ベネフィット・プラン(便益計画)とは何か?

2023年2月8日

ベネフィット・プランとは

ベネフィット・プラン(Benefits plan)とは、プロジェクトによって得られる便益を特定し、その便益がいつ提供されるかを説明する計画のことです。ベネフィット・マネジメント・プラン(Benefits management plan)と呼ばれることもあります。
ベネフィット・プランを作成することにより、成果物から便益にプロジェクトの焦点を移すことができ、プロジェクトの便益の可視性と、それらを確実に実現するための説明責任を明らかにすることができます。

なぜベネフィット・プランは必要なのか?

従来、プロジェクトマネジメントは成果物に基づいて計画を立てることに重点を置いてきました。
たとえば「Webサイトをリニューアルする」「自社のアプリを作る」というように、プロジェクトは「何をするのか」で語られてきました。

また、「プロジェクトによってどのような効果が得られるのか?」という便益については、プロジェクトのスポンサーや発起人が責任を負い、プロジェクト・マネジャーは関与しないことが一般的でした。

しかし、近年ではプロジェクトマネジメントの専門家であるアントニオ・ニエト・ロドリゲス(Antonio Nieto-Rodriguez)がプロジェクトの便益の重要性を強調し、プロジェクト・マネジャーも便益の実現に協力すべきだとしています。
そのアントニオが著書"Harvard Business Review Project Management Handbook: How to Launch, Lead, and Sponsor Successful Projects"の中で紹介しているのがベネフィット・プランです。

ベネフィット・プランの作成

ベネフィット・プランはビジネス・ケースとベネフィット・カードをもとに作成していきます。

ビジネス・ケース

ビジネス・ケースとは組織の戦略や課題の解決策として採用されたプロジェクトが妥当なものかを判断するための資料のことです。
ビジネス・ケースには、主に以下の内容が記載されています[1]PMBOK第6版、31~32頁

  • ビジネス・ニーズ
  • 状況分析
  • 推奨
  • 評価

つまり、プロジェクトで完成させようとしている成果物にはどのようなニーズがあり、その判断はどのような状況分析から来たもので、推奨される選択肢にはどのようなものがあり、それらの選択肢をどのように評価したのかがビジネス・ケースにはまとめられています。

このビジネス・ケースについては、下記の記事もご参照ください。

ベネフィット・カード

ベネフィット・カードは、プロジェクトのスポンサーとプロジェクト・マネジャーが、プロジェクトの主要な便益とインパクトを特定するのを助けるチェックリストです。

ベネフィット・カードには、プロジェクトで得られる主要な便益とその概要、具体例と効果を測定する際の指標が書かれています。

便益概要測定
収益の増加新製品
新サービス
新しいチャネル
買収
拡張
その他
売上の増加
サブスクリプションの増加
より高い価格帯
マージンの増加
パーセンテージ、財務
コストの削減オートメーション
テクノロジー
冗長性
組織再編
アウトソーシング
その他
正社員の抑制
プロセスの高速化
精度の向上
不正行為の減少
正社員の人数、財務
生産性の向上能率向上
生産力の向上
自動化
テクノロジー
債務削減
品質向上
その他
生産量の増加
より大きなマージン
無駄の削減
手戻りの減少
顧客対応の向上
パーセンテージ
ベネフィット・カードの一例

ベネフィット・カードは、たとえば「自社のアプリを作る」というように「プロジェクトで何をするのか」だけを考えるのではなく、「新規顧客1,000人の取り込みによる収益増加」や「無駄の削減による生産性の向上」という便益を考えることをサポートし、その効果を追うためにどのような指標を見ればよいのかを示してくれます。

ベネフィット・カードについては、下記の記事もご参照ください。

便益の分類とスケジュールの策定、責任者の特定

ビジネス・ケースやベネフィット・カードでプロジェクトに期待される便益と指標が明らかになったら、それらの情報をベネフィット・プランとしてまとめていきます。

便益は「月間アクセス数10万ユーザー」「新規登録者1万件」など、定量化できるマイルストーン(小目標)に分類していきます。
各マイルストーンには、それを提供する責任を負う人物が必要です。誰がその便益の実現に責任を持つのかを、ベネフィット・プランに明記します。

また、便益がどのタイミングで発生すると予想されるのかも記述します。
一部の便益は、プロジェクトが完了してから長期間にわたって提供されます。そのため、ベネフィット・プランはプロジェクト後の局面もカバーしている必要があります。
細分化された便益の各マイルストーンの責任者は、プロジェクト完了後も、自身が責任を持つ便益が実現されるかを追跡し続けなければなりません。

参考

書籍

  • Antonio Nieto-Rodriguez, Harvard Business Review Project Management Handbook: How to Launch, Lead, and Sponsor Successful Projects Harvard Business Review Press, 2021.

Webページ

1PMBOK第6版、31~32頁