MVP(Minimum Viable Product、実用最小限の製品)とは何か?その事例の紹介とPoC・ベータ版との違いについても解説

2020年8月10日

MVPの概要

MVP(Minimum Viable Product)とは、日本語では「実用最小限の製品」と訳される、最も重要で価値のある機能だけをもった製品・サービスのことを意味します。
MVPは主にリーン・スタートアップの中で用いられるアイデアで、「開発 → 計測 → 学び」というサイクルを回すために世に出される製品やサービスです。

MVPの事例

MVPの詳しい話を始める前に、まずはMVPの事例をいくつか見ていき、具体的なイメージをつかんでいきましょう。

Facebook(フェイスブック)

Facebookは創業者のマーク・ザッカーバーグがハーバード大学在学中に開発したSNSがそのまま社名となっています。
最近の学生はSNSとしてのFacebookをあまり使わなくなったものの、近年成長しているInstagramをFacebookが買収したので、会社としてのFacebookにはまだまだ全世界がお世話になっているという状況です。
SNSとしてのFacebookは、マーク・ザッカーバーグが冗談半分で「学生同士で恋人の有無がわかるWebサイトがあったらいいんじゃないか?」と考え、開発したのがきっかけとなっています。
このあたりの話は映画「ソーシャル・ネットワーク」の中でも序盤のハイライトとして描かれています。

マーク・ザッカーバーグが当初からマネタイズを意識していたとは考えにくいですが、「恋人の有無を確認できるサイト」というMVPを意図せず作り出し、それを広めることができました。
今日Facebookは「人々はFacebookを使って友達や家族とのつながりを保ち、世界で何が起こっているのかを発見し、彼らにとって重要なことを共有し表現する。」というビジョンを掲げていますが[1]GAFAのビジョン・ミッション | SSAITSのブログ、半ば出会い系のようなサイトからここまで大きな事業になるとは誰も思っていなかったでしょう。
日本でFacebookが流行したのは、ある程度機能が充実したあとなので、多くの日本人が「なんで恋人の有無なんてわざわざ書かないといけないんだ」と思ったかもしれませんが、この機能こそがFacebookのMVPであったと言えます。

Zappos(ザッポス)

日本ではなじみのない会社ですが、Zappos(ザッポス)は靴のネット販売で成功し、創業者のトニー・シェイは会社をAmazonに売却しています。
ザッポスが創業した当時、AmazonのようなECサイトは一般的なものになっており、ただ単純にECサイトで大成功を収められる時代ではありませんでした。一方で、靴のように、試着してからでないと買わないようなものをECサイトで注文するということは、まだまだ考えにくい時代でした。
その中でトニー・シェイ「そもそもネットで靴が売れるのか?」ということを確認するために、靴の在庫を持たず、ネットで靴を販売するWebサイトを立ち上げ、誰かが購入したら近くの靴屋さんに買いにいって、それを送るということからはじめました。

つまり、「靴をネットで売る」という実用最小限のサービスをまずは世に送り出し、自分たちのサービスが受け入れられるのかを検証した事例といえます。

靴もネットで十分に注文が入ると実感したトニー・シェイは本格的に事業を展開し、会社を大きくさせたあと、競争相手であったAmazonに売却しています。
その成長までのストーリーもさることながら、「ビジョナリー・カンパニー」を体現させた経営手腕にも注目があつまり、ザッポスの功績を称える本がいくつも存在しています。

ドラマ「シリコンバレー」

海外ドラマ「シリコンバレー」はITビジネスのメッカであるシリコンバレーで内気なプログラマーの主人公・リチャードが、明日のGAFAを目指して奮闘する物語です。
このドラマのパイロット版である第1話のタイトルがまさしく“Minimum Viable Product"(邦題も「実用最小限の製品」)となっています[2]Minimum Viable Product – Wikipedia
海外ではこのパイロット版の視聴率がよくなければ続きが制作されないため [3]パイロット版 – Wikipedia 、このドラマにとってもMVPの存在であったのではないでしょうか。

リチャードは独自のアプリをもって投資家に出資を願い出るのですが、そのアプリよりも、アプリで使われているデータの圧縮技術が投資家の目に止まり、まずはこれを売り出そうということになります(本当はもっと紆余曲折ありますが、割愛)。
もちろんこれはドラマの話ではありますが、リチャードのように、「一番価値のあるものをまず売ろう」とするのも、MVPの特徴です。

リーン・スタートアップの中でのMVP

ここからはMVPをリーン・スタートアップとの関係から解説していきます。
近年、シリコンバレーで発案された起業法であるリーン・スタートアップが注目されています。
リーン・スタートアップとは、簡単にまとめると、検証による学びを重視し、MVPを作成した後、計測、学び、開発、そして計測と、「開発 → 計測 → 学び」のサイクルを素早く回しながら成長させていくという手法です。
「シリコンバレーで起業」というと、「投資家から何千万ドルもの出資をしてもらい、じゃんじゃんお金を使って、世の中をひっくり返すような製品・サービスをつくる」というイメージを持っている方もいるかもしれません。
しかし、リーン・スタートアップでは、無駄にお金を使って派手なことをしようとせず、MVPを作って、そこから改善をしていこうとします。

靴のECサイトで成長したザッポスの創業者が、靴の在庫ももたずに、まずはWebで注文を受け付けたように、「そもそもこの製品って受け入れられるのか」「このサービスには需要があるのか」「十分な顧客が集まるのか」という検証を行います。MVPを世に出してみて、まったく反響がなければ、その製品・サービスで本格的な起業を始めるのは中止し、製品・サービスの内容を考え直したり、別の製品・サービスにすることを検討することもあります。

PoC・ベータとの違い

MVPに似た概念として、PoC(Proof of concept、概念実証)ベータというものがあります。
簡単にこの違いをまとめると、以下のとおりです[4]What Is Proof Of Concept? [A Detailed Guide] | Feedough

 PoCMVPベータ
目的問題・課題に対するソリューションの適合をテスト製品と市場の適合をテスト市場による製品の受容性をテスト
実施されるタイミング実際の製品が生産される前製品開発の初期段階最終製品が製造されたとき

PoCは現在打ち出しているアイデアのコンセプトが、実際に問題や課題を解決できるのかを確認します。実際に本格的な事業化の前にPoCを行い、今のアイデアで解決したい課題が本当に解決できるのかをテストします。
MVPは、現在の市場のユーザーに対して、提供しようとしている製品・サービスが適合するかどうかを確認します。
つまり、既存市場のユーザーの嗜好や行動パターンにマッチしていて、今後も購入されるかどうかをテストします。
これまで見てきたように、MVPは製品開発の初期段階で作成されます。
一方、ベータはほぼ開発を終えた製品が、市場のユーザーに受け入れられるかどうかを判断します。最近では「これはベータ版です」といってリリースされている製品が多くあるので、想像に難くないかもしれません。
ベータは完成版に近い精度で利用することができるものの、まだ求めている品質にとどかなかったり、ユーザーの反応によって、調整する余地を残していたりします。

こうして考えるとZapposの事例は、PoCとMVPを両方兼ねていたといえます。
Zapposは在庫も持たずに、注文を受け付けるだけのWebサイトからスタートしたという話をしましたが、これは「靴がオンラインで売れるかどうか」というPoCをテストするとともに、すでにある「靴」という市場に自身のサービスがマッチするのかどうかを判断していたと言えます。

このように、MVPはPoCとしても使うことができるので、提供している製品・サービスのコンセプトが受け入れられるかどうかを判断するためにも、 大きな開発に移る前に実用最小限の製品・サービスをリリースするほうがスクを抑えた起業ができると言えるでしょう。