プロジェクト・ビジネス・ケースとは何か?その作成方法と主要要素を解説
プロジェクト・ビジネス・ケースとは
プロジェクト・ビジネス・ケース(以下、ビジネス・ケースと略記)とは、プロジェクトまたはプログラムを実施するための正当な理由を提供する文書のことです。
プロジェクトを開始した後も、プロジェクトを継続させるか中止させるかの判断を行う際にも決定材料となる文書です。
PMBOKでのビジネス・ケースの定義
PMBOKでは「ビジネス・ケース」を以下のように定義しています。
文書化された経済的な実現可能性調査。十分な定義がないまま選ばれたソリューション・コンポーネントのベネフィットの妥当性を確立するために使用される。また、さらなるプロジェクトマネジメント活動を認可するための基盤として使用される[1] PMBOK第6版、725頁。 。
日本語版では唐突に一般的ではない横文字が入り、読解が難しいですが、「ソリューション・コンポーネント」とはシンプルに「解決策」とか「解決案」とかの言葉で言い換えてもよいでしょう[2]PMBOK第6版、725頁の英文を読む限り、"ソリューション"にあたる単語はないため、日本語訳の際に加えられたものと思われる。。解決策とは、これから始めようとしているプロジェクトのことです。
例えば「人手不足」という組織の課題に対して、「Webサイトの採用ページのデザインを刷新する」というようなソリューション・コンポーネント(解決策)が複数でてきたとします。この中から本当に実施するかどうか、実施するとしても何を判断軸に進行していくのかを定めたものがビジネス・ケースです。
要するに、ビジネス・ケースとは組織の戦略や課題の解決策として採用されたプロジェクトが妥当なものかを判断するための資料だということです。
ビジネス・ケースに記述する内容
ビジネス・ケースに記述する内容として、PMBOKでは以下の内容を掲載しています[3]PMBOK第6版、31~32頁。
- ビジネス・ニーズ
- 状況分析
- 推奨
- 評価
以下、これらの内容について詳しく見ていきましょう。
ビジネス・ニーズ
ビジネス・ニーズでは開始しようとするプロジェクトのニーズ(需要)を記述していき、「なぜこのプロジェクトを進める必要があるのか?」を具体的にしていきます。
ビジネス・ニーズと一口にいっても、以下のようにいくつかの種類があります[4]PMBOK第6版、78頁。。
- 市場の需要
- 組織のニーズ
- 顧客要求
市場の需要とは、経済を広くとらえた時に見られるもので、例えばガソリン不足の時の低燃費車のようなものです。
一方、組織のニーズとは、所属している組織からの要望で、「会計管理システムが老朽化しているから刷新したい」というような声です。
そして、顧客要求は顧客から寄せられたリクエストで、「○○の機能が使いにくいから改善してほしい」というような声です。
状況分析
状況分析では組織の戦略や目的などを明らかにし、問題の根本原因や機会を明らかにしていきます。
例えばSWOT分析を行い、組織の強みや機会をどのように活かしていくか、弱みや脅威に対してどう対処していくかを考え、プロジェクトを開始させる妥当性を考えていきます。
考慮する項目としては、以下のようなものが挙げられます [5]PMBOK第6版、78頁。。
- 技術的進歩
- 法的要件
- 生態系への影響
- 社会的ニーズ
推奨
ビジネス・ケースの推奨の部分では、推奨される選択肢を記述していきます。
例えば、業務効率化のために何かしらITシステムを導入しようという話になった際は、開発業者を選定し、システム構築を発注することもできますが、市販されている既成のパッケージ製品を導入することもできます。こうした選択肢に対し、何が推奨されるものなのかを分析結果とともに明示していきます。
評価
ビジネス・ケースの評価では、プロジェクトがもたらす利益・便益を測定するための計画を明らかにしていきます。
ビジネス・ケースの「推奨」の項で推奨している選択肢が短期的に、長期的にもたらす利益・便益に対して、どのように計測して把握していくのかを計画していきます。