットアウトしようとしても無意識に判断を行ってしまうため、全ての情報や選択を切り離すことはできません。
その中で認知バイアスに支配されないようにするためには、自分の思考の癖を理解しておくことが大切です。
認知バイアスは無意識下で判断を行ってしまうことから始まるため、自分が影響を受けている認知バイアスを知り、自覚することが最も重要になります。

認知バイアスのメリット

認知バイアスは、必ずしも悪い影響ばかりではありません。
状況によっては、以下のようなメリットをもたらすこともあります。

  • 意思決定の迅速化
  • ストレスの軽減
  • 集中力の向上
  • モチベーションの維持

私たちは認知バイアスによって、過去の経験から自動的に判断することで、複雑な状況をいちいち分析する手間を省いています。その結果、意思決定が迅速になるだけでなく、判断に必要以上に悩まないことによって、ストレスを軽減することもできます。

また、些末なことがらに素早く対処することで、目の前のことに集中することができ、モチベーションもアップします。

いわば、認知バイアスとは人間が複雑な社会を生き抜くために身につけた知恵なのかもしれません。

しかし、認知バイアスは時に誤った判断を招く可能性も秘めているため、完全に頼り切ることはできません。自分の認知バイアスを自覚し、客観的な視点を持つように心がけることが大切です。

参考

  • https://news.mynavi.jp/article/20201031-1430396/(2023年4月23日)
  • https://www.ashita-team.com/jinji-online/business/13967(2023年4月23日)
  • https://kuraneo.jp/posts/488(2023年4月23日)