スコープ・マネジメントの失敗!現場の声を聞きすぎてコストが膨らんでしまった失敗談

2022年6月27日

百出する要望への対処法

プロジェクトでどのようなことを実現するのかは、プロジェクトの開始前から詳細に決まっていることもあれば、プロジェクト開始後に詳細に話し合っていくこともあります。
「プロジェクトで何をするのか?」を考えることを「スコープ・マネジメント」と呼びますが、このスコープ・マネジメントに失敗してしまうと、プロジェクト・チームはゴールを見失ってしまうことになりかねません。

今回は関係者の要望を聞きすぎたために、プロジェクトがトラブルに陥った事例を紹介し、その対策を考えていきましょう。

失敗談

私は産業ロボットメーカーに勤務しており、手配システム(営業が受注した製品を、社内の生産管理部へ手配するためのシステム)刷新のプロジェクトマネージャーを担当しています。
今回は現場の声を聞きすぎてコストが膨らんでしまったという私の失敗談をお話しいたします。

このプロジェクトは、私を含めた事務局メンバー2名、情報システム部5名、営業メンバー10名、生産管理メンバー5名で活動していました。
既存システムは20年以上使われて古くなってきている上に、このシステムを改修・メンテできる人材も社内で減っていました。そのため、昨今のビジネスモデルや現場の要望に対してシステムが全く追いついていない状態でした。そこで今回のシステム刷新プロジェクトが立ち上がったわけです。

このプロジェクトが発足する前から、システムのメインユーザである営業部門や生産管理部門から「納期がリアルタイムに見えるようにしてほしい」「営業からの手配ミスをなくしてほしい」など、大小さまざまな改善要望が無数に存在していました。
プロジェクトが始まり、システムの現状調査をするために私たち事務局が主体となって現場へヒアリングを行ったのですが、この時点で現場から「~したい」「~はこうしてほしい」などシステムへの要望が噴出し、既存システムが非常に使いづらいことが私にも伝わってきました。

現状調査が終わり、システムの要件定義フェーズに移りました。現場からの要望が想像以上に膨らんでいることと、プロジェクトの予算も決まっていたため、要件定義フェーズでは対象機能を絞り込む必要がありました。

営業・生産管理メンバー全員を招集して話し合いを実施し、すべての要望に対して優先度①~③をつけることで、課題の重要度を整理しました。今回のプロジェクトでは優先度①のみを改善対象とし、残りは保留という形で現場とも合意がとれ、無事に要件定義フェーズが終わりました。システムユーザからすると、すべてをシステムに盛り込んでほしかったはずですが、なんとかがまんしてもらったという状況です。

要件定義フェーズの後は、基本設計・現場への仕様説明フェーズに移っていきました。この基本設計・現場への仕様説明フェーズでは、要件定義フェーズで決定した内容を営業部門・生産管理部門とさらに内容を詰めていく段階でもあり、打合せを毎週実施しました。
業務の詳細について会話をしていると「やはりこの機能は搭載してほしい」「この機能は必須機能だよね」など、要件定義で合意をとって対象から外したはずの要望が現場から次々と挙がってきました。
「要件定義で決めた機能以外は対象外とする」と、事務局から追加要望をはじくこともできたのですが、現場の切実な要望であり、中には必須と思われる機能もあったため、そうはいきませんでした。

追加で挙がった要望機能に対して、今回のプロジェクトの対象とすべきかどうかをジャッジする必要がでてきました。すべての機能をシステムに盛り込めば、あきらかにコストオーバーです。しかし、現場との話し合いの結果、どの機能も必須機能という結論になりました。

最終的には、プロジェクトオーナーである役員や社長に事実報告と交渉をすることでコスト的な問題は解消されましたが、現場の声を聞きすぎることが今回のような失敗を招くことを痛感しました。予算にバッファをもつことや、そもそもプロジェクト企画段階で「スコープ」を徹底的に話し合い、認識合わせをすることで今回のような「追加要望があふれ出る」という事態は防げたのかもしれません。

要求・要望の詰め込みすぎには注意

プロジェクトによっては、必要最低限の要望しかでてこないこともあれば、今回の失敗談のように要求・要望が百出し、コスト超過やスケジュール遅延の原因になることもあります。
今回のように要求・要望が膨れ上がってしまうトラブルを防ぐには、プロジェクトの各段階で以下のような確認をしておくことが大切です。

立ち上げ(企画)

今回の体験談を振り返ると、要求や要望から予算を見積ったのではなく、はじめに予算ありきでプロジェクトが始まったことがわかります。PMBOKを始め、プロジェクトマネジメントのガイドラインでは、要求事項を整理した上で必要な予算を見積ることが推奨されています。
実際のビジネスでは「年度末に余った予算を使いたい」というように、予算ありきでプロジェクトを始める会社も少なくないですが、できるだけこのようなことが無いようにしましょう。

計画

体験談の中でも実施されていますが、要求事項のすべてを実施することができない場合は、優先度を付けて対応します。たとえばMoSCoW分析のように、要件をMust(対応必須)、Should(対応すべき)、Could(できれば対応)、Won’t(対応不要)という4つの分類で評価し、プロジェクトで対応する要件の優先順位を決めるとよいでしょう。

また、今回の体験談ではプロジェクトが動き始めてからも多数の要求が出てきたと語られていますが、そのような事態を防ぐためにも、計画の段階で開発するシステムの仕様を固め、レビューを徹底することも重要です。

実行・監視

プロジェクトが実行段階に入ったら、要件の追加などの変更要求に上手く対応しなければなりません。変更要求は優先順位を付けて対応するだけでなく、あらかじめ変更要求が発生した場合どのように対処するのかを変更マネジメント計画書にまとめ、ステークホルダーと共有しておくことも大切です。