ビジネスにおけるトラクションとは何か?スタートアップが理解すべき指標をトラクションファーストとともに解説
トラクションの概要
ビジネスで使われる「トラクション」とは、ビジネスモデルの成長を予測できる指標を指します。トラクションは新しいビジネスや製品が市場でどれだけの関心や支持を集めているかを示します。
“traction"は「牽引力」と訳されますが、その名のとおり、トラクションはビジネスの成長を牽引する力や、成長の兆し、予兆ともいえるでしょう。
トラクションの具体例には以下のようなものがあります。
- スマートフォンアプリのダウンロード数
スマートフォンアプリを開発した場合、アプリのダウンロード数がトラクションのひとつです。多くのユーザーがアプリをダウンロードし利用することで、アプリの人気と関心を示すトラクションが獲得できます。 - Webサイトの訪問者数
オンラインショップや情報サイトの場合、訪問者数がトラクションのひとつです。多くの人々がサイトを訪れることで、サイトへの関心や収益の可能性を示すトラクションが得られます。 - ソーシャルメディアのフォロワー数
企業やブランドがソーシャルメディアを活用する際、フォロワー数が重要なトラクションです。多くの人々がアカウントをフォローすることで、影響力や関心を示すトラクションが生まれます。
このように、トラクションはビジネスモデルの重要な指標です。
トラクションと収益・利益との違い
会社の成長を測る指標として、収益や利益が使われることもありますが、収益や利益はトラクションではありません。ここからは、トラクションと収益・利益との違いを解説していきます。
収益や利益は会社の成長の「遅行指標」、トラクションは「先行指標」と呼ばれます。
たとえば、FacebookやX(旧Twitter)のようなSNSの多くは、企業が広告を出すことで収益を得ています。そのため、企業が「広告を出したい」と思うまで収益は望めず、SNSの運用費を回収できるまでには時間がかかります。
つまり、収益や利益は、ビジネスが成長した後に上昇していきます。
一方、SNSでは往々にして登録者数がトラクションに選ばれます。
成長が見込めるSNSは、リリースされた後、登録者が増えていきます。多くの登録者がいるからといって利益が出ているとは限りませんが、そのSNSが今後成長することが期待できます。
このように、トラクションはビジネスが成長する前に上昇していきます。
トラクションファースト
トラクションファーストとは何か?
これまで見てきたように、トラクションはビジネスの成長を占う重要な指標です。
起業する人が多い現代では、このトラクションの獲得を優先するというトラクションファーストの考え方が重要です。
トラクションファーストで起業する場合は、具体的な成果物よりも、まずは市場での受け入れや関心を集めることをビジネスやプロジェクトの目標にします。
なぜトラクションファーストが必要なのか?
起業家が増えた現代では、競合が多くなるため、自身が持つ新しいビジネスを目立たせることが難しくなりました。
そのため、投資家や顧客も「どの製品やサービスを使うか」という選択肢が増えています。
以前は実用最小限の製品(MVP)を生み出し、出資を仰ぐという手法がとられていましたが、これでも競合に先を越されてしまうかもしれません。
そのため、製品がいま手元になくても、「事前登録者数」などをトラクションに設定し、そのトラクションを獲得することで、投資家に自身のビジネスの成長性をアピールすることができます。
トラクションが獲得できているということは、ターゲットとしている顧客が製品やサービスを求めているという状況を示しています。
そのため、トラクションは出資を受けやすくするだけでなく、自身のビジネスモデルの確認にもつながります。
多くの人が起業を目指す現代では、トラクションファーストは必須の考え方です。
参考
- Ash Maurya(著)、角 征典(翻訳)『Running Lean[第三版]―リーンキャンバスから始める継続的イノベーションフレームワーク』オライリー・ジャパン、2023年