ピーク・エンドの法則とは何か?マーケティングやUX設計で使える心理的ヒューリスティックを解説
ピーク・エンドの法則とは
ピーク・エンドの法則(Peak-end Rule)とは、ある出来事を経験した際に感情が最高潮になった時(ピーク)の印象と、その出来事の最後(エンド)の印象によってその経験を評価・記憶するという心理的ヒューリスティック(先入観や経験に基づく思考法)のことです。
この法則はノーベル経済学賞を受賞した心理学者・行動経済学者であるダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)によって提唱されました。
ピーク・エンドの法則の発見
大腸内視鏡検査の実験
ピーク・エンドの法則は、ダニエル・カーネマンと医師のドナルド・レデルマイヤーの実験から生まれました[1]ダニエル・カーネマン(著)、村井章子(翻訳)『ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか?』早川書房、2014年、264~266頁。。
この実験では、大腸内視鏡検査を受ける患者154名に、時間の経過とともに苦痛の強さを10段階で評価してもらいました。
最終的に、検査を受けた患者には「検査を受けた苦痛の総量」を評価してもらいました。
実験の結果 ~どちらの患者のほうが苦痛を感じたか?~
大腸内視鏡検査は苦痛を伴う検査であることが知られています。
その検査の中で、参考画像1のような2人の患者がいたとします。患者Aさんの検査時間は8分、患者Bさんは16分かかりました。
一見すると、感じた苦痛の総量は患者Bさんのほうが患者Aさんのほうが多くなりそうですが、患者Aさんのほうが苦痛の総量を大きく感じました。
得られた結論
先ほどの患者Aさんと患者Bさんのようなケースは特殊なものではなく、実験の傾向として見られました。
この実験結果から、ダニエル・カーネマンは以下の結論を導き出しました。
- ピーク・エンドの法則
記憶に基づく評価は、ピーク時と終了時の苦痛の平均でほとんど決まる - 持続時間の無視
検査の持続時間は、苦痛の総量の評価にはほとんど影響をおよぼさない
つまり、先ほどの患者Aさんは、検査時間自体は患者Bさんよりも短かったものの、検査の終わりに大きな苦痛を感じていたため、苦痛の総量を大きく評価しました。
一方で、患者Bさんは検査の時間が長かったために、データから見る苦痛の総量は大きそうに見えますが、検査の終わりの苦痛が小さかったため、苦痛の総量を小さく評価しました。
ピーク・エンドの法則の活用と効果
これまで見てきたように、ピーク・エンドの法則はもともと苦痛に関する実験でしたが、今日ではマーケティングやUX設計などの様々な分野で活用されています。
サービス戦略を組み立てる際にはピーク時と終了時を意識することがポイントです。
ユーザーや顧客がサービスや商品を体験する際に、感情のピーク時と終了時に記憶に残りやすい良い印象を提供できれば、そのサービス・商品は良いものとして記憶されます。
途中で悪い印象を持たれたとしても、ピーク時と終了時でなければ体験全体としてはマイナスイメージにはなりません。
また、サービスを改善する際は、ユーザーが悪い印象を持ったピーク部分を特定してマイナス要素を軽減させ、良い印象のピークを際立たせるようにすることでサービス全体のイメージを向上できます。
このようにして全体のイメージが良くなり顧客満足度が上がれば、リピートしてくれる顧客の増加が期待できます。
ビジネスにおけるピーク・エンドの法則の具体例
IKEAのビストロ
組み立て家具を販売するIKEAは、ピーク・エンドの法則を利用した店舗設計を行っています。
IKEAではレジ前にビストロを設置しています。このビストロは、買い物を終えるタイミングでの経験に着目して設置されたものです。
顧客は広い店内を歩き回った最後に広い倉庫から自ら商品を探し出してお金を支払うという、顧客志向とは離れた体験をして買い物を終えようとしています。
しかしながら、会計を終えて帰宅する後に低価格でアイスクリームなどの軽食を楽しむことで直前のネガティブな印象が払拭されます。
良い商品を選べたというピーク時の印象と相まって、良いショッピング体験だったと記憶されるようになります。
ウォルマートのグリーター(挨拶係)
ウォルマート店舗の入口には顧客に対して「こんにちは」「さようなら」と挨拶するグリーター(Greeter)がいました。
顧客は買い物の最初(入店時)と最後(退店時)にグリーターに挨拶されることによって自分が歓迎されているという印象を持ちました。
また、出入り口のセンサーが作動した際にはグリーターが顧客に声をかけてレジ係の処理のミスをお詫びすることもありました。
グリーターの一言によって、退店(エンド)する顧客にとって不愉快な事態も良い印象へと変わりました。
現在、グリーターはカスタマーホスト(Customer Hosts)という職に置き換えられていますが、どちらも顧客の感情的なピークとエンドに大きな影響を与えてきたといえます。
UXにおけるピーク・エンドの法則の具体例
Webサイトやアプリをデザインする際には、ユーザーの感情のピークとエンドに注意を払って設計することでユーザーエクスペリエンスを向上させられます。
例えば、インタラクションの最後に明るい色やアイコン、イラストを表示するとユーザーに良い印象を与えることが可能です。
Duolingo
言語学習アプリであるDuolingoは、ゲーム性を持たせたアプリです。
会話型インターフェイスには遊び心のあるキャラクターが登場します。
キャラクターはレッスンごとに学習者であるユーザーを励ましたり、学習の成果を称えます。
ユーザーは学習が継続できるよう動機付けされることで、アプリに対しても肯定的な印象を持ちます。
ドミノピザ
ドミノピザのアプリではピザの調理工程から配達員の位置情報までをリアルタイムで確認できます。
商品が届くまでの待ち時間はユーザーがネガティブな感情に陥りやすい状況です。
アプリでは待ち時間を把握でき視覚的に楽しめるようにすることで、ネガティブな感情がピークにならないようにしています。
参考
書籍
- ダニエル・カーネマン(著)、村井章子(翻訳)『ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか?』早川書房、2014年。
Webページ
- 3 Ways IKEA and Walmart Use Psychology(2023年1月31日閲覧)
- The Peak–End Rule: How Impressions Become Memories(2023年1月31日閲覧)
- ピークエンドの法則:用語集 | UX TIMES(2023年1月31日閲覧)
注
↑1 | ダニエル・カーネマン(著)、村井章子(翻訳)『ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか?』早川書房、2014年、264~266頁。 |
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