クリエイティブな思考を改善する習慣 ~『思考の技法』より~
イギリスの学者であったグラハム・ワラス(Graham Wallas)は著書“The Art of Thought(思考の技法)"の中で、創造的なアイデアを生み出しやすくする習慣について考察しています。
今回は『思考の技法』から、思考の技法を改善する習慣について紹介していきます。
今回の内容は『思考の技法』の著者であるグラハム・ワラスが提唱したアイデアを生み出す思考法を知っていると、さらに理解が深まります。
「ワラスの4段階」とも呼ばれるこの手法については、下記の記事もご参照ください。
知的作業を行う時間を自発的に定める
クリエイティブな思考を改善する最も簡単な方法は、知的作業を行う時間を自発的に定めることです[1]前掲『思考の技法』131頁。。
脳が徐々に刺激され、完全な活動ができるようになることを「ウォームアップ」と呼ぶことがありますが、知的作業を行う時間を定めるとこのウォームアップを起こしやすくなります。
さらに、知的作業を行う時間を定着させることによって、自然にその時間に脳が働くようになります。
感覚的な刺激も習慣にすると、さらに効果が期待できます[2]前掲『思考の技法』132頁。。たとえば、決まった机やペンで作業をするなど、そうした周囲の環境もパターン化していけば、脳がウォームアップの状態になることを促せます。
前日の作業を反復する
前日の知的作業の内容を反復することを習慣にすることも、クリエイティブな思考を刺激します[3]前掲『思考の技法』133頁。。
たとえば、前日に書いた原稿を、次の日の朝に推敲するとします。その推敲の時には、前日に原稿を書いてからの間に頭の中で巡らせていたアイデアや、睡眠の間の時間に半意識的に考えていたアイデアを盛り込むことができます。
また、前日の作業を反復すると、アイデアを生み出す予兆が生まれやすいと、ワラスは述べています。
重要なもの、後に延ばせるものを優先する
ワラスは、重要なものや後に延ばせるものから優先させることも、思考の刺激につながると考えました[4]前掲『思考の技法』135頁。。
『思考の技法』の中でワラスは、一日の始めに重要な業務は何かを部下と考え、段取りをつけてから作業を始めるウィリアム・ベヴァリッジの手法や、ハーバード大学の学長が後に延ばせる作業から着手する方法を紹介しています。
後に延ばせる作業というのは、面談や緊急の書類対応など、すでに予定の決まった作業ではないもので、意思を奮い立たせないと手を出さないような作業です。たとえば、業務改善の考案や新しいカリキュラムの考案などが、後に延ばせる作業に含まれるでしょう。
差し迫った作業にばかり追われていると、人は頭を使わなくなってしまいます。こうした負の習慣を取り払うためにも、重要なものや、後に延ばせる作業を優先的に考えることが大切です。
似ているアイデアに、自己啓発の名著『7つの習慣』に登場する時間管理のマトリックスがあります。
『7つの習慣』の中でも、緊急度と重要度の高い作業だけでなく、緊急ではないが重要な作業への時間を増やすことが、効果的な人間になるために大切だと紹介しています。
『7つの習慣』については、下記の記事をご参照ください。
辺縁の思考を記録する
ワラスは、辺縁の思考を記録することも大切だと述べています[5]前掲『思考の技法』136~142頁。。
ワラスはアイデアというのは、問題への意識の焦点と、その焦点とは少し離れた辺縁の意識が関係して生まれると考えていました。
そのため、頭の中に浮かんでくるちょっとした考えを記録し、アイデアを生み出すきっかけにすることができるとワラスは考えました。
ワラスは、こうした辺縁の思考はフォルダー分けし、後から再分類することで、アイデアを生み出すことができると述べています。
これに似た手法にKJ法があります。KJ法については、下記の記事もご参照ください。
アイデアを膨らませる
辺縁の思考を記録するのとセットで身に付けたいのが、アイデアを膨らませるという習慣です。
さきほども紹介したように、フォルダー分けした辺縁の思考を再分類したり、アイデアノートをつけ、それを読み返したりして、アイデアを膨らませていきます。
また、講義がアイデアを膨らませるためには良いとワラスは考えました。
講義をすることで、聴衆から反応をもらい、それが刺激になって新しい考えが生まれるかもしれません。大切なことは、そうしたアイデアも講義中にメモしておくことです。
習慣の主人になる
最後に、ワラスは習慣の奴隷にならず、習慣の主人になることが大切だと説いています。
たとえば、知的作業を行う時間を定めることで息苦しさを感じるのであれば、あまり意味がありません。
また、勤勉さは確かに大切なものの、何も考えずに読書をするような習慣は、かえって創造の妨げになってしまいます。
これまでに紹介した習慣を取り入れつつ、習慣の奴隷になることなく、創造力を広げる新たな刺激を求めることも大切です。
参考
書籍
- グレアム・ウォーラス(著)、松本剛史(訳)『思考の技法』筑摩書房、2020年
Webページ
- https://ja.wikipedia.org/wiki/ウィリアム・ベヴァリッジ(2023年11月6日確認)