ウェルビーイング理論およびその構成要素のPERMA(パーマ)とは何か?「持続的幸福(フラーリッシング)」を重視するポジティブ心理学の考えを解説
今回は『ポジティブ心理学の挑戦 “幸福"から“持続的幸福"へ』をもとに、ウェルビーイング理論を解説していきます。
ウェルビーイング理論の概要
ウェルビーイング(Well-being)とは「誰かにとって本質的に価値のある状態、つまり、ある人にとってのウェルビーイングとは、その人にとって究極的に善い状態、その人の自己利益にかなうものを実現した状態である」と言われています[1]ウェルビーイング – Wikipedia。
このウェルビーイングを実現するために、ポジティブ心理学を研究するマーティン・セリグマン(Martin E. P. Seligman)が提唱したのがウェルビーイング理論です。
セリグマンはウェルビーイングを測定する判断基準は「持続的幸福(フラーリッシング)」だと考え、持続的幸福の増大が今日のポジティブ心理学の目標であると述べています[2]マーティン・セリグマン(著)、宇野カオリ(訳)『ポジティブ心理学の挑戦 … Continue reading。
従来の幸福理論とウェルビーイング理論の違い
従来の幸福理論とウェルビーイング理論の違いをまとめると、以下の表のようになります[3]『ポジティブ心理学の挑戦』、29頁。。
幸福理論 | ウェルビーイング理論 | |
---|---|---|
テーマ | 幸福 | ウェルビーイング |
尺度 | 人生の満足度 | ポジティブ感情/エンゲージメント/意味・意義/ポジティブな関係性/達成感 |
目標 | 人生の満足度の増大 | 尺度として挙げた要素の増大による持続的幸福度の増大 |
ここからは、セリグマンが指摘した従来の幸福理論の不備に注目しながら、ウェルビーイング理論の特長を詳しく見ていきましょう。
テーマ
従来の幸福理論は「幸福」や「幸せ」をテーマに掲げていました。「幸福」や「幸せ」という言葉を耳にすると、笑顔のイラストが頭に浮かぶ人も多いかと思われます。こうした明るい気持ちのイメージはポジティブ感情の1つとして挙げられます。ポジティブ感情とは、「スポーツでいい汗をかいた」「おいしいものを食べた」というような「快」の感情を指します。
このポジティブ感情が幸福に欠かせない要素であることは疑いようがないものの、人生の幸福というのはそればかりではありません。
ウェルビーイング理論では、ポジティブ感情を1つの構成要素としたウェルビーイングに注目することによって、単純すぎる従来の幸福理論から脱却し、人生を多面的に評価しようとしています。
尺度
従来の幸福理論では「幸福」の度合いを「人生の満足度」で測ろうとしました。しかし、その測定方法が「自分の人生にどれくらい満足しているか」という簡潔なアンケート調査であったため、多くの場合調査した時点での気分に左右されてしまいました。
そのため、結局はその時々のポジティブ感情に大きく依存してしまい、「ポジティブ感情は今低いが、仕事に打ち込んで充実している人」や「ポジティブ感情自体は低いが、周囲に支えられて安心感を得ている人」などの人生の満足度が低く表示されてしまうという不都合がありました。
上記の目標でも解説したように、セリグマンはこの従来の幸福理論の単調さを問題視し、多面的な評価を試みています。ウェルビーイング理論の尺度がPERMA(パーマ)です。
PERMAはウェルビーイングを構成する以下の5つの要素の頭文字から来ています。
- ポジティブ感情(Positive Emotion)
- エンゲージメント(Engagement)
- 関係性(Relationships)
- 意味・意義(Meaning)
- 達成(Achievement)
セリグマンはウェルビーイングを「天気」にたとえています。天気が様々な要素から構成されているように、ウェルビーイングも様々な要素から構成されているとしています。
ウェルビーイングの構成要素・PERMA
ここからはウェルビーイング構成要素であり、尺度でもあるPERMAについて解説していきます。
ポジティブ感情(Positive Emotion)
ポジティブ感情とは、「快の人生」や「快の感情」を意味するものです。従来の幸福理論では、このポジティブ感情を高めることがもっぱらの目標になっていましたが、ウェルビーイング理論では構成要素の1つになっています。
エンゲージメント(Engagement)
エンゲージメントとは、フロー状態から得られる「快」の感情です。フロー状態は何かに集中しているときの感覚として使われます。
たとえばパズルに取り組んでいる時は集中しているため「楽しい」という感情は実感できませんが、パズルを解き終わった時、振り返ると「楽しかった」という気持ちが沸き上がります。
このように、「振り返ると充実した時間だった」「素晴らしい体験だった」と思う感情がエンゲージメントです。
関係性(Relationships)
関係性とは、「自分を助けてくれる友人が何人いるか?」というものではなく、他者といかに関係を築けているかに注目します。悩みや楽しみを共有する相手がいたり、自分が手助けをしている人がいたりすると、その人のウェルビーイングは高まります。
意味・意義(Meaning)
意味・意義とは、その名のとおり、人生の意味や意義を指しています。
達成(Achievement)
達成もその名のとおり、ものごとを達成したり、何かに成功したりすることを指しています。
セリグマンは達成(あるいは成功)を以下の理論で説明しています[4]『ポジティブ心理学の挑戦』、215頁。。
- 達成=スキル×努力
ここからは、スキル・努力についてさらに詳しく見ていきましょう。
スキル
セリグマンはスキルを構成する要素として、以下の3つを挙げています。
- 速いこと
- 遅いこと
- 学習率
「速いこと」とは、当人のスキルや知識に依存する、課題を考える速さを意味します。一方「遅いこと」はじっくり考える力を意味しており、たとえば計画の策定や創造的な絵を描くなど、遅い情報処理過程を指します。
「学習速度」はその名のとおり、学習する速度を意味しています。
努力
「努力」とは、ここでは課題に費やす時間を意味しています。継続して課題に集中することができるか否かは、その人の自制心や根気に影響されます。これは近年注目されているやりぬく力・グリット(GRIT)も関係していると考えられております。
グリットについては、下記の記事をご参照ください。
注
↑1 | ウェルビーイング – Wikipedia |
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↑2 | マーティン・セリグマン(著)、宇野カオリ(訳)『ポジティブ心理学の挑戦 “幸福"から“持続的幸福"へ』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2014年、27頁。以下注の中では『ポジティブ心理学の挑戦』と略記。 |
↑3 | 『ポジティブ心理学の挑戦』、29頁。 |
↑4 | 『ポジティブ心理学の挑戦』、215頁。 |