共有地の悲劇とは何か?起こるメカニズムと対策を解説

共有地の悲劇とは

共有地の悲劇とは個人的な利益を優先することで、過剰に利用してしまい、共有の資源が損なわれ、資源の破壊や枯渇が引き起こされることを意味します。

この概念は、1968年にアメリカの生態学者であるギャレット・ハーディンが提唱したものです。有名な論文の中で彼は、共有の牧草地を例にとり、説明しています。

共有地の牧草地で牛飼いたちは、それぞれ自分の利益のために牛を増やそうとします。彼らが牛を増やすことで、共有地の牧草地は過放牧となり、餌となる草はどんどん減っていきます。
本来なら草は時間をかけて再生しますが、牛が増えすぎたことで、草の再生できる範囲をこえて食いつくされてしまいます。
限界のある資源は失われ、利益を得るために牛を増やしたはずが、その共有地を利用していた牛飼い全員が破滅へと向かうことになります。

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今回の共有地の悲劇は、システム思考の中で「システムの失敗」の例として紹介されることが多くあります。
システム思考については下記の記事もご参照ください。

起こるメカニズム

ここでは、漁業を例にとって考えてみましょう。

  • 1.共有の資源・・・海には魚という共有の資源があります。
  • 2.資源の利用・・・漁師が魚をとります。
  • 3.利益追求・・・漁師たちは自らの利益を得るために、魚を多くとれるように工夫し、どんどん魚をとります。
  • 4.競争の発生・・・漁師たちはそれぞれ限られた資源の中で、自分たちの利益を求め、競争が生まれます。
  • 5.過剰利用・・・競争が発生したことにより、資源が過剰に利用されてしまいます。

このように個々が利益を追求することにより、資源を破壊したり、環境を悪化させてしまったりして、結局自分たちの首を絞めてしまいます。最初は利益を直接的に得られるため良いのですが、これを続けることによって過剰利用となり、悪循環が生まれ、自己強化型フィードバックループにはまってしまいます。
その結果、共有地が破壊されてしまうのに、それを途中で止められない理由は、共有資源の利用量に対するフィードバックが弱いためです。
人は、「今利益を得られるのに、自分が止める必要はない」と考えます。つまり、止めるべき合理的理由がないために、悪循環が続き、共有地が破壊されてしまいます。

もう少し身近な例で考えてみましょう。多くの場合、スーパーで買った肉や魚の入った食品トレーは、洗ってリサイクル回収の箱に入れることができます。しかし、洗うのが面倒なこともあり、そのまま燃えるゴミとして捨てられることもあります。プラスチックの焼却で大気汚染につながることや、焼却された灰が埋め立てられることを考慮すると、限りある資源が損なわれているとわかります。
しかし、将来的な環境破壊や、国または世界的な規模の利益といったことは、想像しにくいものです。わかるのは、今、汚れたトレーが目の前にあり、「一刻も早くそれを目に見えないところへ捨ててしまいたい」という気持ちです。

回避するための方法

この悲劇を回避するための方法は、3つあります。次から1つずつ詳しく見ていきましょう。

勧告する

共有地を過剰に使用するとどうなるか、その結果を皆にわかるように伝えます。将来の結果を想像できず、止める合理的理由がなかったために、過剰に使用していた人たちのモラルへ訴えかけます。違反する人には、社会的に非難し、道徳的な観点から利用を抑えるように促します。つまり、「マナーを守りましょう」ということです。

共有地の私有化

これまで共有だったものを分割し、私有化します。こうすることで、資源を利用してもしなくてもその結果が、自分だけに返ってきます。資源の状態とその利用者に、直接的なフィードバックの関係ができます。過剰に利用すれば自分にとってマイナスになるため、止める合理的理由が生まれます。
しかし、この方法にはひとつ欠点があります。世の中には、私有化できないものが数多くあります。たとえば、空気や、漁業で例に挙げた海の魚といった資源です。これらは、私有化できません。そのような場合には、相互強制が必要です。次の項目で詳しく説明します。

共有地の規制

たとえば、交通量の多い道路の交差点を想像してみてください。道路は、信号で規制がなされ、相互強制によって安全に通れます。もし信号がなく、誰もが自由に通って良いのであれば、たちまち混乱が生まれるでしょう。
こういった規制には、許可制や課税などの種類があります。この方法は、資源の状態とその利用者の間に、規制を行う国や機関などが間に入り、間接的なフィードバックの関係をつくるものです。この方法を使う場合は、規制する機関などが、共有物についてきちんとした知識を持ち、管理できること、そのコミュニティーをより良くできるよう考えられることが重要です。

まとめ

世の中には、しばしば利用者が自分の利益を優先するあまり、利用者全体へマイナスの影響を与えてしまうことがあります。将来の想像ができず目先の利益に捉われてしまうと、このような悲劇を引き起こしてしまいます。
だからこそ、過剰に利用し続けるとどうなるかという将来の結果を見えるようにして、フィードバックの関係をつくることが大事であり、解決策となります。

参考

  • ドネラ・H・メドウズ (著)、小田理一郎 (解説)、枝廣淳子 (翻訳)『世界はシステムで動く ―― いま起きていることの本質をつかむ考え方 』英治出版、2015年