ファクトフルネスとは何か?世界を正しく見るために解消すべき10個の思い込みを解説

ファクトフルネスとは

スウェーデンの医師で公衆衛生学者のハンス・ロスリングが「事実に基づいた世界の見方をすること」を指して「ファクトフルネス」と名付けました。
このファクトフルネスは、客観的なデータと事実に基づいた情報を用いて、物事を理解するためのフレームワークともいえます。

彼は人が思い込みやすい事柄を10個挙げ、どう考えれば思い込みから脱することができるのかを本の中で示しています。それでは、次から「世界を正しく見られているか」を確認していきましょう。

分断本能

思い込み影響解消法
世界は分断されていると感じる物事や人々を2つのグループにわけ、それらの間には埋まることのない溝があると思い込み、中間の層の存在を無視してしまう・大半の人がどこにいるのか(分布されているのか)探す
・上からの景色であることに気づく

人には「世界は分断されている」と感じてしまう分断本能があります。たとえば、世界は先進国と途上国に二分されていると感じることが、分断本能に当てはまります。しかし、実際は中間の層の人口が一番多く、分断されていると感じるのは思い込みでしかありません。

ネガティブ本能

思い込影響解消法
世界はどんどん悪くなっていると感じる実際よりも、世界に対して悪いイメージを抱いてしまい、暗い気持ちになる・よいできごとはニュースになりにくいことを知る
・物事が良くなったとしても、知る機会が少ないだけだと気づく
・「悪い」と「良くなっている」は両立することを知る

実際は貧困層は減っており、戦争や紛争の犠牲者も確実に減っています。他にも多くの点で世界は良くなっていることが数値で明らかになっていますが、悪いニュースは広まりやすい性質があるため、悪いできごとが増えているように感じてしまいます。もし悪いニュースを耳にしたら、その「悪い」状態と「良くなっている」という変化が両立することを思い出しましょう。

直線本能

思い込み影響解消法
グラフはすべてまっすぐになると思うグラフはまっすぐになると思い込んでいるため、世界の人口はひたすら増え続けると思ってしまう・直線のグラフの方が少ない(グラフにはさまざまな形がある)ことを知る
・グラフで示されていない部分を不用意に推測しない

子どもの成長が直線的でないように、グラフも直線であるとは限りません。S字カーブを描いたり、倍増したりするデータもたくさん存在します。子どもはずっと同じように成長し続けていくわけではなく、いずれその成長はゆっくりになっていきます。グラフを見る時は、それと同じだと考えましょう。

恐怖本能

思い込み影響解消法
リスクの低いことを「恐ろしい」と考えてしまう実際に起こる可能性の低い飛行機事故やテロを必要以上に警戒し、怯える・恐怖と危険は異なることを知る
・リスクは「危険度」×「頻度」であり、「怖ろしさ」の度合いではないと気づく。
・恐ろしいものには自然と目がいくことに気づく。

人は恐ろしいことに目を向けすぎてしまう性質があります。たとえば、飛行機事故による死亡は全死亡数の0.001%、殺人による死亡は0.7%、テロによる死亡は0.05%にすぎません。しかし、それらは一度起きてしまうとセンセーショナルに報道され、私たちの恐怖をかき立てるので、リスクを過大評価してしまいます。

過大視本能

思い込み影響解消法
目の前の数字が一番重要だと感じてしまうある数字だけを見て「この数字はなんて大きい(小さい)んだ」と思い、ひとつのことのみを重要視してしまう・他の数字と比較する
・割合を見る

2016年、420万人の赤ちゃんが亡くなりました。この数だけ見れば非常にたくさんの赤ちゃんが亡くなったように見えます。しかし、それまでの年と比較してみればどうでしょう。

赤ちゃんの死亡数の推移

1950年 1440万人
 ・
 ・
 ・
2014年 450万人
2015年 440万人
2016年 420万人

毎年亡くなる赤ちゃんの数は、確実に減っていることがわかります。
比較の他に、割合も重要です。量だけを見るのではなく、「ひとりあたり」など割合を見ることで、本質が見えてきます。

パターン化本能

思い込み影響解消法
ひとつの例がすべてに当てはまると考えてしまう実際には異なる物や人、国を一括りにして、同じグループのものはすべて似通っていると考え、グループ全体の特徴を勝手に決めつける・分類を疑う
・自分の常識が世界の常識ではないことに気づく

人はあらゆる物事をパターン化して、すべてに当てはまると考えてしまいがちです。しかし、行動の理由を、国や文化、宗教の違いなのだと考えてしまうのは危険です。たとえば、鉄瓶を火にくべてお湯を沸かす中国の人がいたら、中国の文化だと決めつけてはいけません。それは所得の違いであり、別の方法でお湯を沸かしている人は中国に大勢います。このように同じ集団(国など)の中での違いを見つけると、分類が誤っているのだと気づくことができます。

宿命本能

思い込み影響解消法
すべての物事はあらかじめ決まっていると考えてしまう人や国、宗教、文化の行方は、持って生まれた宿命によって決まると思い、「変わらない(変われない)」と決めつけてしまう・ゆっくりとした変化を意識して感じるようにする
・知識をアップデートする
・祖父母に話を聞く

実際には社会や文化は常に変わり続けているのにもかかわらず、昔も今もこれからもずっと変わらないと思い込んでしまうのが、宿命本能です。社会や文化の変化はゆっくりとした変化です。しかし、年に1%の変化だとしても70年経てば倍になります。まずは変化しているのだということを認め、知識をアップデートしましょう。以前の価値観が現在とは大きく変わっていることを知るために、祖父母に話を聞くことも有効です。

単純化本能

思い込み影響解消法
世界はひとつの切り口で理解できると感じる世の中のあらゆる問題にひとつの原因と解答を当てはめてしまう・ひとつの視点だけで世界を理解することはできないと知る
・数字だけに頼らない
・自分が知らないことを認める

さまざまな角度から問題を見た方が、物事を正確に理解できますが、ひとつの方向から見ただけでわかった気になってしまうことはよくあります。これをよく表わした英語のことわざに「トンカチを持っていると、なんでも釘に見える」というものがあります。ひとつの専門的な知識があるとそれをなににでも当てはめて使いたくなってしまう例です。

また、人には確証バイアスがあり、自分の考え方が正しいことを示す例ばかり集めてしまう性質があります。対立した意見にも目を向け、自分の意見を検証する機会を持ちましょう。

犯人捜し本能

思い込み影響解消法
誰かを責めれば物事は解決すると思ってしまうなにかが起こった時に、それを誰かのせいにしてしまう・犯人ではなく原因を探す

悪いことが起こった時に、犯人を探してしまうのは人間の悪い癖です。犯人が見つかったからといって、物事は解決しません。物事を解決するためには、起きてしまったことの原因やシステムに目を向けて、どうしてそれが起きたのかを考えるようにすべきです。反対によいことが起きた時にも、私たちは誰かひとりの功績にしてしまうことがあります。そういう時、その人がなにもしなくても、いずれ同じことが起きる可能性はないかと考え、一度立ち止まって社会の仕組みに目を向けましょう。

焦り本能

思い込み影響解消法
今やらなければ取り返しがつかないと焦ってしまう今決定する必要がないのに、焦って判断してしまう・今すぐ決めなければならないことは、めったにないと気づく
・データを見る

一旦焦り本能に支配されてしまうと、思考が停止してしまい、冷静に判断することができなくなってしまいます。これは販売などでもよく利用されています。「本日限定!」「今だけ」といった言葉で「今買わないと手に入らない」「次はない」と購入決定を急かされ、正常に判断できずに行動(購入)してしまいます。今すぐ決めるように急かされると、人は批判的に考えられなくなってしまうことを利用した手法です。今すぐに決めなければならないことは、めったにありません。もしそう感じたら「焦り本能」に支配されているのだと思い、深呼吸しましょう。

参考

  • ハンス・ロスリング(著)、オーラ・ロスリング(著)、アンナ・ロスリング・ロンランド(著)、上杉周作 (翻訳)『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』日経BP、2019年