従業員に「明日から来なくていい」と言ってしまったら?その意味別に法律上の仕組みを解説

はじめに

何らかの理由で、部下や従業員に「明日から来なくていい」と言ってしまったというケースに遭遇した場合、どうすればいいのでしょうか。
これについては、どういった意味で「明日から来なくていい」と言ったのかによって、対応が異なってきます。

今回は従業員に「明日から来なくていい」と言ってしまった後の対応を、意味別に考えていきましょう。

「解雇」の意味で言った場合

いわゆる「おまえはクビだ!」という意味で言った場合を考えてみます。

解雇するには解雇予告か解雇予告手当が必要

原則、会社側が労働者を解雇しようとする場合には、少なくとも30日前にその予告をしなければなりません
30日前に予告をしない場合は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならないとされています。

この解雇予告手当の支払いは、解雇の申渡しと同時に、通貨で直接支払いを行うべきとされています。
つまり、「明日から来なくていい」と言ったタイミングで、30日分以上の平均賃金をその従業員に支払っていれば、労働基準法には抵触しないことになります。

解雇予告もせず、解雇予告手当も支払っていない場合

ただやはり、実際にしばしば耳にするのは、解雇予告もせず、解雇予告手当も支払わずに「明日から来なくていい」と言ってしまった(即時解雇を通告した)というケースでしょう。

このような場合は「即時解雇としては無効である」とされていながらも、「使用者に解雇する意思があり、必ずしも即時解雇であることを要件としていないと認められる場合には、その即時解雇の通知は、法定の最短期間である30日経過後に解雇する旨の予告として効力を有する(S24.5.13基収1483号通達)」とされています。

また、最高裁も同様の立場であり、「労働基準法20条違反の解雇(=解雇予告も解雇予告手当もない解雇宣告)は即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、解雇の通知後、30日の期間の経過後から又は解雇の通知後、解雇予告手当の支払いがあった時から解雇の効力が生じる(最二小S35.3.11細谷服装事件。)」としています。

つまり、解雇予告もせず、解雇予告手当も支払わずに「明日から来なくていい」と言ってしまったら、「言った日の30日後に解雇する」という解雇予告がされたと捉えられることになります。

それでも裁判になる可能性は残る

労働基準法に抵触しない形で解雇や解雇予告を行ったとしても、その解雇自体が「不当解雇である」として従業員側から裁判を起こされる可能性は残ります。
解雇は、会社側がいつでも自由に行えるというものではなく、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、労働者をやめさせることはできません(労働契約法第16条)。

また、「明日から来なくていい」という発言自体が「パワハラ」として訴えられる可能性もあります。
「明日から来なくていい」という発言は細心の注意を払って行うべきでしょう。

「休業」の意味で言った場合

さきほどの解雇の意味とは異なり、休業、すなわち自宅待機を促す意味で「明日から来なくていい」と言った場合を考えてみます。
ケースとしては、会社の経営が大きく傾いており、従業員に与えられる仕事がなくなってしまったような状態が考えられます。

会社側に原因がある場合は、休業手当金の支払いが必要

使用者には労働者の生活保障が義務付けられています。
そのため、労働基準法では「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は休業期間中、当該労働者にその平均賃金の100分の60以上の手当金を支払わなければならない」とされています。

材料不足、輸出不振、資金難、不況などの経営障害のために労働者に休業を命じる場合は、働かなかった日について平均賃金の60%以上の手当金を労働者に支払わなければなりません。
一方、天災地変やロックアウトなど、不可抗力による会社の休業は、使用者の責めに帰すべき事由とはされないので、休業手当金を支払う必要はありません。

「休職」の意味で言った場合

従業員の「休職」を促す意味で、「明日から来なくていい」と言った場合を考えてみます。
その従業員が私傷病などの事由によってメンタルや体調を大きく崩しているように見え、会社側が「少し休んだ方がいい」と感じたようなケースが考えられます。

会社の就業規則に休職に関する規定が記載されているか

休職は、法律上、制度として設けることが会社に義務付けられていません。休職制度を設けるかどうかや休職制度の内容(休職事由や休職期間など)は、会社の判断によって定めることができます。また、会社は休職期間中の賃金は無給としても問題ありません。
また休職制度がある場合は、会社の就業規則にその旨を記載しておく必要があります。

休職制度を利用して休職する場合、会社からは賃金が支払われなくても、健康保険から「傷病手当金」を受け取ることができます。傷病手当金は休んだ日について、平均賃金の約3分の2が従業員に支給されます。

一方、就業規則に休職制度がない場合は、従業員が病気で仕事ができなくなった場合、原則的には解雇できることになります。

まとめ

このように「明日から来なくていい」と言った場合においても、解雇か休業か休職かによって、その後の手続きが異なってきます。
どういった意味で「来なくていい」のか、会社側も労働者側にもしっかりと共通認識を持って対応することが重要です。

参考

書籍

  • TAC社会保険労務士講座『みんなが欲しかった! 社労士の教科書 2023年度』TAC出版、2022年 

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