ドレイファスモデルとは何か?技能の5段階と各段階にあわせた対応方法を解説

2023年3月6日

ドレイファスモデルとは

ドレイファスモデルとは、1970年代にスチュアート・ドレイファス(Stuart Dreyfus)とヒューバート・ドレイファス(Hubert Dreyfus)の兄弟が定義した、人間が技能を習得し、極める過程のモデルです。
この考え方は、看護業界や航空業界、そしてソフトウェア開発業界など高度な技術習得を必要とする職業で適用できるとされています。
ドレイファスモデルの各段階の特徴を知り、自分自身やコーチングをしている相手がどの段階にいるかを知ることで、次の段階へのステップアップにつなげることができます。

ヒューバート・ドレイファス(Hubert Dreyfus)(写真はWikipediaより)

ドレイファスモデルの5段階

特性/スキルレベル初心者中級者上級者熟練者達人
経験経験なし経験に応じた対応が可能
認識範囲局所的全体的
決断論理的直感的
作業意識考えて行動無意識で行動

ドレイファスモデルでは、技能を極める段階を「初心者」「中級者」「上級者」「熟練者」「達人」の5段階と定義しています。
これら5つの段階は、「経験」「認識範囲」「決断」「作業意識」の4つの要素から判断されます。

ここからは、それぞれの段階について、その特徴と成長を促すための対応方法を解説していきます。

初心者

初心者の特徴

初心者は、対象の分野においての経験をほぼ持っていません。また、認識範囲も局所的で、大局を考えて行動することができません。
そのため、自分の行動の結果がうまくいくか、いかないかの区別をつけることができず、ミスへの対処といった柔軟な状況判断は困難です。

初級者には「ルール」が必要

初心者は、明確なルールに基づく作業を依頼する必要があります。
具体的に「報告書の署名欄にサインをする」「サインした報告書を担当部署の〇〇さんに渡す」といった形で明確な指示を出すことで業務を遂行することが可能です。

中級者

中級者の特徴

中級者は、少しずつルールベースの判断から離れられるようになります。また、経験がある業務であれば、独力で完遂することも可能です。
しかし、経験は積んだものの、その他の要素は初心者と大きく変わらず、中級者は自分の業務範囲で手一杯になるという傾向も見られます。

そのため、中級者にプロジェクトの全体像や関連部署について質問しても「まだ私には関係ない」という姿勢を見せることがあります。

中級者からはマメな「報連相」を受ける

中級者に対しては、過去に経験のある業務であれば独力でこなせる一方で、まだまだイレギュラーな事態への対応はできません。
そのため業務を任せつつ、こまめな報連相を必要とします。
問題発生時には、上級者以上からのサポートを受けながら業務を遂行します。

上級者

上級者の特徴

上級者になると、問題となっている部分を広い視野で理解し、関連部署との連携を活かしながら効果的に業務を進めることができるようになります。
初級者や中級者は物事に対してある程度型にはまった反応をしますが、上級者は状況に柔軟に対応し解決に導くことが可能です。
また、チーム全体を見る余裕ができるため初心者には助言を与えつつ、過度に達人を困らせることもありません。

上級者は「人材育成」ができる

上級者は視野が広くなるため、人材育成や他のメンバーのサポートを行うことができます。
一方で、自分を振り返り改善をするという意識が弱くなる傾向も見られます。

より上位の熟練者や達人の立場として上級者のスタッフの成長を考える場合は、意識的に振り返りの機会を与えて成長を促していく必要があります。

熟練者

熟練者の特徴

ドレイファスモデルにおいて、熟練者は質的に大きな飛躍をします。
上級者と熟練者の間には高い壁があり、熟練者は達人の一歩手前と定義されています。
上級者までは、失敗する可能性を正確に洗い出すことは困難で、過度にテストを作り込んでしまったり、検討の抜け漏れが発生することがあります。
しかし、熟練者は経験から何が失敗しやすいか、抜け漏れが起きやすいかをよく理解し、作業に落とし込むことができます。

熟練者は「決断力」が上がる

熟練者はシステム方針の決定やリスク回避のためのアクションなど、解決方法が明確でない課題に対して状況に応じた決断が可能となります。
熟練者は、技術的に難度の高い案件や、高度なスキルを求められるポジションに配置することで能力を発揮します。

達人

達人の特徴

達人は何かをするのに「理由があってそうする」のではなく、直感に従って行動します。
この直感は達人本人にも説明できず、「なんとなく」で最善の手段を選び取っていきます。
バグの対処時に、エラーメッセージとは関係ない部分が問題の根幹になっているケースはよく見られますが、達人はこれらのエラーをあっさりと解決してしまいます。
膨大な経験から、問題の本質的な部分を瞬時に判断して対処を行うことができます。

判断が経験に基づくものか、感覚的なものかという部分が、達人と熟練者の違いです。

達人には「信頼」して任せる

達人は、熟練者が行っていることを無意識下でこなすことが可能です。
一方で、初級者に与えたようなルールに基づく作業を与えると生産性が落ちてしまうことがあります。
達人に対しては、その能力を信頼して直感で作業することをサポートしていくことを心がけます。

最後に

ドレイファスモデルでは、業務を進める上では中級者相当であれば困ることはないとされています。
そしてどの業界においても中級者が占める割合が最も高く、上級者以上になれる人物は一握りです。
しかし、本来は中級者相当なのに自己評価が過度に高くなってしまうと、周囲のメンバーの生産性の低下や成長の阻害などの問題が発生します。

まずは自分が今どの段階にいるかを正確に理解することが、次の段階に進むための第一歩になります。

参考

書籍

  • Andy Hunt(著)、武舎広幸(訳)、武舎るみ(訳)『リファクタリング・ウェットウェア ―達人プログラマーの思考法と学習法』オライリージャパン、2009年

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