PMBOK第7版と第6版の違いは何か?その特長と内容、長所と短所を解説

2022年7月21日

PMBOKとは何か?

PMBOKとは、“Project Management Body of Knowledge"の頭文字を取ったもので、日本語として発音する時は「ピンボック」と呼ばれます。
PMBOKはプロジェクトマネジメントについての知識を体系的にまとめたもので、1987年にアメリカの非営利団体PMI(Project Management Institute:プロジェクトマネジメント協会)によって制定されました。
はじめてPMBOKが出版されてからも版を重ね、2021年には第7版が世に出ました。この第7版は様々な点で従来のPMBOKの内容と異なるとされています。
今回はこのPMBOK第7版の特長と内容、長所と短所を解説していきます。

PMBOK第7版の特長

第7版は8つのパフォーマンス領域に注目

PMBOK第7版の特長であり、第6版との大きな違いは「パフォーマンス領域」と呼ばれる8つの分野に焦点を当てていることです。
PMBOK第6版は計画とプロセス、つまりプロジェクトの工程に注目しています。これは第6版までのPMBOKがウォーターフォール型に代表される予測型開発アプローチに重きを置いていることが関係しています。

予測型を想定した第6版

予測型ではプロジェクトの初期段階で計画を練り、その計画に沿ってプロジェクトを進めていきます。そのため、第6版までのPMBOKでは綿密な計画と、それを遅滞なく進めるプロセスが重要視されていました。
この予測型の開発アプローチは、ゴールが明確なプロジェクトには向いていますが、未知のゴールを目指すプロジェクトには不向きとされています。
つまり、「会計処理を補助するシステムがほしい」というように、ゴールが明確なプロジェクトには予測型の開発アプローチが費用対効果として優れていますが、「ユーザーが使いやすい会計システムを作る」という未知のゴールに向かうには、予測が難しく、変更も多くなるため、予測型は適していません。

よりアジャイルを意識した構成に

この予測型の開発アプローチでは対応できないプロジェクトに採用されるようになったのが、アジャイル(適応)型の手法です。
アジャイル型ではプロジェクトが変化することを想定し、一定の間隔での計画の見直しや、タスクの割り振りを実施します。PMBOK第7版ではこのアジャイル型の手法を念頭に置いているため、精度の高い計画を策定しようとする第6版から大きく変化し、状況に応じて変化できるよう概念的な知識を提供するようになりました。

8つのパフォーマンス領域

PMBOK第7版の特色である8つのパフォーマンス領域について、簡単に紹介していきましょう。
8つのパフォーマンス領域とは、以下の領域を示しています。

  • ステークホルダー
  • チーム
  • 開発アプローチとライフサイクル
  • 計画
  • プロジェクト作業
  • デリバリー
  • 測定
  • 不確かさ

詳しい内容は他ページに譲りながら、順にこの内容を見ていきましょう。

ステークホルダー・パフォーマンス領域

プロジェクトに関わったり、影響を受けたりする人を「ステークホルダー」と呼びますが、プロジェクトを成功させるにはこれらステークホルダーの協力が不可欠です。
ステークホルダー・パフォーマンス領域では、ステークホルダーと協力して作業したり、連携して良好な関係を築いたりして満足度を高めていきます。

チーム・パフォーマンス領域

プロジェクト・チームのパフォーマンスは、プロジェクト全体に影響を及ぼします。
チーム・パフォーマンス領域では、プロジェクト・マネジャーはチームの経験や習熟度、構造などを加味しながら、チームのパフォーマンスを高めるようにマネジメントしていかなければなりません。

開発アプローチとライフサイクル・パフォーマンス領域

昨今では未知のプロジェクトに対応するためアジャイル開発などの適応型アプローチの必要性が叫ばれています。しかし、アジャイル開発がどのプロジェクトでも高い成果を上げるとは限らず、場合によってはウォーターフォール型開発に代表される予測型アプローチのほうが効果を上げられるということもあります。
どのような開発アプローチやライフサイクルを選ぶかを考えるのが開発アプローチとライフサイクル・パフォーマンス領域です。

計画パフォーマンス領域

計画パフォーマンス領域では、以下に挙げた「計画変数」に注目し、プロジェクトの計画を策定していきます。

  • 開発アプローチ
  • プロジェクトの成果物
  • 組織の要求事項
  • 市場の状況
  • 法律または規制による制限
  • デリバリー
  • 見積り
  • スケジュール
  • 予算
  • プロジェクト・チームの編成と構造
  • コミュニケーション
  • 物的資源
  • 調達
  • 変更
  • メトリックス
  • 整合

プロジェクト作業パフォーマンス領域

プロジェクト作業パフォーマンス領域では、プロジェクトを円滑に進めるために取り組むべき活動がまとめられています。主な活動は以下のとおりです。

  • 現在の作業の流れ、新しい作業の流れ、作業の変更をマネジメントする。
  • プロジェクト・チームが作業に注力し続けるようにする。
  • 効率的なプロジェクトのシステムとプロセスを確立する。
  • ステークホルダーとコミュニケーションをとる。
  • 資材、設備、サプライ、ロジスティックスをマネジメントする。
  • 契約担当者およびベンダーと協力して調達と契約を計画し、マネジメントする。
  • プロジェクトに影響を与えうる変更を監視する。
  • プロジェクトの学習と知識の伝達を可能にする。

デリバリー・パフォーマンス領域

デリバリー・パフォーマンス領域は「プロジェクトでどのような作業・活動をすべきか」を考えるスコープ・マネジメントと、求められる品質の達成を目指す品質マネジメントに取り組みます。

測定パフォーマンス領域

計画パフォーマンス領域など、他のパフォーマンス領域の活動が効果を測定するのが測定パフォーマンス領域です。

不確かさパフォーマンス領域

プロジェクトにはさまざまな不確かさがあります。PMBOK第7版の不確かさパフォーマンス領域では、不確かさをはじめ、以下の予測不可能な状態に注目しています。

  • 不確かさ
  • 曖昧さ
  • 複雑さ
  • 変動性
  • リスク

PMBOK第7版の長所と短所

ここまではPMBOK第7版の内容を見てきました。以上の内容を踏まえて、ここからはPMBOK第7版の長所と短所を考えていきましょう。

PMBOK第7版の長所

PMBOK第7版の長所は、予測型から適応型まで、開発アプローチに共通している重要なことがらをまとめている点です。
上述のとおり、第6版までの予測型の開発アプローチを前提にしたものでした。そのため、適応型の開発アプローチを採用した場合、PMBOKの知識がプロジェクトに合わないということもありました。
しかし、PMBOK第7版では、予測型でも適応型でも使える知識がまとめられているため、開発アプローチによって役に立たないということがなくなりました。

また、第6版に比べ要点が簡潔にまとめられているのもPMBOK第7版の魅力です。PMBOK第6版は日本語版で700ページを超えており、1冊読み切るのはひと苦労です。一方で、PMBOK第7版は約300ページなので、第6版に比べると読みやすくなっています。

PMBOK第7版の短所

第6版から様々な点で改良されているPMBOK第7版の短所は、プロジェクトの具体的な進め方については言及されていないことです。

PMBOK第6版では、プロジェクトを成功に導くための計画策定のプロセスが事細かに記されています。そのため、PMBOK第6版の記述にしたがって策定すれば、精度の高い計画を作成することができます。
しかし、PMBOK第7版では8つのパフォーマンス領域という注目すべきポイントはまとめられているものの、具体的なプロジェクトの進行については語られていません。
そのため、これからプロジェクトマネジメントを学ぼうとする初学者にとっては、イメージしにくいものかもしれません。