バニティ・メトリックス(虚栄の評価基準)とは何か?アクショナブル・メトリックス(行動につながる評価基準)との違いを解説

バニティ・メトリックス(虚栄の評価基準)の概要

バニティ・メトリックス(Vanity metrics)とは、見栄えは良いものの、実際の意思決定には役に立たない尺度や指標のことです。
バニティ・メトリックスは「虚栄の評価基準」と訳されますが、その名のとおり、バニティ・メトリックスは実用的ではないものの、チームや組織の虚栄心を育むことはできます。

バニティ・メトリックスという言葉は、エリック・リース(Eric Ries)の著書『リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』で登場します。

エリックは同書の中で「スタートアップがやらなければならないのは、(1)現状を的確に計測し、評価で明らかになった厳しい現実を直視する、(2)事業計画に記された理想に現実の数字を近づける方法が学べる実験を考案する」ことだと述べ、計測の大切さを訴えています[1]『リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』156頁。
そして、この計測の注意点としてエリックが挙げているのがバニティ・メトリックスです。

このバニティ・メトリックスとは逆に、意思決定に寄与する尺度や指標はアクショナブル・メトリックス(Actionable metrics行動につながる評価基準)と呼ばれます。

バニティ・メトリックスの例

バニティ・メトリックスの例は数多くあります。
たとえば、企業が運営しているSNSの「いいね」の数はバニティ・メトリックスになりがちです。
自社が運営しているtwitterの投稿がバズり、1万を超える「いいね」が付けば、SNSの運営者は満足するでしょうし、他の社員の自慢のタネにもなります。
しかし、その企業が工作機械などの企業向けの製品・サービスを提供しているのであれば、SNSの人気は売上に直結しません。

このように、重要なように見えるものの、掲げている目標の達成や、その進捗を計測する尺度としては適切ではないものは少なくありません。
SNSの「いいね」の数をはじめ、Webサイトのページビュー数やお店の累計来客数、アプリの累計ダウンロード数など、これらの数値はバニティ・メトリックスになることがあります。

バニティ・メトリックスは一定ではない

上述のとおり、バニティ・メトリックスになりうるものは多々あります。しかし、ある組織にとってバニティ・メトリックスであるものが、他の組織でもバニティ・メトリックスであるとは限りません。
たとえば先ほどバニティ・メトリックスの1つとして挙げたWebサイトのページビュー数を考えてみましょう。
ページビュー数とは、そのWebサイトのページを何回見られたかという数値です。企業のWebサイトの場合、ページビュー数はバニティ・メトリックスになりがちです。「月間30万ページビュー数のWebサイト」と言えば聞こえは良いですが、事業とは関係のないブログ記事で数字を稼いでいては意味がありません。
一方で、ニュースサイトのように、Webサイトに広告を掲載し、それをユーザーに見せることで収益を得ていたらどうでしょうか。こうしたサイトであればページビュー数は売上に直結するため、重要な指標になります。

このように、バニティ・メトリックスというのは一定ではなく、組織や目標によって変化します。取り上げた尺度や指標が、自分たちの目標やビジネスの改善に関係しているのかを見極めることが大切です。

バニティ・メトリックスかアクショナブル・メトリックスか?

バニティ・メトリックスか、それとも有益なアクショナブル・メトリックスかを判断するのは容易ではありませんが、ここからは見極めるためのいくつかのヒントを紹介します。

3つのしやすさ

まずはエリックが重要だとしている「3つのしやすさ」について解説していきます。3つのしやすさは以下のとおりです。

  • 行動しやすさ
  • わかりやすさ
  • チェックしやすさ

「行動しやすさ」は因果関係が明らかであることを意味します。つまり「この数値が上昇したのは、私たちが○○の行動を執ったからだ」と明瞭に説明できるかどうかが重要になります。
「わかりやすさ」は尺度や指標のわかりやすさのことです。これは尺度や指標が簡潔でわかりやすいということも意味しますが、意思決定に反映しやすいかどうかも判断のポイントになります。
たとえばゲームのスマートフォンアプリを開発している会社であれば、「今月は累計ダウンロード数が4,000に到達した」という報告を受けても、それが良いのか悪いのか、この先にどのような行動を執るべきなのかが判断できません。しかし、「今月のダウンロード数は200で、先月に比べて500低下した」という情報であれば、ダウンロード数が低下しているのでPR活動などに改善が必要なことがわかります。このように、判断材料にしやすい、わかりやすい尺度や指標が求められます。
「チェックしやすさ」とは検証のしやすさのことです。これは行動しやすさにも通じるところがありますが、行動や改善の結果が思わしくなかった時、その効果検証がしやすいかどうかを意味します。また、データの信ぴょう性の確認などの検証も含まれます。

これら3つの「しやすさ」を兼ね備えた尺度はアクショナブル・メトリックスとして利用できそうです。

SMART

「3つのしやすさ」以外では、SMARTも尺度や指標の採用の判断軸として使われます。
SMARTとはSpecific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(適切さ)、Time-limited(時間制限)の5つの英語の頭文字をとったものです[2]Scott Berkun (著)、村上 雅章 (訳)『アート・オブ・プロジェクトマネジメント … Continue reading
これら5つの要素を兼ね備えた尺度や指標も、アクショナブル・メトリックスになりうるでしょう。

SMARTについては、下記の記事もご参照ください。

参考

書籍

  • エリック・リース(著)、井口耕二(訳)『リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』日経BP、2012年

Webページ

1『リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』156頁。
2Scott Berkun (著)、村上 雅章 (訳)『アート・オブ・プロジェクトマネジメント ―マイクロソフトで培われた実践手法』オライリー・ジャパン、2006年、85頁。ただし、同書ではSpecific(具体的)、Measurable(測定可能)、Action-oriented(行動指向)、Realistic(現実的)、Timely(タイムリー)をSMARTの内容としている